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ビールグラスに海風あたり、ひとときの独り言が流れる

一人で飲む時間

一人で飲む時間って、なんだか嫌いじゃない。独身だから、毎日基本的には一人で飲んでいるはずなのに、毎回繰り返されている夜の思索には、どこか特別な輝きがあって、流れる時間とともに少しずつ色褪せていく気がするんだ。そこには、その夜だけの感情、飲み物、音楽があって、さまざまなものが織り交ぜられる中で、その夜だけの小さなハプニングが起こる。何事も起こらななかったとしても、独り酔い事を喋りながら帰る道だって嫌いじゃない。

今晩は初めてのビールに出会う。ベルギーのビール、Grimbergeは、甘酸っぱさと涼しさのバランスが絶妙で、芯がしっかりしている。風が頬をかすめるその瞬間、涼しい夜に、ビールが冷たい喉を通ると、頭の中がふわっとして、心がだんだんと落ち着いていく。単純に一般化できるものではないと思うけれど、イタリアの街を歩くと、日本よりリベラルな空気感があり、心の風通しが良くなる感じがする。争いなんて、どうでもいい。いや、どうでもよくはないけれど、争いに目を向けつつも、その果てに待つのは虚しさだけだ。だから、どうでもいいのかもしれない。どうにかして和解しあいたいものだ。

Billy Joel

ほろ酔い頭の中が解放される。流れている音楽も、なんだか懐かしいのに、新鮮に感じられる。例えばBilly Joelとか、「Piano Man」以外にもいい曲がたくさんあることに気づかされる。個人的にパブとかで飲むなら「Allentown」とか「Uptown Girl」当たりが流れるイメージ世代が違うのに、一度は聴いてみたかった音が、時代を飛び越えてわざわざ届いてくるような感覚だ。気になったらすぐにサブスクで探せる今の世界は、なんて便利なんだろう。

酒って、不思議な力を持っている。解像度が高すぎるこの現実世界を、ふんわりぼかしてくれるんだ。まるで神様が、「ほら、少し休んでいいんだよ」って言ってくれているみたいに。都合の良い解釈すぎるのだろうか。冷たい液体がゆっくりと喉を通り、静かに全身に酔いが回る。この瞬間、世界は少し柔らかくなったような気になれる。

隣のテーブルの女の子

バーテンダーが白シャツでカクテルを作る姿を横目に見ながら、ふと考える。あのカクテルは誰のためだろう?隣のテーブルの彼女かな。ピンクのドレスを着た、いかにも「ピンクレディー」を頼みそうな彼女。レモンで飾られたミルキーなカクテルが、彼女の前に運ばれる。なんだか申し訳ない気持ちが湧いてくる。彼女のような美しい人に、一人でそんなカクテルを飲ませるのは、もったいない気がして。

でも、話しかけたりはしない。彼女だって、僕のことを運命だなんて感じていないだろうし、きっと、男女の関係なんて、そんなつまらないものなんだ。みんなドラマを期待しているくせに、誰もそのドラマを自分で始めようとはしない。ロマンチックって言葉を皮肉っぽく使いながらも、みんな本当はロマンスを求めている。そんな自己矛盾に気づかないまま、ロマンスの神様はきっと泣いているだろう。「Falling in Love」していいんだよ、「Diving in Love」しなさいよ、Threadsで呟いているよ。きっと。

そんなどうでも良いことを考えながら、ホステルに戻る。酔いが程よく回り、秋の涼しい風が心地いい。ふと空を見上げると、月がきれいだ。ちょうどイタリアの空にも満月が輝く。美しいものは、ただ美しい。それだけで十分だ。数日前に見たナポリの絵が、頭の中で再生される。絵に恋をするって、こういうことかもしれない。今夜の余韻は、この月とともに静かに心にしみ込んでいく。

世界は、時に美しく、時にやるせない。それでも僕たちは、その狭間を漂いながら、なんだかんだと生きているんだな、なんてことを思う。



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ジョン(Jong)
この先も、最終着地点はラブとピースを目指し頑張ります。