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【看護師経験を振り返る】患者さんとの信頼関係について

私はこれまで、看護師として約9年勤めてきました。その中でライフスタイルの変化に伴い、3度転職を経験しています。

病棟、外来、施設と様々な現場でたくさんの方々と関わる中で、「相手との信頼関係」を一番大事にしてきました。

そして、自分では特別なことをした意識はありませんが、ありがたいことにどの現場においても良い信頼関係を築けたと実感することが多かったのです。

しかし私は今まで、その理由や根拠などについて深く考えたことがありませんでした。

そこで、この記事では「患者さんとの信頼関係構築」について焦点を当てて皆さんといっしょに考えていきたいと思います。


看護師と患者の信頼関係構築が重要な理由

医療現場における信頼関係の意義

まず、一般的な「信頼関係」という言葉の定義から考えていきましょう。

相互に相手のことを信頼し合っている関係、信頼することができるような関係、などという意味の表現。

Weblio辞書

では、次に医療職と患者・家族との信頼関係について、日本看護協会の看護倫理に基づいて考えていきます。

看護職と患者・家族が相互に「信頼」する関係を構築することが、看護を提供する前提である。また、信頼関係に基づいた患者・家族の協力が不可欠であり、より質の高い保健・医療・福祉を作り上げることにつながる。

日本看護協会

信頼関係という言葉や意義についておさらいする中で、私は思ったことがあります。みなさんもそうかもしれません。

「実際の現場は激務で多忙でゆっくり丁寧に関わる余裕なんてない!」と。

また、日本看護協会では倫理的課題として、

人々に寄り添い、保健・医療・福祉を提供する中で、よりよい関係を築くためのコミュニケーション等に悩む場面がある。人々が、看護職に対し、症状や心配事を看護職に訴えたときにきちんと対応してもらえなかったと感じると、看護職に対する不信感につながり、関係が悪化することもある。

日本看護協会

と挙げています。
私たちは信頼関係構築が大事で重要な意義を持つことくらい百も承知なのです。

ですが、時に業務を優先させなければいけないこともあり、その結果看護師への不信感につながる。
そのジレンマと戦いながら日々働いている看護師の方たちもいるのではないでしょうか。

けれど大丈夫です。そんなジレンマと戦いながら頑張っている方、初心に帰り業務的な姿勢を改めたい方、一度一息ついて基本をおさらいしていきましょう。

治療効果への影響

心理的な効果

信頼関係の構築は、患者の精神面に大きく関係します。
患者さんは、病気や治療への不安・恐怖に加えて、慣れない入院生活への不安も抱えて過ごしています。

「今日はどの看護師が担当だろう」
「不安や疑問を聞いてほしいけど、忙しそうだからやめておいた方がいいかな」

など、看護師の態度や対応によって患者さんの気持ちは大きく左右されます。

信頼関係を築けている看護師がいるだけで、患者さんは些細な不安な気持ちや治療への疑問など、思いを吐露しやすくなるのです。

その結果、患者さんは治療に対してより前向きな姿勢を持つことができるでしょう。

医学的な影響

また、信頼関係の構築は、患者さんの生理的な反応に大きなな影響を与えます。
まずは、ストレスホルモンへの影響です。看護師との間に良好な信頼関係が築かれた患者さんでは、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌が抑制されることが確認されています。
これにより免疫機能の低下を防ぐことが期待されます。

また、自律神経系にも好ましい影響が見られます。
信頼関係が築かれた環境では、患者さんの血圧や心拍、呼吸状態といったバイタルサインの安定も期待されます。

さらに、安心感による副交感神経の優位な状態は、消化器症状にも良い影響を与えます。例えば、患者さんは入院・治療により便秘になりがちですが、安心できる環境が予防効果をもたらすことも期待されるでしょう。

身体的な回復においても、信頼関係の影響は顕著です。
特に疼痛管理の面では、患者さんが痛みを正直に報告できる関係性が、適切な疼痛コントロールにつながります。適切に患者さんの状態をアセスメントすることは、患者さんのQOLを向上させる上で欠かせません。

治療プロセスへの影響

信頼関係が築けていることで、服薬指導や退院指導の場面でも役に立つでしょう。

信頼関係が確立されている場合、服薬指導の効果が高まり、患者さんは薬の重要性をより深く理解するようになります。これにより、処方された薬の正確な服用が促進され、治療の中断リスクも低減します。

また、退院後の継続的な支援にもつながるでしょう。
生活習慣の改善や継続的な外来通院など、必要性をより理解し取り組むことが期待されます。

信頼関係が築けない場合のリスク

コミュニケーションエラーの増加
患者さんは自身の症状や体調の変化について詳しく話すことをためらい、重要な情報が適切なタイミングで医療者に伝わらないことがあります。

治療効果の低下
信頼関係の欠如は、直接的に治療効果を低下させる要因となります。
特にリハビリテーションや生活習慣の改善が必要な場合、患者さんの主体的な参加が得られず、期待される治療効果が十分に得られないことがあります。

スタッフのストレス増加
信頼関係の欠如は、患者さんだけでなく医療者側にも大きな影響を及ぼします。

患者さんとの間に十分な信頼関係が築けていない看護師は、日々の業務に大きな精神的負担を感じることになります。患者さんの訴えや症状の理解に時間がかかり、コミュニケーションやアセスメントがスムーズに進まないことで、業務効率が著しく低下します。

このようにひとつずつ分析していくと、以前より信頼関係の構築の重要性を感じます。
みなさんはどうでしょうか?

信頼関係構築の基本となる7つのアプローチ

1. 積極的傾聴の実践

患者さんの言葉に真摯に耳を傾けることが、信頼関係構築の第一歩です。
相手の目線の高さに合わせて座り、適切なアイコンタクトを保ちながら話を聴きます。患者の発言を遮ることなく、うなずきや相づちを適切に入れることで、「話を聴いてもらえている」という実感を持ってもらうことが重要です。

また、言葉の背後にある感情や不安を理解するよう努めることで、より深い信頼関係を築くことができます。

2. 共感的理解の示し方

患者さんの感情や体験を理解し、それを言葉で表現することで共感を示します。「そのように感じられるのは当然ですね」「そのような不安を感じられる気持ちはよくわかります」といった声かけを、タイミングよく行います。

ただし、安易な同意や励ましは避け、患者の感情に寄り添いながらも専門職としての適切な距離を保つことが大切です。

3. 明確なコミュニケーション

医療用語を避け、患者にわかりやすい言葉で説明を行います。重要な情報は文書や図を用いて視覚的に示し、理解度を確認しながら会話を進めます。

また、曖昧な表現を避け、具体的な説明を心がけることで、誤解を防ぎ、信頼関係を強化することができます。

4. 一貫性のある対応

約束したことは必ず実行し、実行できない場合は理由を説明して代替案を提示します。また、チーム内で情報を共有し、どの看護師が対応しても一貫性のあるケアを提供できるようにします。この一貫性が、患者の安心感と信頼を高めます。

5. プライバシーへの配慮

診察や処置の際は必ずカーテンを閉め、個人情報の取り扱いには細心の注意を払います。また、他者に聞こえる場所での会話を避け、必要に応じて個室や面談室を使用します。このような細やかな配慮が、患者の尊厳を守り、信頼関係を深めることにつながります。

6. 時間管理とタイムリーな対応

限られた時間の中でも、患者一人一人に対して集中して向き合う時間を確保します。急いでいる場合でも、その旨を伝えた上で丁寧に対応します。また、患者からの要望や質問には可能な限り迅速に対応し、対応が遅れる場合は必ずその理由と予定を説明します。

7. 専門的知識と技術の向上

日々の研鑽を通じて専門的知識と技術を向上させ、確実な看護ケアを提供します。これにより、患者の「この看護師に任せて大丈夫」という信頼感を醸成します。また、自身の限界を知り、必要に応じて他の医療職者と適切に連携することも、専門職としての信頼を高める重要な要素となります。

実践におけるポイント

これら7つのアプローチは、独立して存在するものではなく、相互に関連し合っています。日々の看護実践において、状況や患者さん特性に応じてこれらのアプローチを柔軟に組み合わせることが重要です。また、これらのアプローチは一度の実践で完結するものではなく、継続的な努力と改善が必要です。

特に重要なのは、これらのアプローチを形式的なものとせず、真摯な態度で実践することです。患者は看護師の姿勢や態度から、その真剣さを敏感に感じ取ります。専門職としての誠実さと、人としての温かみを併せ持つことが、確かな信頼関係の構築につながるのです。

また、これらのアプローチは忙しいからという理由で避けてよいものではありません。看護師として最低限必要なスキルだと考えれます。

ハッとした方もおられるのではないでしょうか?

場面別・信頼関係構築の具体的手法

初対面の患者との関係構築

初対面の場面は、その後の信頼関係構築の基盤となる重要な機会です。まず、患者さんの病室を訪れる際は、必ずノックをして「失礼します」と声をかけてから入室します。ベッドサイドでは、自己紹介を明確に行い、担当看護師であることを伝えます。

「おはようございます。本日担当させていただく〇〇と申します。よろしくお願いします。」といった声かけを行います。このとき、患者さんの目線の高さに合わせ、適度な距離(約1-1.5メートル)を保ちながら、穏やかな表情で話しかけることが重要です。

これにより、患者さんの緊張を少しでも和らげて安心感につなげていきます。

高齢患者とのコミュニケーション

高齢患者との関わりでは、コミュニケーションの特性を理解した上での対応が必要です。声の大きさは通常より若干大きめにし、話すスピードはゆっくりと、一つ一つの言葉を明確に発音します。

説明を行う際は、一度に多くの情報を伝えることは避け、重要な点を3つ程度に絞って話します。例えば、服薬指導の場合、「この薬は食後に飲みます」「1回1錠です」「水と一緒に飲んでください」というように、シンプルに区切って説明します。

また、説明後は必ず理解度を確認します。必要に応じて要点を書き出したメモを渡すなどの工夫も効果的です。

不安を抱える患者への対応

手術や検査を控えた患者さんなど、強い不安を抱えている場合の対応は特に慎重に行う必要があります。まず、患者さんの不安な気持ちを十分に傾聴することから始めます。

「手術についてどのようなことが気がかりですか」といった開かれた質問を投げかけ、患者が自身の不安を言語化できるよう支援します。この際、急かすことなく、患者のペースで話せる環境を整えることが重要です。

不安の内容が具体的になったら、それに対する具体的な対処方法や説明を提供します。例えば、「痛みが心配」という訴えに対しては、「痛み止めはいつでも使えるように準備しておきますし、我慢する必要はありません。少しでも痛みを感じたら、すぐにお知らせください」といった具体的な説明を行います。

認知症患者との信頼関係構築

認知症患者さんとの関係構築では、その方の生活歴や趣味、好みなどの情報を事前に収集し、話題作りに活用します。また、その日の認知機能の状態に合わせて、柔軟にコミュニケーション方法を変更することが重要です。

例えば、混乱が見られる場合は、「今は朝の8時です。朝食の時間ですよ」といった具体的な声かけを行い、時間や場所の認識を支援します。また、否定的な対応は避け、「そうですね」と受け止めた上で、穏やかに現実への誘導を試みます。

実践のポイント

これらの場面別対応に共通する重要なポイントは以下の通りです。

  1. 観察力の重要性: 患者の表情や態度、声のトーンなどの非言語的サインを注意深く観察し、その時々の状態に合わせた対応を心がけます。

  2. 柔軟な対応: マニュアル的な対応ではなく、その場の状況や患者の反応に応じて、コミュニケーション方法を適切に調整します。

  3. 継続的な評価: 構築された信頼関係を定期的に評価し、必要に応じて対応方法を修正していきます。

まとめ:持続可能な信頼関係構築のために

医療現場における看護師と患者さんとの信頼関係は、治療効果を高め、患者さんのQOLを高める重要な要素です。これまで見てきたように、適切な信頼関係の構築は、単なるコミュニケーションスキルの問題ではなく、専門職としての総合的な能力が問われる課題です。

患者さんは常に不安や恐怖と戦いながら治療を受けています。
そのストレスが攻撃的な態度につながり、時には看護師に向くこともあるでしょう。
すべて受け入れて寛容になってください、とは言いません。

激務の中で初心と基本を忘れそうになったら、一呼吸おきましょう。
必ずあなたに救われる人がいます。

ぜひ、「患者さんが」「自分(看護師)が」気持ちよく過ごすために、日ごろから信頼関係の構築を心がけていきましょう。


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