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【試訳】シャルロット・ギャルソンによるR・リンクレイター『ファースト・フード・ネイション』(2006)評(Charlotte Garson, Cahiers du cinéma, nov. 2006, p.34)

 『チャーリーとチョコレート工場』(注1)がギトギトの様相を呈したのに対し、この反・工業食品的試みが「軽く」脚色されたことには心地よい驚きを覚えた。つまり、『ファースト・フード・ネイション』は(既に『スーパーサイズ・ミー』によって蒙を開かれた)「早食い」の者たちに教訓を垂れたいわけではなく(注2)、むしろ苦境(merde) がどこまでも連鎖してしまっているさまに関心を寄せているのだ(注3)。
 心優しきマーケティング主任のダン・ヘンダーソン(グレッグ・キニアー)は、食肉を供給している田舎については何も知らないが、ファーストフードの大手チェーンの一つである自分の会社がハンバーグに鞍下肉を混入させていることを知る。労働合理化を気ままに行ってきた結果、工場において、よく洗われていなかった牛の内臓からありえないほどの糞が肉に付着したというわけだ。
 「the shit hit the fan(クソが扇風機に当たる)」。 これは『ファースト・フード・ネイション』が充分正確に例証していることを的確に表した英語だ。つまり、それは誰もかわすことができないウンコなのである。あたかも悪臭芬々たるその断片が辺り一面に飛び散るかのように、食物の連鎖に絡めとられた登場人物たちが肥沃のコーラスを奏で、増殖する。アークエットとホークは初めからカメオ出演をしているに過ぎないとしても、リンクレイターはカタリーナ・サンディノ・モレノを活かすために、ぱっとしない主役の点検係を話の半ばで亡き者としてしまうことをも厭わない。西部の家畜の列は(我々は今、南カリフォルニアにいる)人間家畜の群れ、非合法で「チープな」メキシコ人労働力と入れ替わる。雇われ人は「クソ仕事」ヒエラルキーの下位にあればあるほど、内臓と接触する機会が増える。「今度バカをやったら俺はお前をマメ(腎臓)取りに移すぞ」。許可が下りなかったために屠場シークエンスはアメリカ国境近くのメキシコでフィルムに収められたのだが、それはドキュメンタリーさながらの環境で撮影されたのである。
 しかし、このドキュメンタリーはメタファーを排除しない。我々は既に、糞とは、アメリカ白人、裏で手を引く人種差別的牧場経営者が抑圧しているところのものに他ならないと理解している。たとえここで話されるネタに目新しい事実がまったくないとしても、リンクレイターは、腐った死骸、過剰なまでの肉、強固な意味論的結合を見せつけたことを弁解するかのように、あるものをそこに導入する。実験室での結果に駆り立てられて、牛糞が『ファースト・フード・ネイション』の会話のいたるところに散りばめられる所以である。ウソをたとえるのに「クソだらけだ」といい、雇用者をうまく教育できないことを「やつらをクソに教育する」といい、そんなことはどうでもよいといいたいときには「クソをくれるな」という。これらの会話表現はこの政治的クロッキーにかなり強迫神経症的な味わい、ループ感を与えるのである。そしてそれはリンクレイターの前作『スキャナー・ダークリー』のK・ディック的偏執からもそう遠くないところにある。

データ:Fast Food Nation de RICHARD LINKLATER
Etats-Unis, 2006, Avec : Catalina Sandino Moreno, Greg Kinnear, Bobby Cannavale, Ashley Johnson, Avril Lavigne, Patricia Arquette, Ethan Hauke, Luis Guzman, Erinn Allison. Durée : 1h 54. Sortie le 22 novembre.
                       〈訳注〉
注1:ティム・バートン監督(二〇〇五年、米/英)。
注2:モーガン・スパーロック監督(二〇〇四年、米)。
注3:無論、フランス語のメルド merde の第一義は「糞」であるが転じて「下らないもの」や「厄介ごと」、「苦境」をも意味する。

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