腹いせの償い①

 自分でも悪いことだとわかっているが、止められないことのひとつに腹いせによる転職活動がある。会社でいつものように困難事案を押し付けられたり、お前は機能して機能していないなどとあげつらわれたりすると、自室に帰ってから衝動的に仕事を探し、経験を生かせそうな案件に応募してしまう。そもそも年齢が年齢だし、履歴書や職務経歴書のバージョンアップもしないままの応募なので、ほぼ無駄な行いだ。

 ところが、先日、こうした衝動的に応募した求人のひとつが書類審査を通過したとの知らせが入った。今の私には、面接に呼ばれてそれを辞退する理由はひとつもない。ただ、今回の案件は1次面接なのに現地で行われる。その現地が非常に遠いことが問題となった。地方に住んでいることの負の側面だ。仕事を探すにも、居住地には求人がなく、他所へ出ていかなければならない。案内によると、面接時間は30分程度とのことだが、この30分のためにかなりの時間と費用がかかることになる。まさに腹いせの償いだ。

 まず、現地の住所から、そこまでの経路を調べる。JRに乗って、新幹線に乗って、地下鉄に乗って、またJRに乗って、最後にバスに乗ると着くらしい。片道約8時間の道のりだ。ただ、ぎりぎり終電に乗れば帰宅できることがわかった。空路なら、もっとましな旅程が組めるのだが、費用が追い付かない。しばらく検討の後、鉄道で赴くことにした。これ、行くんか、俺、と思いながら。

 当日、予定より少し遅れて駅についた。切符は購入済みなので、電車に乗り込む。コンビニで朝食を買う時間なく、文字通り駅まで走ったため、早速息が荒い。長丁場なのだから、体力を温存しないといけないのだが。持ってきた水を飲みながら、鞄からスマホを取り出そうとしたところ、充電器はあるのだが、肝心の本体がどこにもないことに気づいた。充電器だけでどうしろというのだろう。予定では、現地への往復の間、スマホでネットでもするつもりだったのだが、早速暇つぶしの手段がない状況になった。全く早朝から何をやっているのだろう。しばらくの間、スマホをどこに忘れたか考えた。そもそも持って出なかったのかも定かではない。今の私の頭では思い出せない。諦めて目を閉じた。

 この後、以前なら脳内で面接の想定問答を行うところだが、残念なことに全くやる気がしない。近年、1次面接は受験者の負担を考え、WEBで行うところが多いように思う。別に今回の応募先が悪いわけでも何でもないのに、呼びつけられているような感覚を持ってしまう。ただ、もし、自分が人事担当なら極力配慮はすると思う。そうでないと、人の時間と金を何だと思っているんだ、と自分の中からの内なる声が聞こえるからだ。また、罪悪感を覚えることは間違いない。そんなことを考えているうちに、乗り換え駅に到着した。

長くなってしまうので、一旦区切ります。

 

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