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京住日誌 19日目

 京都にやって来る直前に偶然知り合ったお茶の先生からお茶会に誘われたことがある。そのお茶会は錦帯橋近くの吉香公園内にある、吉川氏ゆかりのお茶室で開催された。その先生はとっても上品で佇まいも優雅だが、非常に気さくな先生でもある。僕が京都に滞在中ということで東福寺内の退耕庵で開催するお茶会にご招待頂いた。普段はラフな格好をしているが、今日は久々にスーツを着て、清水五条駅から京阪に乗って東福寺を目指す。

退耕庵は長州藩の菩提寺

東福寺駅から徒歩数分で退耕庵に到着。入り口にある説明版には次のようにある。

慶応四年(一八六八)の鳥羽伏見の戦いの際には、東福寺に長州藩の陣が置かれていたことから、当庵はその戦いの殉死者の菩提所となっている。
退耕庵説明版

 これは後で知ったのだが、長州(山口)出身の歴代首相も就任の折ここを訪れるそうだ。そんな格式の高いところとはツユ知らず、受付へ。小筆が用意されていて墨で名前を書く。達筆が並ぶ中、我ながら自分の字の汚さに慄いた。そしてややあって茶室に案内される。そして油断していたら正客の席に座らされた。続いて本日の主催者の先生が登場。正客である僕に向かって深々と頭を下げてご挨拶される。
「正客様、本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。充分なおもてなしはできませんが、どうかごゆっくりお過ごしくださいませ。」
 しきたりはよく分からないけれど、おそらく正客は何か気の利いた返答をしなければならない。
「ご招待ありがとうございました。実は私、茶会は二度目で、しきたりも何も全くわかっていません。奥の間で主催者様のお手伝いをされているM先生は僕が正客席に座ったので怒髪天を衝いていらっしゃるかもしれません。無礼がありましたらどうかご寛恕くださいませ」

お茶室前に貼り出してある


 15名の参加者(僕以外全員和服)から笑い声が漏れる。主催の先生も笑顔になって「お茶の心の真髄はおもてなしです。どうか緊張なさらないで」と言われ少しホッとした。掴みはOKかもしれない。
そのあと素晴らしい菓子器に入った和菓子がまずは正客ですある僕の前へ。和菓子を自分の前取り、正客らしく?菓子器について尋ねる。
「初夏にふさわしい青の鮮やかな菓子器ですね。銘は?」
「蒼のしずくでございます」と先生。そして一通り茶器の説明があり、先生から「どうぞお菓子を召し上がりください」と言われたので、口にした。甘さ控えめな上品なお菓子だ。そしてお茶を立てて頂き、数回に分けて飲み干した。「結構なお点前でした」と挨拶してホッとした。大きなミスはなかったような気がする。

1時間余のお茶会だったけれど、正客も体験できたし、貴重な経験だった。M先生にもご招待のお礼を申し上げて退去。電車を乗り継いでいつもの右京中央図書館に行き、閉館時間まで調べ物をした。ホテルに帰った後は昨日の飲み過ぎ、食べ過ぎを反省して夕食としてうどんを食べた。

名づけて刻みとろろネギうどん

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