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元祖平壌冷麺屋note(188)

3年前、とある縁があり、フォトジャーナリストである、安田菜津紀さんの、ルーツをめぐる旅の道案内を、少しだけしたことがある。同行する撮影者は「ブラックボックス」の著者、伊藤詩織さんだった。

ラジオでは、お互いをなっちゃん、しおりん、と呼び合うほどに仲が良いお二人の道案内をした場所は、新神戸駅から異人館通りのあたりから、元町と三宮間だった。

3年前の神戸新聞の随想欄では、安田さんがその時の、旅のきっかけについて綴っていた。

祖母の金玉子は1938年、11歳で日本に渡ってきていた。出身は現在の韓国、釜山市。京都や大阪、神戸市灘区、なぜか名古屋まで転々とした後、32歳という若さで現在の神戸市中央区で亡くなっていた。
自分のルーツは、自分が何者かとらえるための大切な軸足だ。こうして少しずつ手がかりをたどることは、私の中にぽっかりと空いた空白に、パズルのピースを取り戻していくような感覚だった。
祖母の生きた証はまだ、街のどこかに残されているのだろうか。次なる旅は、神戸になるかもしれない。

神戸新聞/随想

安田さんの祖母の最期に暮らした場所が、山本通り(異人館通り)だということが分かり、当時の神戸の歴史を振り返りながら、はたして、その場所を見つけ出したのだった。

道案内の下準備として読んだ本は、「神戸 闇市からの復興」「神戸・続神戸」「神戸ものがたり」の他、5冊。

超のつく方向音痴なので、地元にもかかわらず、案内日の朝は、3時間、下見で歩き回ってから、お二人を新神戸駅で迎えた。

この神戸市内をじっくり案内してくれたのは、知人を介して知り合った張守基さんだった。「元祖平壌冷麺屋本店」の四代目で、大の読書家でもある。この日のために何冊もの資料を読み込み、地元のことをさらに深く調べてくれていた。

安田菜津紀「国籍と遺書、兄への手紙」

その当時の旅の記録は、安田さんの記事「探しています、祖母の生きた証を」という記事にまとめられ、新刊「国籍と遺書、兄への手紙」で、そのルーツを巡る旅の続きがまとめられている。

新刊は、自分事として、心と身体にじっくりと言葉を浸透させながら読んでいる。まるで自分自身のルーツをめぐる旅のように。

過去に起きてしまった事実は変わらない。けれどもそれをどう振り返るかによって、その「過去」は全く異なる色彩を帯びて見えてくる。今、どうしようもなく苦しく、深い悲しみに見舞われていたとしても、時を経る中で、新たな視野が開けてくるかもしれないのだ。

同上

いよいよ伊藤詩織さんがまとめた、安田菜津紀さんのドキュメンタリー「ルーツをめぐる旅の先に」が、明日(26日)の夜、NHKのEテレで20時から放送されます、という連絡を、安田さんから頂いた。

早速、普段つけることのないテレビの番組欄から予約のボタンを押した。(予約可能時間は80時間以上あった)

当時読んだ、お二人の著作に、10年後の娘宛にサインを書いていただいたのが、自分へのご褒美。娘に本をプレゼントするのは、あと7年後、中学生になってからだ。

そういえば、昨夜、観た映画では、「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ」というフォークナーの言葉が、引用されていたのだった。


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