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20.父の逮捕・胎児の夢

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母の出産があり、父一人で地方へ仕事に行くことが増えた。
具体的に何の仕事だったかは知らないけど。
アダルト関連のイベントだと思う。
そんな中、父が逮捕された。
その罪状も子供だった私にはよくわからないけれど、おそらく風営法違反とか?じゃないだろうか。

母の反応は覚えてないけれど、祖母はとにかく泣いていた。
「だからマトモな仕事をしろって言ってるのに!
裸の仕事だけでも白い目で見られるのに、警察の世話にまでなるなんて情けない・・・」
祖母は長男の嫁である私の母にはとにかく意地悪だったし、私にも母の悪口ばかり吹き込んでいたけど、こればっかりは祖母が正しかった。

「親が警察に逮捕されたりするとね、子供もマトモな仕事には就けないし、普通の人と結婚する事もできないんだよ。
なっちゃんは可哀想に・・・」
と私の手を握って泣くのだった。

”普通の生活”を夢に見ていた私は、絶望した。
赤ちゃんが生まれたことで、”普通の家族”のようになれると淡い期待を抱いていたのに。
子供の私は願うしかなかったけれど、願う事さえ無駄なのだ。
どう頑張っても普通にはなれない。
そう言われたのと同じだった。

父は意外とすぐに帰ってきたけれど、両親の喧嘩も祖母vs母の喧嘩も日増しに増えていった。
当時は「父が逮捕されたから」だと思っていたが、今思えば母が妊娠・出産で働けない時期もあったわけで、家計は家のローンの返済が滞り始めていたのだと思う。
アダルト業界の衰退や、自分たちが稼げる期間など考えもせずに、豪勢な一軒家なんて建ててしまっていたから。

しばらくして母はまたストリッパーに戻った。
父は主夫のように家にいて、私と弟の世話と家事をやっていた。
当時は主夫なんて周りにいなかったし、"普通"とは違う生活だったけれど嫌ではなかった。
父の作るチャーハンやオムライスも。
たまに近所の中華屋にも連れて行ってくれた。

でも相変わらず友達などいなかった私は、広い家の中で遊ぶことしか暇つぶしがなかった。
母の部屋の雑誌を眺めていると、"胎児成長の記録"という本を見つけた。

気になってページをめくってみると、あの悪夢で見たものが載っていた。
胎児だ。
そういえば小学校にあがったくらいから、あの悪夢は見なくなっていた。

深夜のビルのトイレの便器にいた、何度も何度も夢に見た”赤ちゃんみたいな生き物”、あれは胎児だったのだ。
それまではあの生き物がなんだったのかさえわかっていなかった。
謎が少し解けて、恐怖の記憶は薄まった。

「あの時は妊娠する度に堕胎を迫られて、何度か泣く泣く堕胎したの。
パパは避妊してくれなかったからね。
何度目かの妊娠で、あなたに妹か弟を作ってあげたいってお願いして、やっと産むことを許されたの。」
そんなショッキングな告白を聞かされたのは、ずいぶん後の事だったけれど。
あの胎児は、私に何を伝えたかったのだろう。



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幸田 七海
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