腹いせの償い④

 適塾の見学を終えた私は外に出た。そろそろ昼飯時だ。だが、暑さと疲労で食欲がない。何時間もぶっ続けで電車に揺られて、体がふらついている。近くの中華料理店を覗いたが、もっと軽いものにすることにした。

 再び御堂筋線に乗り、目的地である天王寺に向かう。近くに蕎麦屋があったので、月見そばを食べた。美味い蕎麦だったが、ざるそばにしておけばよかった。汗が止まらない。食事のあと、デパートのトイレで洗面と歯磨きを終え、面接に向かった。いつもなら必ずといっていいほど緊張するのだが、今回は疲労のせいか全く緊張しなかった。心底疲労すると、緊張すらできないらしい。会場では淡々と質疑応答を済ませ、帰路についた。移動などでさんざん汗をかき、どろどろだが、何とか逃げずに終わった。やれやれである。30分の面接を受けるのに往復10時間かかる。いつものことだが、いい加減うんざりしながらも、明日からの仕事のことを考えると、受けざるを得ないという気持ちが高まってくる。帰路は何もすることがないので、目を閉じて休養しながら誰か後ろから私の素っ首を切り落としてくれないか、などと考えていた。斧でも刀でも構わない。いっそすっぱりやってくれればこれ以上虚無感に囚われながら転職活動をせずに済む。また、面接時に汗臭かったのではないかとも思った。残暑はきついし、この格好なので汗はかく。妄想だが、私が面接を終え、会場を後にした時の風景が浮かんだ。
面接官A「しかし、さっきのおっさん臭かったな」
面接官B「ああ、酷い臭いだった」
面接官C「とてもじゃないが、あんなのと一緒に働く気にはならないな」
そして室内に哄笑が響き渡る。
 そうは言ってもあとは帰るだけ、気楽なものだ。行きは面接に間に合わせるために急いでいたが、帰りはどうでもいい。駅で適当に買ったビタミン補給のためのジュースがやたらうまかった。こんなことをやっていれば、栄養状態も悪くなるのだろう。

 今回の面接の結果は迅速に出た。いただいたメールには貴殿の今後の活躍をお祈りする、とあった。不採用の理由には、当社が求めるスキルに適合しなかったため、と書かれていた。当社が求めるスキルとはいったい何だったのだろう。事前に提出していた職務経歴書から読み取れなかったのか。面接の場で、今の会社での仕事について突っ込んで聞かれた記憶はない。実務に携わっていないと勝手に判断されたのだろうか。つまるところ、私と働きたくないと判断されたのだろう。よくある話だ。本音を言うと、私も誰とも一緒に働きたくない。生活のためにやむなく働いているだけだ。

 せめてもの慰めは、ずっと関心を抱いていた適塾に行けたことだ。面接の記憶をとっとと消して、適塾の記憶だけ残すことにしたい。

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