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私の52個のエートル トゥルマンテ ◆32個目◆

◇メイドイン親のラベル◇
ある日、友達のこうちゃんから電話がかかってきた。こうちゃんの話を聞いていると、なんとも奇妙な親が作ったラベルが思い浮かんだので、ここに書き残しておこうと思う。

こうちゃんにはお姉さんがいる。お姉さんは親と同居しているが、なぜか家事が「まったく」できないという設定で、この設定が家族の中で暗黙の了解になっているらしい。親公認で「できない人」に認定されると、なんと一生そのポジションが安泰になる。
逆にこうちゃんは、実家を出て独立しているにもかかわらず、「できる人」として認定されてしまったため、何かと頼りにされている。

こうちゃんの話を要約するとこうだ。
1. お母さん:リウマチで立つのがつらい。ここ数年家事全般ができなくなり、料理も作らなくなった。
2. お父さん:お母さんに代わって家事、料理をしていたが、病気でダウン。
3. お姉さん:同居しているが、「できない」設定のため、料理どころか何もしない。
4. こうちゃん:結婚して家を出ているが、「できる」設定なので、実家に通って作り置きのご飯をもっていく羽目になっている。

「お姉さんが料理すればいいじゃない?」と聞くと、「だって、お姉ちゃんはできないから」とこうちゃんは答える。
いやいや、今どきインターネットで何でも調べられる時代だ。クックパッドでもYouTubeでも丁寧な動画が山ほどある。「できない」なんて言い訳、もはや通用しないのでは?とツッコむと、こうちゃんはため息をついてこう言った。

「そうなんだけどね。やる気がないってだけじゃなくて、親も最初から期待してないから、誰もお姉ちゃんに何も頼まないの。お父さんが料理してるうちは、それで済んでたんだけど、今度はお父さんも病気になっちゃってね」

こうちゃんの家では、お姉さんは完全に「できない人」として扱われている。一方、こうちゃんは「できる人」だから、料理だけでなく病院の付き添いまで頼まれる。
付き添いぐらいは出来るだろというと、「車でいくからお姉ちゃんはペーパードライバーなんだよ。運転できないから私が行くんだよ」と。
それってどうなの?一緒にいくことすらしないらしい。ドクターの話を聞くのもこうちゃんがやっている。

「できない人」の安泰ポジション

家族の間で「この子はできない」というラベルが貼られると、それはもう鉄壁の盾になるらしい。
「できないんだから仕方がない」と親も諦め、本人も堂々とそのポジションに居座る。
そして、「できる人」には容赦なく仕事が降ってくる。結局、こうちゃんが病院の付き添いをして、料理を持参する日々が続いている。

家族にこの話をしたら、「え、お姉さん、動けないの?」と聞かれた。いやいや、動ける。普通に健康だ。でも「できない」という設定のため、何もしないだけ。しかも、親の家に住んでいて家賃も払っていないっぽい。それならせめて食費くらい入れるとか、家事をするとかしてもいいのでは?と思うが、家族全体が「お姉さんには期待しない」モードなので、誰も何も言わないのだ。
「なんかさーこうちゃんの話を聞いて思ったんだけどぉ。親は子供の性格を見て「この子はできる」「この子は無理」と勝手に決めつけることがあるよね。でもその「できる認定」が下された子は、ずっと家族のために動き続ける羽目になる。しかも本人は真面目だから、頼まれたら断れない。結果、「できない人」ばかりが楽をして、「できる人」が疲弊していく。なんか会社にもそういうのあるよね。任せれないから任される人に仕事が振られる構造。なんか今回のできる人の人種って、やっちゃう人、断れない人。」
私の会社にもいる!ビッグハウスじゃん!
たぶん、お姉さんも内心こう思っているのだろう。「やらなくていいなら、やらない方がいいじゃん!」と。なんなら、家族から「できない人」認定されていることを、ラッキーくらいに思っているかもしれない。

親にとっては、頼れる子に頼るのが一番ラクなのだろう。たとえ遠くに住んでいても、できる子がいるならその子に頼る。その子はちゃんと来てやってくれちゃう。でも、それってやっぱり理不尽だ。

親が我が子「できる・できない」でラベル貼りして、洗脳するかのように頼み事をする。頼まれた方は従い。頼まれない方はやってくれる人がいるからやらないでいいという、20年以上のそんな洗脳が続き、お互いが見ることで身についた認識なのだろう。
そのラベルが一度貼られると、簡単には剥がれない。そしてその結果、「できる子」ばかりが損をするのだ。

こうちゃんの家族の話を聞いて、「できるって、なんだろう?」と考えた。親の期待に応えることが「できる」なら、たまには「できないフリ」をするのも悪くないかもしれない。でも、それをやるのは、真面目な「できる人」には難しいのだ。

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