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深夜特急に乗って、生きててよかったと思えた夜が確かにあった | 椋本湧也「26歳計画」 | 読書健康手帳004

最近、『読書健康手帳』という名前で、読書の記録をまとめています。今回は、久々に自分の原体験として残る本、『26歳計画』との出会いを紹介したいと思います。ただ、その前に、このマガジンの企画について少しだけ説明させてください。

実は、この『読書健康手帳』がどんなものなのか、これまで一度も説明したことがありませんでした。


道半ばの人間が綴る、リアリティある読書体験の記録―『読書健康手帳』


筆者は2000年生まれ(note執筆時点で24歳)。大学卒業後に2年ほど会社員をしていましたが、まあ、いろいろあってフリーランスに転向しました。

本を読む時間が増えたのはそのタイミングで、同時に会社で守られていた国民年金や国民健康保険といった雑多な支払いが、自分の肩にのしかかってきた時期でもありました。そんな状況の中で、「本を読むと精神的に健康になる気がする」と感じたことが、この企画の始まりです。その勢いで、『読書健康手帳』という、特にセンスも特別感もユーモアもない真面目なタイトルを「とりあえず」つけてみました。

形なんてどうだっていいから、とりあえず続けよう、そんな気持ちでシリーズナンバーを「3桁」に設定して、時間をかけても「100冊」続けられたらいいなと思いながら始めたのです。

これまでを振り返ると、「やります宣言」をしていたものは案外続いているので、ここでも宣言しておきます。いつまで続くかは分かりませんが、この読書記録をできる限り紡いでいきたいと思っています。

思い悩んでいた時期に友人から勧めてもらった『26歳計画』

それにしても、真面目で、努力して、一生懸命に夢を追いかける人ほど、思い通りにいかないことが多いものです。そして、みんな訳アリだと思います。自分が訳アリの当事者になって初めて、人に「そんなこともあるよね~」と言える優しさが持てた気がします。

大切にしたい価値観を守るために、結果的に会社員を辞めることになるのは致し方なかったし、これまで何度も「レール」から外れてきたつもりではあります。でも、「道外れ」はやっぱり怖い。標識のない山道を歩くことを想像すれば、その恐怖は分かるはずです。道を切り開くってロマンもあるけど、怖いものは怖い。だから不安も多いわけで、台湾ビールを片手に、隣人に悩み相談をすることもあります。

そんなとき、お世話になっている写真家の平末健人さんにおすすめされた本が『26歳計画』です。ちなみに、平末さんは、萬壽洸樹さんと組んで『calm』というデュオで活動している写真家でもあります。

写真家の平末健人

(写真家である平末健人さんと萬壽洸樹さんが組んでいるデュエット『calm』のコンテンツ)

(『26歳計画』の作者、椋本湧也さんのnote)

26歳、それは旅の適齢期である

深夜特急』の著者、沢木耕太郎さんがユーラシア大陸を横断する旅に出て、列車に揺れる夜を「カタン、コトン、カタン、コトン」と過ごしたのが26歳の時だったそうです。椋本さんのnoteでも言及されていますが、「旅の適齢期」として、「26歳」という年齢には何か、特別な響きを感じていたようです。

この本の内容を軽く要約すると、未知の病原体で人類の危機とも思えた新型コロナウイルスが蔓延していた2021年8月に発行された、26歳の若者48名によるリレー式エッセイ集です。椋本さんが声をかけて、寄稿してもらったものだそうです。この本を成立させるために決められたルールは2つ。①コロナ禍であること、②26歳であること。この2つの条件が揃わなければ生まれなかった本です。

『26歳計画』

それにしても、26歳というのは条件として絶妙な年齢です。すでに学生ではないので夢だけを語ることはできない一方で、社会の因習にどっぷり浸かっているわけでもない。モヤモヤしながらも道半ばにいる年齢が、26歳だったりすることが多いのかもしれません。

登場する48名は、それぞれ住んでいる場所、置かれている環境、抱えている葛藤、つながっている人たちなど、バックグラウンドがバラバラです。それがまた、この本をユニークなものにしているのでしょう。

この本には、住んでいる場所もバックグラウンドも全く異なる48人が集まっています。しかしそれに「26歳」という補助線を引き、各々が自ら物語ることによって、赤の他人が書いた文章であるにも関わらず、言葉と言葉の隙間に自分の断片を見つけられる気がする。見知らぬ誰かの物語が鏡のように反射して、自分自身の奥底に潜んでいた物語が照らし出されるような気がするのです。

椋本湧也『26歳計画』

登場する人々の瞳はどれも輝いていますが、文章を寄稿しているタイミングでいわゆる世間的に「輝いている」と言われるキャリアを歩んでいる人ばかりではありません。むしろ、そんな人は少数派なのかもしれない。それがまた、この本の魅力だと感じました。多様な人々を包み込むような、インクルーシブな編集方針だなと思います。それぞれが「自分の言葉」で寄稿している姿勢も素敵です。

出発点に立ち直った人もいれば、道半ばで愚直に頑張っている人、まだ暗闇を彷徨っている人もいます。きっとそれぞれパーソナリティもバラバラでしょう。

そんな人々が一冊の本に紡がれ、一人ひとりに自分から心の声をかけたくなる。「そんな悩みあるよね、わかるぅ」とか、「思い切って踏み込みましたね~応援しています」とか。別に人生相談のような重い話題に限らず、「私も朝に飲むコーヒーが好きです!」なんていう、くだらないけど愛おしい日常話もある。

ふと思い出した、深夜高速での旅

椋本さんがnoteで書かれていた「赤の他人が書いた文章なのに、言葉と言葉の隙間に自分の断片を見つけられる気がする」という一節。私も、「24歳」という自分自身に置き換えて考えました。『深夜特急』ではないですが、深夜のフライトに乗って初めてニューヨークを訪れた16歳の頃を思い出します。そこから、「発見」という体験が好きになり、気が付けば、地球をところどころ抜けながらも一周に近い形で旅してきました。

しかし、いつしかそれが「発見」ではなく、何かからの「逃避」、エスケープだったことに気づきました。日々の不条理から離れて、旅先で地に足をつけたときに、「私は一人だけど寂しくはない」と思えた。孤独が心地よかったのです。

ああ、そんな感覚をくれたのは、18歳のときにラオスで乗った「深夜高速」だったかもしれません。一緒に旅をしていた女の子とコーヒーを淹れ、その後バスの中で隣り合わせに眠りました。そのとき、彼女が教えてくれた曲の歌詞が今も忘れられません。「生きててよかった、そんな夜を探している。」たぶん、旅は生きづらさからの逃避だったのかもしれません。でも、そこに救いもあったのです。

2018年、ラオスで

そう考えたら、「24歳の今」そんな旅はしなくなりました。物理的にあっちこっちと飛び回ることはあっても、どちらかというと道半ばにきちんと立ってる感覚はある。おそらく数々の旅を経て「生きててよかった」と想えた夜がときどきあったのかもしれない。稀にひどく楽しい夜があったり。そんなことがこの先もあると思えました。


26歳計画

誰かの「26歳」を隙間見ることによって、場所もバックグラウンドも違えども、ともに道を歩いている、ただ一緒に道を歩いている人たちが、街中にはいる。そんなことを想えました。それだけで、もう満員電車はそれほど怖くはなくなり、むしろ、彼らのマラソンのペースメーカーに自分自身もなりたい、そんな想いが沸いてきます。

「26歳」をタイトルにした文章を自由に書いてください。
書き終えたら、あなたがいちばん魅力的だと思う「26歳の知り合い」にこの企画をつないでください。

椋本湧也『26歳計画』

本を誰かにつなげたくなった

平末さんにおすすめされて知ったこの本『26歳計画』を、私も誰かにつなげたいと思いました。いちばんとかにばんとかは関係ありませんが、以前から仲良くしている友人にこの本を貸すことにしました。彼女は、同世代のライターとして、とても丁寧な文章を紡ぐ方です。昔、一緒に「ものがたり喫茶」というコーヒーショップをやったこともあります。

(その子が運営しているブログ))

(懐かしいnoteが出てきました。コロナパンデミックの間、彼女とは、一緒に手紙を書いてコーヒーを送るプロジェクトをやったりしていました。)

その子にとっても、『26歳計画』が何かしらの気づきを得る一冊になればと思っています。

最後に

最後に、普段は大学院生ということもあり、研究に関連する学術書を読むことが多い私ですが、今回の『読書健康手帳』では、少し珍しい本を紹介することになりました。ぜひ、みなさんも一度この本を手に取ってみてください。

なお、『読書健康手帳』は無料で内容を読めるようになっていますが、応援の意味を込めてポストカードのようなチップ的な仕組みを設けていました。しかし、本記事に関しては、たかがウェブの記事ですが、この本が紡いでくれた関係性や物語にこそ金額では置き換えられない価値あると感じ、有料設定すらしたくないと思ったのです。他の記事には、軽くチップ設定をしております。

これからも24歳の『読書健康手帳』をよろしくお願いいたします。

以上が読書の感想文です。以下に、読書中に重なった記憶や思い出が詰まった一枚のフィルム写真を掲載しています。記事の購入は執筆活動の励みとなりますので、よろしければ引き続き応援をよろしくお願いいたします。

ジョンさんより、2024 11 16
『26歳計画』と台湾ビール
2024 09 イタリア、シチリアで
ものがたり喫茶の記録 2019年。振り返ると、コーヒーを淹れる旅を通して、いろんな人に出会えたものだ。


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Jong | 三浦宗民
この先も、最終着地点はラブとピースを目指し頑張ります。