サリーダ・ラボルピアーナのこれからについて考える
フットボリスタ2022年9月号増刊「I'Ultimo Uomo 戦術用語辞典」を読むと、なかなか難しいながらも、朧げながら、少しずつ戦術論について見えてくることがあります。まったく理解できなかったところから、少しずつ、本当に少しずつ、糸を紡ぐように、いろいろなものが見えてきます。
さて、ずっと疑問に思っていた点が、これを読んで解決しました。タイトルにもあるような、サリーダ・ラボルピアーナ(以下、サリーダ)に関しての疑問でした。それは、
相手がワントップであっても必要なのか??
サリーダというのは、ものすごく単純化すれば、「2CBの間あるいは外側に、MFが一枚降りてくること」を言います。目的は、ビルドアップ、すなわちボールを前に運ぶ時に、有利にするためです。
この定義がわからないと、「単にCBの間にMFが降りてくる」ことに見えてしまうでしょう。まさに、私がそれでした。しかもそれをもう少し押し広げて、「ボランチがボールを触るため」の戦術だと考えていました。ボランチというのは、ゲームメイクを託されている場合が多いため、相手からのプレッシャの少ない位置で、ボールを供給できるようにする、という目的だと思っていました。
しかし、本来の目的がわかった今、上記のような疑問が湧き上がります。そしてその回答も、この本に書いてありました。この本の、「ミスと濫用」項に書かれています。
サリーダとは、「ビルドアップしやすくするため」のものなので、「MFが下がってくる」ことも、「数的優位を作る」ことも、本来の目的ではない、ということです。「数的優位を作る」のは、「ビルドアップしやすく」「ネガティブトランジション時に優位になる」という「副次的効果」がある、というニュアンスになるのかな、と考えました。
そのため、相手が1トップであれば、2CBですむわけです。この状況でMFが降りてくると、反対に中盤で数的不利になるため、バックパスが増える、あるいは大きく放り込むしかできなくなるので、「ビルドアップしやすくなる」という目的を達成できません。
また、「MFが降りてくる」ではなく、「GKが加わる」というパターンもあります。これは最近ではよく見られる戦術の一つです。鳥栖のパク・イルギュ、ドイツ代表のノイヤーなどが名選手としてすぐに思い浮かびます。GKにビルドアップ能力が求められるのは、この戦術のためと言えるでしょう。利点は、MFが下がる必要がないので、中盤の強度を高めたままビルドアップが可能、ということになります。リスクとしては、先日の相模原戦のような、「バックパスがゴール枠に入っている可能性がある」「ネガティブトランジション時にゴールに直結する可能性が高い」というものだと思います。この辺りは、(エンジニア同様)リスクマネジメントあるいはFMEAなどから(感覚的あるいは理屈的に)逆算して、戦術として採用するかどうかが決められることでしょう。
さて、これからこの戦術はどうなるでしょうか。簡単な予測をしてみたいと思います。ビルドアップするためであれば、2CBでなくとも良いわけです。つまり、場合によっては、1CB+GKでサリーダを行えることになります。サリーダ時には、両SBは押し上げている場合が多いはずなので(相手の中盤を外寄せにすることで、中盤を手薄にし、MFが下がりやすくする)、ネガティブトランジションに目を瞑れば、かなりの数の選手を攻撃に割くことができるでしょう。
この派生として、CBが中盤まで持ち込む、ということも可能となります。中盤が手薄になっている前提ですが、MFにパスを出すという選択肢だけだったところが、DFが持ち上がるという選択肢も増えることで、相手にカオス状態を起こすことができるでしょう。
また、中盤が厚くなった場合にも、サイドでサリーダが可能となるかもしれません。つまり、SB(+SMF)+CB(FW, MF)という形です。もっとも、これは、サッカーの基本である「トライアングル」の形に近くなります。戦術以前の基本特性でしょう。サイドチェンジ直後にサリーダの形ができるかどうか、という点の方が、有効な見方かもしれません。
サリーダというのは、他の戦術に比べて、わかりやすい形をしています。そのため、上記のような、本来の目的に沿っているか、という観点で試合を見てみると、そのチーム(監督、選手、コーチなどなど)の戦術理解度がわかるかもしれません。