【映画評】スティーヴン・ギャガン監督『ドクター・ドリトル』(Dolittle, 2020)
子供向けに作られているのであって、大人がそれに目くじら立てても仕方ないのかもしれないが、英国女王ヴィクトリアを引っ張り出してきて、その保護下にドリトルが動物愛護活動を繰り広げるというのだから――せいぜい自宅を動物園にするだけだけど――、これはもう完全に啓蒙主義にもとづく映画なわけである。
この映画の保守性は、血統主義のもとに魔法動物を徹底的に管理・隔離し、マグル(下層階級)には記憶を消去してまでこれに絶対に関与させないようにする「ファンタスティック・ビースト」シリーズ(2016-)と通底する。いや、むしろ「ファンタスティック・ビースト」シリーズの方が、現代の「ドクター・ドリトル」ということなのだろう。
実のところ、動物を自分たちに都合の良い「純粋無垢」な存在――それらは完全に制御可能なCGでかたち作られている――であるところに押し込めようとしているだけのこの映画は、子供に見せるにはどこまでもつまらない方向に政治的なのである。ついでのことだが、ドリトル役のロバート・ダウニー・Jr. が先ごろ演じたトニー・スターク(アイアンマン)が超国家主義者であったことを想起するなら、この役者の作品選びの傾向もまた分かろうというものだ。