【映画評】ジョー・ジョンストン監督『ロケッティア』（The Rocketeer, 1991）

　1930年代末のハリウッドを舞台とする本作には、明らかにエロール・フリンをモデルとした人物（ティモシー・ダルトン扮する俳優ネヴィル・シンクレア）が登場する。あたかも、『ロビンフッドの冒険』（1938）ほぼそのままのスタジオ・セットで主演映画を撮影中であるシンクレアは、実はナチスのスパイであった。これを倒すのが、かのハワード・ヒューズの手になるロケット・パックを装着し空を飛ぶアメリカン・ヒーロー、ロケッティアだ。
　よってまずは、加藤幹郎が指摘する様に、1930年代のハリウッドに対して自己言及を行う映画として本作を見たい。その点、ハワード・ヒューズの伝記であるマーティン・スコセッシの『アビエイター』（2004）より洒落ている上に飛行機たちもよほど官能的だ。『ロケッティア』は、原作コミックを持ち、空飛ぶ「人間」を主人公とする映画として『アイアンマン』に先行する。スーパーマンの如き異能者であれば話は別だが、何人をもヒーロー足らしめる量産すら可能な飛行「装置」は、それ自体、敵対勢力（ナチスのような巨悪／軍産複合体）との間に争奪・開発戦を引起す主因となる。