ティンダー7人目/たろうさん③
私はたろうさんが好きだった。
彼が会おうという誘いにあまり乗らなくなる。
女の勘で彼のインスタを辿ると
ユキコという名前のストーリーに
たろうさんがよく写ってる事に気づいた。
たろうさんのインスタのアイコンは、いつの間にか私が撮った写真ではなく、
彼女と行ったのだろう、井の頭公園でモルモットを抱っこしてる写真に変わっていた。
その女性は画家だった。何千人もフォロワーがいる、売れっ子。
私みたいな普通の、ただの主婦と仲良くするメリットは、何一つない。
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年明け。
たろうさんに、スケート行かない?
とラインする。
以前行こうよと会話していた。
行きたさはある、と返事がくる。
明治神宮外苑のアイススケート場。
私はこの日に備えて一回練習していた。
でもまだ人生2度目のアイススケート。
緊張しながらリンクにあがる。
たろうさんはそんなのお構いなく、空いてるから、と真ん中の方へと行く。
私が四苦八苦しながら、捕まらずに滑っているのをみて、
俺には教える才能があるかもしれない、という。(何も教えてない)
私は本当は手を繋ぎながら滑りたかった。
甘い瞬間は一度も訪れなかった。
けっこうみっちり1時間くらい滑って、意外と楽しかったね、とスケート場をあとにする。
どうしようか、ととりあえずブラブラと歩くことにする。
明治神宮外苑。
広場に銅像があった。
ここ、村上春樹の小説でもよく出てくるところ、とぼそっとたろうさんが言う。
え、そうなの?と答えると
好きなのにそんな事も知らないの、みたいな目をされる。
あてもなく歩く。
たろうさんは私と手を繋ごうとしたけど、
私はその手を振り解いた。
誰か知らない女の人としょっちゅう会ってる人。
そんな人と手を繋ぎたくなかった。
空気が悪くなる。
いや、元々悪いのだ。
たろうさんが暑がって、私のトートバッグに自分のマフラーを突っ込んだ。
私は気にせずに歩く。
途中で変わったつくりの本屋に立ち寄る。
コレとコレが面白いよ。とたろうさん。
自分のおすすめは語るけど、
私のおすすめは聞こうとしない。
本屋を適当にみたところで時間になり、解散の時間になった。
たろうさんは自転車を渋谷に停めてるので、じゃ、と歩いて帰っていった。
私は地下鉄に乗り込む。
なんにも楽しくなかった…
そう思って自分の駅に着いた時、
私のバッグにたろうさんのマフラーが入りっぱなしな事に気づいた。
私は手紙も添えずにマフラーをすぐに郵送した。手元に置いておきたくなかった。
彼から薦められて買ったアンダーカレントの漫画も捨てた。
もう好きというより、誰かに取られたくないという執着心だけだったのだ。
snsを覗いては、ため息をつく日々が続いた。
2020年
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以前、noteというアプリもなかった頃、
この日記を読ませてる人がいた。
初めは面白がって読んでいたけれど、
たろうさんの後半のエピソードになると
読むのをやめられ、ラインをブロックされた。
そう、重い話が続くから
しんどくなると思う。
なのでたろうさんエピソードはここで一旦おしまい。