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思い出ぼろぼろチキン青年。

 気に入っている青い大皿に炒めたもやしと冷凍チャーハンを盛り付け食べる。それぐらいのクオリティで生き繋いでいるな、俺。白い壁はキャンパスの様だが決してそこに何か書き込んでいいわけではない。借家は故意に汚してはならない。そういったルールの中で暮らすことが常識的な人間のおこないなのだろう。たくさんのルールやマナーが山積し、それらを守ることによって社会は成り立っているらしい。
 確固たる何かを確立したことのない1人の青年は、ルールや、そのルールによって成立している世界を傍観する。世界とは目が合うが、社会とは合わない。換気扇の前に群がる鳩と、彼らの隣を素通りする作業員らしき男性。その光景には焦点が合うが、自分の人生がどんなもので、これからどうしていって、世の中で人気な職業が何で、何を手に入れたら幸せで、こんな境遇の人は可哀想で、といったことにはまるでピントが合わない。あの小柄なお姉さんはなんの仕事をしてるんだろう。あの制服の柄はストライプの定義に当てはまるのだろうか。あの柄の黒いラインが地面に伸びて、エスカレーターを登って、チェーンの喫茶店に入って行って。
 その喫茶店ではミュージシャン志望の男がコーヒーフロートを溶かしながら歌詞を書いている。浅く被ったそのハットは男にちょっとした魔法をかける。ダラけたがりの体にもほんの少し緊張感が出るし、振る舞いにも仄かに品性が漂う。詞作に励んでいると誰かのストライプ柄の黒いラインが男の座っている椅子を伝い、ポロシャツの襟裏に染み付いた。男は歌詞に集中していて気がつかない。男は今、初めて自分の歌詞にオリジナリティを感じている。周囲に伝わることのない感動を1人で噛み締めている。自己最高の歌詞が書けたその日に、彼は音楽を辞めることを決意した。

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