住宅セーフティネット法改正について考えたこと

 5月30日、住宅セーフティネット法の改正案が衆議院で可決されたいうニュースが流れました。

 そもそも住宅セーフティネット法とは何ぞや、ということで法律の目的を見ると、
「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与する」
とあります。
 住宅確保用配慮者とは、主に障害者や高齢者、子育て世帯等を指し、今回の改正の主な目的は単身の高齢者への賃貸住宅の円滑な供給にあるようです。

 私は役人兼不動産投資家です。もちろん不動産投資は金儲けのためにやっていますが、この金儲けと社会的な課題の解決が結びつくに越したことはない、いっちょうこの法律や施行後の運用実態、今般の改正内容について調べてみようと思い立ちました。

1 改正法案の概要と基礎知識
 改正条文を見てもよく分からないので、このポンチ絵を見て大枠から理解することをはじめました。

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001727644.pdf

 その上で、分からない固有名詞を調べて詳細を理解していくという流れで把握していきました。

〇居住支援法人とは
 詳細は↓のポンチ絵を見てほしいのですが、大家目線でいうと、「登録住宅の入居者への家賃債務保証」という機能に目が行くのではないでしょうか。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001615068.pdf

〇登録住宅とは
 「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として登録されたもの」を指します。
 登録の際には基準があり、主なものとしては
 ・耐震性を有すること
 ・住戸の床面積が原則25㎡以上であること
 ・家賃の額が近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないこと
が挙げられており、地方公共団体が計画を定めることで基準の強化又は緩和が可能とのこと。
 登録は大家が行う必要があり、登録すると補助金制度を利用することもできる模様です。

〇居住サポート住宅とは
 所管する国交省や厚労省のHPを見ても確たる記載を見つけられませんでしたが、各種情報によると、居住支援法人から入居中の生活のサポートを得られる住宅として市町村が認定した住宅のことをいうらしいです。

2 国交省への取材
 とりあえず概要は理解できましたが、各種制度の実態や既存の仕組みとの違いがよく分からなかったので、国交省HPに記載されていた担当者に電話取材を行いました。
 結論としては、先のNHKの記事にもあるとおり、改正法の施行時期が来年秋を見込んでいるということで、現在は詳細を詰めていく段階にあり、明確な回答はあまり得られませんでした。
 なお、5月30日の衆議院での可決をもって、法律については改正済みとなっています。

3 私の問題意識
 現時点で私が考えたことを共有できればと思います。役人目線のものと大家目線のものとがごちゃごちゃになっていますが、その点についてご了承いただければと思います。
 なお、一部国交省から回答が得られた部分についてはあわせて記載しています。

① 居住支援法人について
【問題意識】
住宅確保用配慮者の賃貸住宅への入居に関して、居住支援法人がどのように関わっているのか(特に対大家との関係)、その影響力はどの程度のものか
【質問】
Q1 居住支援法人はどの部分でマネタイズしているのか。補助金限りなのか、支援対象者からは報酬を受け取っているのか。
 →(国交省)支援対象から報酬を受け取ることは禁止されていない。
Q2 居住支援法人の支援の在り方として、例えば賃貸借契約時に立ち会ったりすることもあるのか。
Q3 例えば、利益相反のようなものを防ぐことを理由として、宅建業者が居住支援法人にはなれないとする基準はあるのか
 →(国交省)宅建業者であることをもって認定を得られないということはない
Q4 居住支援法人が介在する賃貸借契約は実態としてどの程度存在するのか。

② 居住支援法人の業務に残置物処理を追加することについて
【問題意識】
 概要資料を見る限りでは入居者の死亡時のみを想定しているようだが、死亡時以外のケースでも適用できるとなおよいと思われる
【質問】
Q5 残置物処理業務に係る「入居者からの委託に基づいて」という部分については、主に入居者が死亡した場合を想定しているという理解でよいか。
入居者が夜逃げした場合も対象とできるような委託契約を締結することも可能か。

③ 家賃債務保証業者の認定制度について
【問題意識】
 既に家賃保証会社の登録制度が設けられている中で、登録制度と認定制度との違いは何か、現在の家賃保証会社について国交省はどう認識しているか(特に「課題」の部分)

【質問】
Q6 家賃債務保証業者の認定制度について、既存の登録制度との違いは。認定要件は何か。
Q7 概要資料にある「要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者」とは具体的にどういうことか。
 現在の家賃保証会社は必ずしも要配慮者が利用しやすいとは言えない実態があるという認識か。
Q8 家賃保証会社の利用に際しては、賃借人が保証料を支払うことが一般的であるが、認定家賃債務保証業者の場合の保証料の支払の取扱については如何か。

④ 住宅扶助費の原則代理納付化について
【問題意識】
 住宅扶助費の取扱について国交省及び厚労省がどのような課題を認識しているのか
【質問】
Q9 生活保護の住宅扶助費について、現状として代理納付の取扱は各自治体の判断に委ねられており、今般の改正により代理納付を原則とする取扱に改めるという理解でよいか
Q10 代理納付を原則化した背景については如何か。
 生活保護者に直接給付することで家賃滞納の問題が少なからず発生しているという認識か

4 最後に
 国交省の問い合わせの際に「大家」と名乗ったのですが、電話の最後に、
「大家のみなさんが心配されないよう説明会の開催等を通じて周知を図っていきたい」
と担当の方はおっしゃっていました。
 法律に血を通わせることができるのは議員と官僚だけではありません。不動産賃貸の現場を知る宅建業者、大家、賃借人の方が伝えることで、実態と乖離することのない適正な運用を図ることは十分に可能ですし、良心的な官僚なら耳を傾けてくれるはずです。
 少しでも政府の施策について興味をもってもらえればありがたいです。

おしまい

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