ハニになりたい

図書館へ向かう道中だった。車の修理工場があって、フォークリフトが二台並んでいて、床は緑色でニスが塗ってあった。向こうから道路を渡って3歳位の少年が歩いてくる。手には花を持っていて、後ろの看板を振り向いたりしながら。
お母さんはどこに居るのだろうか。僕は辺りを見回してみてお母さんは見当たらないようだった。後ろを向きながら前に歩いたりする少年が、車の通るこの街を安全に移動できるのだろうか。僕は少年に話しかけたいと思う。お母さんはどこ?どこへ向かっているの?そこまで手を繋いで歩こうか?でも僕は図書館へと歩き出す。
どうして声をかけないのか。声をかけなかったから少年は車に轢かれてしまうかもしれない、お母さんは少年を探して不安でいっぱいかもしれない。声をかけたらそんなこと起こらないのに。いいことしかないのに。いや、見ず知らずのノッポの声の低い男に急に声をかけられた少年はきっと怯えるだろう。僕はそれが怖いのだ。小さい子供にも僕は怯えてしまうのか。もしも僕が女性だったら声をかけたか。声をかけたと思う。少年を怯えさせないで声をかけられたと思う。人を怯えさせることなんて考えずに、誰にだって笑顔で華を手向けることができたのだろう。
いいことすら勇気が出なくてできない。ああ。

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