人流データに基づくまちの継続観測 -City Observability-

関西電力株式会社では、まちづくりに関する新規事業の一環として、スマートシティ化を推進すべく、まちの変化等が人流に与える影響を分析しています。具体的には、中核駅周辺やウォーターフロント等の再整備が進む神戸市三宮エリアの街なか100 か所以上にセンサーを設置し、主要な通りの人流を2018 年より継続的に観測してきています。三宮エリアのまちの変遷と人流を照らし合わせることで、まちのにぎわいを創出するイベントを仕掛けるべきタイミング等、まちづくりに関する一定の洞察が得られました。

分析結果

分析対象の通りを図1に示します。
特に生田新道、サンキタ通り、三宮センター街は恒常的に人流が多い通りです。

図1  分析対象の通りとセンサー設置位置


通りごとの、イメージアイコンを以下に示します。

サンキタ通り
三宮屈指の飲食店街。
生田新道
生田神社へと続く参道。しかしサンキタ通りに隣接するため飲食店街の色が強い。
三宮センター街
様々な業種のお店が軒を連ねる、非常に栄えているアーケード商店街。
京町筋
博物館やオフィス街がある通り。
葺合南54号線
タワーマンションや国際会館がある通り。他の通りに比較して閑静。
三宮中央通り
オフィスや商業施設が多く立ち並ぶ。
鯉川筋
元町中華街がある通り。
中央幹線
駅前ロータリーに面する通り。
仲町通り
高級ブランド街が立ち並ぶ閑静な通り。
税関線(フラワーロード)
南北を結ぶ代表的な通り。

分析結果

取得した人流データを用いた分析結果を示します。
【動画】

以下の図 2は,2020年2月から2023年4月までのコロナ禍における三宮周辺地域の主要な通りの人流データの推移です。

図2 コロナ禍における三宮の人流

緊急事態宣言#1

図 2を見ると、コロナ禍当初である2020年4月7日に兵庫県において史上初の緊急事態宣言が発令されましたが、その直後で全ての通りにおいて人流の大幅な減少が見られ、行政の呼びかけに対して市民が敏感に反応したことが推察されます。

緊急事態宣言#2

2020年5月25日に緊急事態宣言が解除され、その後は感染者数の増減に応じて人流も増減を繰り返した後、2021年1月8日に2回目の緊急事態宣言が発令されました。発令当初は1回目の緊急事態宣言時と同様に、全ての通りにおいて人流の大幅な減少が見られたが、後半にかけて徐々に人流の増加が見られ、行政の呼びかけの効果が薄まってきていたことが伺えます。

まん延防止等重点措置(以下、まん防)#1、緊急事態宣言#3

2021年4月5日に兵庫県初のまん防、4月25日に3回目の緊急事態宣言が発令されたが、人流の減少は限定的で、特に神戸三宮センター街ではむしろ人流が増加していることから、行政の呼びかけの効果がさらに薄まってきていたことが推察されます。

まん防#1、緊急事態宣言#4

2021年6月21日に2回目のまん防、8月20日に4回目の緊急事態宣言が発令され、特に神戸三宮センター街では一時的に人流の減少が見られたものの、その後は全ての通りにおいて人流が増加傾向となっており、ワクチン接種の一巡や重症化リスクの低下等により、人出が活発になったものと伺えます。

総じて、コロナ禍当初は、緊急事態宣言やまん防が街なかの人流の抑制に対して有効に働いていたが、コロナ禍後半になると抑止力がなくなっていたことが、継続的に取得してきた人流データからわかります。また、人流を抑制したい場合は、政府や自治体からの抑止宣言を出すのみでなく、リスク情報等を適切なタイミングで発信することが抑制につながるのではないかと推測されます。

以下の図3は、直近1年間(2023年4月~2024年3月)の人流データの推移を地域のイベントとともに示したものです。


図3 年間のイベントと三宮の人流

2023年11月23日に実施された、阪神タイガースとオリックス・バファローズのリーグ優勝記念パレードでは、全ての通りで人流の大幅な増加が見られました。また、1995年1月17日に兵庫県南部地方を襲った阪神・淡路大震災の記憶を次の世代に語り継ぐ、神戸のまちの希望を象徴する行事である神戸ルミナリエでは、会場であるウォーターフロントへの動線となる鯉川筋、フラワーロード、仲町通りにおいて、人流の増加が見られたが、それ以外の通りでは人流の変化は見られませんでした。

さらに2023年度の人流を見ると、大きなイベントのない6~9月は、イベントのある他の月と比較して人流が少ないことから、三宮周辺地域のさらなるにぎわい創出を図るには、夏季に集客効果のあるイベントを開催することが有効であると推察されます。

以上から、三宮周辺地域の人流を広範囲で計測できることから、COVID -19や地域のイベントが街なかの人流に与える影響を可視化し、まちづくりに係る洞察を得ることができました。こうした街なかのセンサーを活用した人流データは、GPSデータ等と異なりリアルタイムで計測できるため、2022年度には神戸大学による実証実験にて、取得したデータを混雑情報としてLINEの公式アカウントから配信し、コロナ禍においても安心安全でスマートな移動を支援する等、データと現実世界での行動変容等を連動させる取り組みが進められています。今後は同様の取り組みの拡大が考えられます。


今後の展望

関西電力株式会社発のスタートアップであるゲキダンイイノ合同会社では、「好きなときに乗って、好きなときに降りられる」をコンセプトに開発された自動走行モビリティ「iino(イイノ)」を使った移動体験をデザインしています。最高速度は早歩き程度の時速5kmであり、「遠くへ、速く」を追い求めてきたこれまでの乗り物とは違い、「近くへ、ゆっくり」というアプローチで、都市空間に新たな移動を提案しています。

2024年5月22日から28日の間、神戸市、関西電力株式会社、ゲキダンイイノ合同会社は、神戸三宮センター街において、自動走行モビリティの走行実験を行いました。

この走行実験では、人流センサー(エッジAIカメラ型)において取得したリアルタイム人流データを活用して、一定数以上の人流発生時にはモビリティの走行制御を行う等、歩行者との共存性を検証しました。

今後はスマートシティの実現をさらに進めていくために、こうした人流データを現実世界へフィードバックすることで、現実世界での行動変容や地域活性化を促すような、都市のデジタルツインを目指した取り組みを進めていく予定です。