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写真館

ある高台の町に高齢の晋作さんが住んでいました。
晋作さんは3年前に妻を癌で亡くし,失意にうちひしがれ,近所の人達とも会話もなく,孤独な生活を送っていました。

晋作さんは重いうつ病に罹っていました。
食事も満足に取らず衰えていく様を近所の人は心配して,精神科医のエリクに相談したのでした。

エリクは晋作さんと診察室で会いました。

「初めましてエリクと言います。あなたの手助けをできればと考えています。毎日きっちり食事をとっていますか」
「食欲がありません。食事がおいしくないのです」

「あなたの願いは何ですか。」

「特にありません。生きていても仕方がありません」

「私は妻を愛していました。妻のいなくなったこの世界は私にとってはなんの意味もありません。早く妻のもとに行きたいのです」

「奥さんの写真を見せてくれますか。」

「いいですよ。お見せしましょう。」

晋作さんは写真館を経営していて,妻の写真が彼の部屋一杯に飾られてありました。

写真館は,今は閉館していて店の中はほこりをかぶっていました。
写真の技術は確かで妻の写真はどれもこれも愛らしく写っていました。

「こんな美しい写真の数々をあなたの部屋に埋もれさせておくのはもったいない。亡くなった奥さんも寂しく感じますよ。これらの写真を写真館一杯に飾ってはどうですか。あなただけの写真館です」

「わかりました。写真を飾ってみます。」

紳士はエリクに言われたとおり,写真館に妻の写真を飾りました。

紳士は妻に囲まれたような気分でのんびり妻の写真を眺めていました。妻が元気だった頃をよく思い出すようになりました。
少しずつ食欲も出てきました。

町の人々の間でそのことが噂になり,写真館に来ては紳士の妻の写真を眺めに来る人が出てきました。

そのうち,「私の妻のために写真を撮ってくれないだろうか。
私もあなたと同じように妻が亡くなってからも妻のきれいな写真を眺めたい。」
と写真を頼みに来る人々が写真館を訪れました。

遠くから写真館の噂を聞きつけて頼みに来る人達も出てきて,紳士の写真館はお客が途切れることなく来るようになりました。

「はい写真ができあがりましたよ。」
にこにこと笑顔で客に写真を渡す晋作さんがいました。

いつの間にか妻の生前と同じように写真館の切り盛りしている晋作さんがいました。
いきいきとした顔でにこやかにお客を出迎えていました。

「はい、いらっしゃい。どのような写真がお望みですか。

写真館、古びてはいるけれど、ひとの心に響く存在でした。




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