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都知事選に関して思う事
今日は少し時間を戻して先月7日に行われた東京都知事選に関して考えたことをまとめていこうと思う。
自分としては珍しく、今回の選挙にはよく注目していた。僕が所属するゼミでは自分の関心があることについて15分ほどのドキュメンタリー映像を制作するのだが、その題材としても「石丸政治から見る若者の現在(仮)」を考えていた。
制作の手法の練り直しの指示をもらい考えていたのだが、興味深い文章を見つけたので、その内容も見ていこうと思う。
筆者の伊藤昌亮は『石丸現象とTiktok』で、TikTokのいいねの内容を分析し、石丸現象を説明しようと試みた。
僕がおもしろいと感じたのは、石丸氏のアピールの特異性に関する記述である。
「通常、政治家は政治的な語彙を用い、政治的な議論の領域で人々に訴えかける。それに対して彼はむしろ政治以前の領域、つまり『前政治的な』領域を設定し、そこで人々に呼びかけているように見える」
石丸氏の動画内では政策や政見よりもむしろ自己啓発に似た言葉が頻出され、また勉強の仕方や話し方のコツなどについて語られることが多いという。
伊藤はこれに対し、社会や景気がよくなる実感に乏しい若者たちにとっては社会生活の改善よりも、どのように各々が日常的な課題をこなし、自己実現を達成するかという点が重要であり、石丸氏はその点をよく理解していたのではないかと述べている。
皆さんがどう思うかはわからないが、今の社会には、社会より個人という傾向があるという意見には賛成である。介護制度には期待できないから投資して自分で確保しようねとか、当人の行いや努力が全ての自己責任の世界観では、税金を下げろとデモをするよりもその時間を英語やプログラミングの勉強に充てて将来の給料のために投資する方が合理的である。
自己防衛おじさんのような主張がその最たるものであり、未来に希望を持たない価値観の世代が政治に関心を持たないのは当然である。というか、政治に割く余裕がないと言った方が正しいのかもしれない。スマホに割く時間だけはあるのは皮肉なことだが。
石丸氏のSNS戦略は、政治的な支持を得るために前政治的な領域(個人に近い領域)を活用するという、政治の価値を引き落とすものに見える。戦略としては見事といえるだろうが、政治の問題は政治的な領域で議論されるべきであり、具体的な政策を示さない石丸氏が都知事や国会議員になったら、どうなってしまうだろうかと考えてしまう。
企画書を発表する会では、石丸現象に対する危機感というのはある程度皆持っているらしいということが分かったのだが、そのうち何人かは「なぜヤバいのか」という疑問を持っていた。そもそも、こういった政治的な話はデリケートなので題材としてあげるべきではないし、僕は元からかなり批判的な姿勢で企画書を書いてしまっていたせいであろう。反省点だ。
そのうち一人は、「実際にいる老害を批判し、改善しようとするのは悪いことではないのではないか」と説明してくれた。その点は全く同意である。
少し話はズレるが、保育園で勤務している母によると、最近の父親は依然と比べるとみんな育児に参加しているらしい。女性だけに育児を任せない文化はしっかり根付いているとみていいだろう。
実際、うちの父親も以前はまったく家事をやらなかったのに、最近は手伝っているのをよく目にする。父に話を聞くと「そういう社会になったから」らしい。そのため、「老害批判」も怠けていた議員の目を覚ます効果くらいはあるのではないだろうか。
批判そのものが社会に与える影響はいいとして、僕が問題だと感じるのは彼のポピュリズム的傾向である。ざっくりポピュリズムとは、対立の構図を煽りながら既得権益層との対決を訴える傾向を持つ。老害批判は最たるもので、既得権益を持つ老人を「悪」、自らをそれと相対する「善」とする。
この構図は政治が分からなくとも理解しやすく、感情的にも共感されやすい。さらに先導する指導者が「話の分かる」政治家であればなおよい。
「この人ならば」と思わせれば勝ちなのが選挙である。しかし、その民意はその政治家の正当性は証明しても、その政治家の資質(統治能力、人格など)を示すことは出来ない。解決する方法ってないんだろうなと思いつつ、これは選挙というシステムの欠陥だと思う。
僕はどんなに信じられそうな政治家でも、ポピュリズム的性格が見えたら支持することはないだろう。それは、対立構造に陥った時、たいてい解決策は中道にこそあり、一方的な排除ではなく意見をすり合わせていく事が肝要だと信じているからだ。
長くなってしまったのでこの辺で区切ろうと思う。
参考文献
伊藤昌亮「石丸現象とTikTok」. (2024). 世界. 岩波文庫出版, (985), 34-38.