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ショートショート集「①×5」
ショートショート集を作ってみました~。
タイトルもつけてみた。
目次のやり方がよく分からず、自力です。
すぐ飛べなくてすみません。
よければ、どうぞお楽しみください。
ちょっと意外なラストや、物語として楽しめる作品など、いろいろな系統になっています!
【ショートショート集「①×5」】
1.「おかしな世界」
2.「航海したい男」
3.「別れの朝」
4.「訳ありの客」
5.「最後の人斬り」
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1.「おかしな世界」
私は、庭の花に水をやっているとき、突如目の前の地面に現れた穴のなかに落ちてしまった。
ころころと転がっていき、たどり着いた場所には、真っ白なお城があった。
お城の前には門番たちがいた。みんな髪の毛はオレンジで、ストライプのシャツを着ている。全員が手に槍をもち、背格好は背の飛び抜けて高い人や、私の膝ぐらいまでしか背のない人もいる。
そのうちのひとりが、私に話かけてきた。
「もしもし、お嬢さん、迷子ですか?」
「ここどこ?私、庭にいたはずなんだけど…」
「ここは、おかしな世界です。あなたは本来なら居てはいけない人。よそ者は首をはねなくてはいけません」
そういうと、門番たちは私を取り囲んだ。
「ま、待ってよ!それはひどくない?」
「私もそんなことをするのは心苦しいです。…そうだ。この城に住む王様の正体を当てられたら、首をはねるのはやめてあげましょう」
門番はそういうと、こう続けた。
「いつも真っ白な山の上に座っていて、多くは最後に山から消えちゃうもの。これが王様の正体です」
私はぽかんとしてしまった。必死に頭を回転させるが、いい答えはでてこない。
「うーん…」
「降参ですか?では、仕方ないですね」
門番たちが、私の首に槍を近づける。私は脂汗をたらした。なんとか答えの手がかりを見つけようと、目を凝らして、城や門番たちの姿を見つめる。
突如、突風がふき、門番たちは必死に頭を守り始めた。門番たちの髪の毛が透けるように薄くなっている。
私はそのとき閃いた。
「わかった。王様はイチゴでしょ?真っ白な山っていうのはケーキのこと。あなたたちはロウソクね」
門番が口を開き、なにかを言いかける。私がまばたきをすると、そこは元いた庭だった。
「変なこともあるものね。けど助かってよかった」
家の方から、母親が私を呼ぶ声がした。
「はやく来なさい。今日はあなたの誕生日でしょ?ケーキ、焼いたわよ」
「はーい」
私は勢いよく庭へと続く窓から食卓へと駆け上がった。
END(924字)
2.「航海したい男」
あるところに船で旅をしたい男がいた。
男は、船のことはてんでわからなかったので、商人の元へ行って、船を作ってもらうことにした。
狐目の商人は、てもみをしながら、木や鉄、鋼といった素材を見せる。
「純銀の船なんていかがでしょう?見た目も光耀いて派手ですし、乗れば周りに自慢できますよ!」
「いや、俺は金がないから。もっと安い素材はないか?」
「でしたら、とっておきのがありますよ。弾丸も貫通しないほど丈夫で、素材自体は薄くてとっても軽い!しかも色は美しいホワイトです」
「へぇ。じゃあそれで船を作ってくれ」
数日経ち、男は、出来上がった船を見た。
マシュマロのように白くてふわふわした素材で出来ていて、とても軽い船だ。
「さっそくこの船で旅に出よう」
男は旅支度をして船に乗り込んだ。
だが、数分すると、船体が湿り気をおびはじめ、あっという間に浸水してしまった。
男は大慌てで甲板から水をかき出す。だが、船はとうとう沈んでしまった。
狐目の商人は、男から受け取った札束を眺めてほくそえんだ。
「和紙で出来た船だって言わなくて正解だ。たんまり儲かったぞ。くくくっ…」
END(522字)
3.「別れの朝」
男は、女が横たわる布団にごろりと寝返りをうった。目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴り、隣で眠っていた女が目を覚ます。
「きゃあああ!」
女は、男の顔面を思い切りひっぱたいた。
「うわぁ、いってぇ!なにすんだよ」
「パンいちであたしの布団に入ってくるな!汚い!不潔!」
「不可抗力だってば…」
と男は、もぞもぞと布団から起き出した。女も布団から出て、台所へと向かう。
「朝ごはん、パンでいい?」
「うん」
男は台所でトースターにパンをセットしている女に近づいていった。そして、その横顔をじっと見る。女の髪の毛にそっと手を添えて、輪郭にそってそれをなぞった。
「…なによ」
「いや、お前、今日でこの家出ていくんだなと思って」
「そうよ。なに?せいせいする?」
「いや…ちょっと寂しい」
女は男の胸板を思い切り叩いた。
「ぐほぁ!」
「なに女々しいこといってんのよ!」
女は焼けたパンをトースターから取り出し、卵を炒めて、一緒に皿にもった。
着替えたふたりは、テーブルにつき、朝ごはんを食べる。男は、思うところがあるのか、光るものを目ににじませている。
「ずっとふたりでやってきたのになぁ」
「だから、しつこいって。あたし、ひとりでも大丈夫だから」
「まぁ、お前図太いしな」
「…そういう余計なこと言うと、彼女できないよ?」
朝食を終え、女は荷物の整理をしてキャリーバッグを抱えて玄関にやってきた。
「…じゃあね」
「おう」
男は最後の別れに、女の頭に手を乗せた。
そうすることも、この長い人生の中で、この先きっとないのだろうという予感が、男にはあった。
男は、初めてふたりきりになったかつての日々を思い起こし、溢れてくる涙を押さえきれなかった。
「なによ、お兄ちゃん」
「…立派になったな。就職おめでとう、妹よ」
そう兄にいわれた妹は照れくさそうに笑った。
END(816字)
4.「訳ありの客」
ある町に、記憶を売り買いする店があった。
記憶を魔術を使って抽出し、酒や砂糖と混ぜて原液にするのだ。その原液を炭酸水で割るとカクテルやジュースになり、飲めばその人の記憶を自分のものにすることができた。
とある朝、その店の青年店主は長いウェーブのかかった髪を無造作に掻き揚げ、カウンターで新聞に目を凝らしていた。
背後の棚には店主のもとに売られてきた記憶の溶けた原液の詰まった瓶がところせましと並んでいる。
ドアベルが鳴り、ひとりの少女が店にやってきた。
少女の身なりは粗末で、薄汚い。髪はきしんで、洋服はぼろぼろだった。
「いらっしゃいませ」
少女は悲痛な声で店主にこう言った。
「私にはお金がありません。ですが、いつか必ずお返しすると約束します」
少女は続ける。
「どうか私に新しい記憶をください。…私はもう自分の人生に疲れはてたのです。新たな人生を私にいただけませんか」
店主は、背後の棚からひとつの瓶を取り出す。瓶の中には、木苺と混ざり合った褐色の液体が揺れていた。
「これは、若くして病に倒れたある女性の記憶です。この小瓶の中身を飲んで、女性の母親の元を訪ねれば、きっとあなたを歓迎してくれますよ」
と店主は言った。
少女は喜んでその液体をジュースにして飲み、店を去っていった。
店主はまた新聞を読むのに戻っていった。
新聞の一面には、こう書かれている。
「天賦の才を持つ画家の失踪。
数々の賞を総なめにした少女の画家が突如行方を眩ました。家族や関係者は、切迫した様子で彼女を探している。少女がいなくなればこれは大きな美術界の損失だ…。」
それから数年経って、店主の元に1枚の絵が贈られてきた。絵には感謝を伝える葉書が添えられ、少女と、優しげな老母の写真が同封されていた。
店主はその絵を店の一番隅の壁際にそっと飾っている。
END(784字)
5.「最後の人斬り」
時代はさかのぼり、昔むかし刀がまだ帯刀を許されていたころ、呪いがかかった妖刀があった。
その刀は刀を振るったものが徐々に痣に覆われ、最後は火柱のような影に包まれて死んでしまうという死の呪いにかけられていた。
とある人斬りの男はその刀を手に入れ、好んでそれを使っていた。男は武士だったが、若いころにささいな口論で人を殺し、脱藩して、人には言えない暗殺業で日々の暮らしを営んでいた。
男は自分の人生に失望していたので、いずれ死んでしまうのなら刀を使うのは自分にとって丁度いいと思ったのだった。
男はその日も、依頼を受け、人を殺した帰りに蕎麦屋に寄っていた。
ここ数年、男はなにを食べても味がしない。どうせなにを喰っても同じだと、男は一番安いかけそばを頼んだ。
「はーい、かけそばお待ち!」
蕎麦屋の娘が元気よく男の席にかけそばを運ぶ。と、娘はなにもないところで転び、男の目の前の長机にそばをぶちまけた。男の周囲に客の視線が集まる。
「あちゃあ、花ちゃん、またやったね」
「ごめんなさーい!大丈夫でしたか?」
「いや…別に」
「お客さん、ずいぶん冷静だね!ま、花ちゃんはおっちょこちょいで有名だからな!」
客たちがどっと笑いだす。花はふくふくとした顔を向け、男の机を布巾で拭いた。
「いま代わりの蕎麦をもってきますからね」
そういうと、花は走って代わりの蕎麦をもってきた。その傍らに、一輪の青い花弁をつけた朝顔が添えられている。
「これはお詫びです。…それに、お客さん、体お悪いんでしょ?元気が出るように」
花は、男の腕から見え隠れする痣を見て、そう言った。
男は朝顔を仕舞うと、蕎麦をすする。ひさしぶりに出汁の味が出ていて旨い、と思った。
あくる日、男は別の青年から依頼を受けた。青年の小屋のような住処で、ふたりは正面に向き合って座っていた。
「この蕎麦屋の娘を殺してくれ。あいつ、俺の好意を断りやがったんだ。憎らしくて仕方ない」
青年は肩頬を歪めて笑った。
「あの娘はそそっかしいところがあるから、簡単に殺せるだろうよ。やさしくしてやったのに、俺みたいなやつは好きじゃないなんて、何様のつもりなんだろうな」
男は、すばやく立ち上がると、青年に向かって刀を振るった。青年の胸に妖刀が突き立ち、青年は刺し傷で意識を失ったままに命を落とした。
男が青年の胸から広がる赤黒い染みを見つめていると、男の体はめらめらとかげろうのように燃え上がった。
男の体に腕から全身にかけて黒い痣がひろがっていく。
炎に体を焼かれながら、男はなぜか、幼かったころのように晴れやかな気持ちになって微笑んでいた。
「あの蕎麦は旨かったなぁ」
男はそう呟くと、そのまま消し炭のように黒い粉になり、ばらばらと舞い散る灰になった。
男の体が燃え尽きた後には、灰の中に一輪の朝顔の青がぽつりと残されていた。
END(1315字)
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読んでいただきありがとうございました。
楽しんでいただければ幸いです。
またショートショート集を作ってみたいです。
機会があればお読みください!m(__)m
因幡