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厳しかったあの人がくれたおにぎりと板挟みの新人が気づいた大切な事

昨日書いたnote。

シンプルなおにぎり1つでも、握る人や食材のこだわりで味が違うことを書きました。
その記事で書いたときに食べた、明太子のおにぎり。
私は食べながら、あの日のことを思い出しました。

今日は、明太子のおにぎりをくれた、ある一人の女性と上司の板挟みになって、悩んだ新人のときの話をしたいと思います。

*-*-*-*-*

以前noteにも書いたが、私は1年間だけ葬儀場に勤めたことがある。

葬儀は、いくつかの会社が1つになって行っていた。

私は、献茶やお寺さんの接待、掃除を担当する会社だった。
ある女性の方は、私とは違う会社で、
葬儀の進行をする方や外部とのやりとり(連絡)、お寺さんの誘導と掃除も行っていた。
権力的には、私の会社より上。

*-*-*-*-*

初めての葬儀での仕事の日
私は課長の一歩後ろをぴたりとくっついて、一緒に葬儀場に入った。
裏のパントリーから入り、まずはスタッフに挨拶してまわる。
課長が私を紹介し、「よろしくお願いします」と、一人ずつ。
ある女性の方も初めての勤務の日、同じ葬儀場にいた。
顔を合わせ、同じように「よろしくお願いします」と挨拶をすると、私を無表情で全身を見て言った。

「ネクタイ歪んでる」

課長は、急いで私を見て、母親のように身だしなみを直してくださった。

ピリピリした雰囲気。
怖くてドキドキした。
怒られても仕方ない。
"学ぶんだ"って気持ちでいた。
課長も、私の面倒を見てくれて、守ってくれて、段階を踏みながらも早く一人立ちできるような指導をしてくださった。


初日から、本番の葬儀。
始めは、故人さまの親族や参列者などと直接かかわる仕事は、課長の横にぴたりとついて見るだけだった。
でも、裏でやることは一緒に。
パントリーで、おしぼりを袋から出したり、お茶を入れたりした。
途中からは、「やってて」と言われながら、
やらなければならないことを、課長が代わりにメモを書いて渡してくださった。

そして初日は終わり、私は課長とスタッフの方たちに挨拶をしてからパントリーに戻った。

すると、パントリーの外と繋がっている扉が少し開いてた。
誰かが外でぷかぷかタバコを吸っている。
私が荷物を持って振り返ると、タバコを吸うのをやめ、中に入ってきた。

"あ、あの女性だ"

私は挨拶をして、課長と外に出た。

「初めてだったけど、どうだった」

課長に聞かれたが、
緊張していて、自分が何を言ったか覚えてない。

でも、覚えていることがある。

課長は言った。

「あの人とは、あまりかかわらない方がいいから」

と。

理由はわからなかった。


課長は、1か月、私の指導をしてくださった。

はじめは課長の横で、
「ご愁傷様です」と両手を少し前にして、頭を30度下げていただけだった。

次第に、
「お清めの代わりでございます」
とおしぼりを渡し、

声をかけるタイミングを、課長に背中を押してもらいながら、参列者にお茶を出していた。

使い慣れない言葉や行動を丁寧に教えていただきながら、掃除の仕方や、お茶の入れ方など、基本的なことも教えていただいた。

そして、課長なしの、一人立ちの日。
あの女性がまたいた。

たくさんのスタッフが、いろいろな葬儀場に必要な人数、上からの指名で入るため、いつも同じスタッフがいるとは限らない。
しかし私は、会社からの配慮で、人数があまり入らないほぼ同じ小さな葬儀場での勤務だった。
そして、あの女性も、同じ葬儀場にいることが多く、たびたび顔を合わせていた。

私は、課長に教えていただいたことを、パントリーで黙々とやっていた。
すると、

「えー、もう、どうするんですか」

あの女性の声がした。

そして、パントリーに来て、

「今日は、部屋の掃除する人が休みだから、一緒にやるよ!」

と言われた。

いつもなら、親族が泊まった部屋を掃除する担当の人がいる。
でも、たまたま私が一人立ちの初日にお休みされていた。
そのときは、あの女性と私たちの会社が一緒になって、葬儀中にしなければならなかった。
葬儀中といっても、お寺さんの誘導や、祭壇の花を棺に入れる時間には終えなければならない。
ゆっくり教える間もなく、制服のため動きにくい格好のまま。
床、棚の掃除、ベットメイキングやお風呂掃除、タオルやアメニティーセットの補充などもしなければならなかった。

初日は、ほとんどあの女性がしてくださった。
「全然できてない」
ともいわれ、やりながら教えてくださった。

部屋の掃除をする日は、何日かあった。
少しずつ慣れてはきたが、私は、あの女性より、はるかにスピードが遅かった。
それでも、あの女性はいってくれた。
私がベットメイキングが終わったあと、

「早くなったね」

と。

うれしかった。
自分と比べるのではなく、私の成長をみてくださったことを。
女性は笑顔で、額にはすごい汗。
私以上に動いてくださり、褒めてくださり...
私ももっと頑張ろうと思った。


女性とは、ほぼ毎日顔を合わせるようになり、会話が弾むほの仲になった。

私は、午前中で帰る予定だった日
葬儀が延びてお昼の時間になっていた。
しかし、お寺さんが帰るまでは、私も帰ることができず、パントリーで待っていた。
すると、

「お腹空いてるでしょ」

一緒にいたその女性は、2つ持ってきていたおにぎりを私に1つくれた。

片手ではおさまらないくらいの、ぎゅっと握られた海苔のついた丸いおにぎり。
私は遠慮しつつも受け取り食べた。

"美味しい"

明太子がたっぷり入った、塩加減が私にちょうどいいおにぎりだった。

おにぎりって、親やお店で食べることしかなかったが、お店のじゃなくても、こんなに美味しいものなんだと初めて思った。

その女性ももう一つのおにぎりを食べる。
おにぎりを分けてくださり、一緒に食べるおにぎりは、本当に美味しかった。

お寺さんが帰ったあと、葬儀場の掃除を一緒にした。
すると、その女性が言った。

「事務所も掃除機かけといてくれる?」

もう、その女性のことを信頼している私は、言われること全ておこなっていた。

その女性がいないと不安になるほど、私は頼りにしていた。
出勤して、パントリーにその女性の鞄があると、
"今日もおられる"
と思いながら、会うことを楽しみにしていた。

しかし、久々に課長と同じ葬儀場に入ったとき、その女性はいなかった。

そして、葬儀が終わり掃除をしていると、

「そこは、掃除したらダメ!」

課長に言われた。
そこは、その女性にお願いされた事務所だ。
課長は続けて、

「何か大事なものを捨ててしまったらいけないからしたらダメ。あの人が言ったの?事務所を掃除するのはあっちの仕事なんだから」

と言われた。


上司の言われたことは絶対だ。
私に丁寧に指導してくださった、尊敬する課長でもある。

それまでは、その女性は仕事が早く、私の仕事を手伝ってくれていた。私もできることはその女性の仕事もやろうという気持ちでいた。
でも、課長の理由を聞いて事務所の掃除はやめた。
ただお互いさまの気持ちでやってはいけないんだと思った。
同じ会場にいるけど、会社が違うから、仕事もしっかり分けてしなければならないのかなと思った。
何かあったときの、責任を守る立場でもあるからなのだと思った。

また「ここやって」と言われたらどうしよう
私の仕事も額に汗をかきながらやってもらっているのに

モヤモヤした気持ちもあった。
でも、たまたまなのか、その女性も、事務所を掃除してとは言わなくなった。

私は、最初に課長に教えていただいた内容を思い出した。
その女性と共有している仕事だけ、していただいている仕事は多いけれど、協力しながらする気持ちを大事にした。


葬儀場の仕事を始めて1年が経とうとしているとき、私は退職することに決めた。
社長と、指導してくださった方とは違うもう一人の課長と3人で話をする時間をとっていただいた。

すると、あの女性の話になった。

その女性と私たちは、あまりかかわらないようにしていた。
あれして、これして、と言ってくるから。
でも、あなたが入ってきてくれたことで、あの女性の表情が変わった。
協力関係が生まれて、私たちにも優しく接してくれるようになった。
あなたのおかげ。
本当にありがとう。

私はその女性の働く姿をみて、ただただ尊敬して一緒に仕事をしていただけだった。
でも、お互いの良さがわかる関係ができたことに、うれしく思った。

新人って上司の板挟みになることってある。
意見が違って迷うこともある。
自分の意見をいうと、言い訳みたいで言えないこともある。

会社内でも、関係が良くない人同士は、必要以上にかかわらないようにしていることもあるだろう。

でも、
新人だから、教えなきゃとか、教えようと同じ気持ちで私にかかわってくださった。
真剣に仕事と向き合っている姿をみせてくださった。

新人の目には、誰かが抱えている“当たり前”の仕事や態度が、特別に映ることがある。

関係を築くのには"共に働く姿勢"が大切なのかもしれない。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
すみません、尊敬する女性と課長への思い強く、長くなってしまいましたが、、、
その女性と良い関係を築くことができ、知らぬ間に違う会社同士の関係が良くなっていたことに、うれしく思いました。
新人だから思うことって、もっともっとたくさんあると思います。
しんどいこともあると思います。
でも、新人だからできることもあるんじゃないかなと思うのです。
新しい仕事に就いたあなたの力となり、希望が与えられたら...うれしいです。

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