⑥「今から死にますと電話してきた人」 続き
↑のつづきです。
血相を変えて飛び出していった夫は、1時間もしないうちに帰ってきました。
「お帰り。早かったね。どう? 死んでた?」
「死んでなかった」
「でしょうね。こういうことする人なの?」
「うん。実はこれが初めてじゃない」
「どういうこと?」
「さっさと離婚して、って言っては暴力振るわれる。すぐ死ぬって言う」
「ごめん… ぷぷっ」
私は耐えきれず、笑ってしまいました。女性が言う、死んでやる! は絶対死にませんし、酔っちゃった、という女性も酔ってはいません。
残念ながら、自ら人生を終わらせてしまう人は、誰にも言えないから誰も止められないわけで。
「酔ってない!」と言う女性は、酔ってしまって、自分が酔っていることに気がつけないのです。
運命の人に出会ってしまいましたと言って、家族を放置して多少は幸せに暮らしているのかと思いきや、ドメスティックでバイオレンスな日々を送っていたとは。ちょっとかわいそうだけど自業自得。そしてとても興味深いわ。
自分が進むべき道のゴールを決めた私には、そう思える余裕がありました。
あの時、冬ソナ最終話を優先したせいで聞けていなかったことを、今こそ聞いてみよう。そう思ってなんとか笑いをおさえ。
「彼女っておいくつ?」
「俺の3つ上」
(私の5つ上?ババアじゃないか!)
「私よりそんなに年上でお子さんまでいる人と、どこで出会ったの?」
「行きつけのバーのママ」
(え?接客を愛と勘違いした?)
「そ、そ、そうなんだ…」
(毎度、想像超えてくるわね)
驚きがいっぱいで、これ以上は聞きたいことも言いたいことも出て来やしない。と黙っていたら。
「あちらの家族も出てきて、早く離婚しろ。結婚詐欺!って言われてる」
とポツリ。まあ、そう言われても仕方ないですよね。家族がいるのに、結婚しようと言ってしまったのですから。しかし、お相手のご家族も、なかなか興味深いですね。
「じゃあ、大変そうだし私とは離婚して彼女と結婚しますか?」
「…」(はっきりしてくれ!!!)
昨年末に私に見せた以上に憔悴しきった表情で黙り込む夫を見て、自分がどうするべきなのかまた分からなくなってしまいました。あんなに頑張って離婚するというゴールを設定したのに! 彼女と別れた方が夫は幸せなのでは? 帰ってきてもらってやり直した方が、私も子どもたちも幸せなはずよね?
私の人生の方位磁針はグラグラ揺れっぱなし。離婚の決心はどこへやら。夫に勝るとも劣らない自分の優柔不断レベルに愕然としつつ。まだ私は夫と言う藁にすがりたいの?
こんなにアホなお方なのに?
自分に問うても分からないハテナばかりを浮かべては気持ちがグラグラ。せっかく3歩進んだのに、5歩下がってしまったような気分の名古屋訪問では、夫の口からは家族のところに戻るとも、離婚するとも聞けずじまいでした。
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