不思議なお菓子屋さん
5年2組の教室、ぼさばさ頭の健太、三角顔の庄一、おじさんのように太った克也、そしていつも教室のすみっこにいる静子の4人が居残りで宿題をしていた。
「ああ、俺たち進歩しないよなあ」と克也がため息をついた。
担任の達川先生がやってきて、
「もうみんなできた。」と言いながら4人の間を一周して、
「今日はこれで帰りなさい。明日から宿題忘れるんじゃないぞ。」
と言って4人を見回した。
この4人はクラスの中では何をやってもだめなやつと思われていた。
そのせいかなんとなく気が合う4人で、校門から出ていつも途中まで一緒に帰っていた。
庄一が、
「今度新しくできたお菓子屋に行かないか」
と言い出した。
商店街の片隅に閉店した果物店のあとにできたお菓子屋さん。
「じゃ、家に帰ってから店の前に集合。」と庄一が言うと、
健太、克也、静子は「うん」と返事した。
商店街は閉店している店が多く、人通りも昔に比べれば多くはなかったが、商店街のはずれにあるお菓子屋さんの「ドリーム」が新しく店を開いていた。
4人が揃うと、店のドアをあけて中に入った。
店は意外に広く、様々なお菓子が棚にならべられていた。
20才くらいの若い店員さんが「いらっしゃい」と笑顔で声をかけた。
4人以外に子どもが、5人ほどお菓子を見ていて店の中はけっこう混んでいた。
「ふぁふぁ、いっぱいあるなあ。」
と健太が声を上げた。
チョコレート好きな庄一はチョコレートの棚を必死で見ている。静子はキャンディ、克也はおもちゃ付きのお菓子を見ている。
健太はあっちへ行ったり、こっちへ行ったり落ち着きなくうろうろしていた。
店にはスーパーにもあるようなお菓子もあったが、ちょっと変わった名前のお菓子が並んでいた。
チョコレートの棚には「カレーみたいにからいチョコ」といった変わった名前が付けられていた。
4人はそれぞれ欲しいお菓子を店員さんに渡した。
店員さんはうれしそうにそのお菓子を袋に入れて、子ども達に渡した。「ありがとうございます。」
「大人が叱らないチョコ」
「虫歯がなおっちゃうキャンディ」
「お母さんがにっこり笑うせんべい」
「友達できちゃうクッキー」です。
「この名前は面白いでしょ。きっといいことがあるよ。」
と店員さんは笑いながらそう言うと4人に袋を渡した。
店から出て、公園のベンチに4人で腰かけて袋からお菓子を取り出した。
静子は「虫歯がなおっちゃうキャンディ」をなめた。
静子の歯には虫歯が2本あって、歯医者さんに通っているところだった。
庄一は「大人が叱らないチョコ」を食べた。
ごく普通のチョコだがおいしい。
健太は「おかあさんがにっこり笑うせんべい」。
「今日もきっとお母さんから叱られるぞ。家に一度帰ったとき、お母さんがにらんでいたからなあ。」ともぐもぐ言いながら食べた。
克也は「友達できちゃうクッキー」だ。
友達はこの3人しかいない。
もっとクラスの人気者になりたいと願って買ったのだ。
それぞれ食べながら、克也が、「なんか普通のお菓子だね。もっとすごい味がするかと思った。」とため息をついた。
健太が「まあ、仕方がないさ。これ食べておかあさんから叱られなかったらすごいぜ。」とつぶやいた。
日が暮れかかっていた。
「じゃあ、これで解散。」庄一が声を上げた。
「また明日。」みんなで言い合いそれぞれ家に帰った。
次の日、4人ともめずらしく宿題を忘れずやってきていた。
「おまえら、えらいぞ」と達川先生が4人をほめた。
クラスのみんなもいつもと違う目で4人を見ていた。
いつも暗い感じの静子がなんとなくうれしそうな顔だ。
庄一が「静子おまえなんかいいことあったのか」と尋ねると、静子は「うん」と返事して口を大きく開けた。
歯がぴかぴか光っていかにも健康そうな歯、虫歯がなくなっていた。
「あれ、おまえ虫歯があったんじゃなかったの。」
「うん、そうよ、朝起きたら虫歯が消えていたのよ。これで好きなお菓子がなんでも食べられる。」
「うへー、あのキャンディのせいか」
「わからないけど。きっとそうなんじゃないかなあ。」
庄一が健太に聞いた。
「健太、昨日、おかあさんから叱られたか。」
「いいや。お母さん、なんか昨日はやたらときげんがよくてぜんぜん叱られなかった。にこにこ笑ってたよ。」
「庄一、おまえはどうだ」と健太 が聞くと
「おれもそういえば昨日から大人に叱られていない。先生からもほめられたしなあ。」
克也のほうを見ると克也の周りに数人群がっていた。
克也が持っていた友達できちゃうクッキーに入っていたカードが珍しいので、みんなが見るために集めっていた。
「ふへい、克也の周りにあんなに人があつまってら」
「こんなことってあるのかなあ。」
と健太がびっくりしたように話すと静子や庄一もうなずいた。
皆さん、不思議なお菓子やさん、皆さんの近くにこんなお菓子屋さんはないですか。探してみてください。きっとありますよ。願いのかなうお菓子屋さんが。
よろしければ、サポートをしていただけますでしょうか。 精一杯頑張りたいと思います。