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元祖平壌冷麺屋note(33)

完売御礼。

あるいは、品切れ閉店。

商売において、これ以上の利益はないのだけど、営業時間内に来店したにもかかわらず、入れなかった、食べられなかったお客さんに対しての申し訳なさもある。

ずっと食べたくて、口の中が冷麺になっていて、遠方はるばるやって来たのに、「本日は品切れ閉店です」という貼り紙があった場合。

大きく声にしたい言葉があるのだと、知っている。自分自身、目当てのお店に行って閉まってたときに、とりあえず口にする言葉があるから。

今日は、開店30分前の時点で満席が確定していて、開店と同時に20組待ち。道路をはさんだ対岸の郵便局まで長蛇の列だった。

AI搭載の冷麺マシーンとして、ひたすら冷麺を製造し続ける。回転スピードに、追いつかないポンコツマシーンは、灼熱の釜に腕を押し付けてしまい、ジュッと皮膚を焦がしてしまった。

さらに、そのはずみで、丹念に捏ねた麺のもとをそのまま釜の中に落としてしまったので、「ふりだしに戻る」のマスに進んだ。

思わず、叫びそうになる、言葉をこらえる。

火傷のあとは、ヴェロキラプトルの眼のようで、ちょっと気に入っているけど、娘には、ボロボロになっているよ、と心配された。ホイミ。治った。

両手の指を点検したら、ほぼ全指の爪が取れかけていたから、例の言葉を吐きたくなったけど抑えた。娘に、大丈夫?と心配された。ベホマ。完治。

お店の電話が鳴った。「もしもし平壌冷麺屋です」ガチャッ、ツーツーツー。口にしそうな言葉を堪えた。

終業後、1リットルの涙、ではなく、汗によって1キロの重さをたたえたTシャツを着替えようとしたら、替えのシャツを忘れてしまったことに気づく。

帰り道のコンビニで前の列に並んでいた女性が、自分のTシャツと同デザインのシャツを着ていた。

そういえば、朝の通勤時、古本屋ワールドエンズガーデン前ですれ違った、大江健三郎メガネの兄さんも、同じシャツを着ていたことを思い出した。

村上Tシャツ。

前の列の女性は、こちらに一瞥すらしなかった。そそくさと、去っていった。

冷麺屋では、レジ会計の時に、お客さんが着ているTシャツの話題で盛り上がることは、しばしばあるのだけど、それはまたの機会に書くことにする。

結論として、相当、汗臭かったのだろうと察して、娘に嗅いでもらったら、「冷麺とおしっこの匂いがするね」との評価だった。

一日分の、ためていた言葉が、ついて出た。

「何て日だ!」






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