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【童話】ねぐらぼっこ -お猪口と色えんぴつ①-
くるりとまるめた長いしっぽを、打楽器のように弾ませて、あっちのテーブルへ、こっちの鍋へ、自由自在に跳ねまわる。
ごはん係の物怖じしない行動力は、ことに勇ましい。
いや、無鉄砲だ。
煮え立つ豚汁めがけて、空中に弧を描いているところを、間一髪、おたまでキャッチしたこともある。
それからというもの、食べ物に関しては、こちらでも気を配って準備するようにしている。
鍋ものは、きちんと冷ましてから、硬くて重い蓋を少しずらしておいてやる。乾物や小麦粉、調味料などは、小さな器へ入れかえて、テーブルの端へ並べておくことにした。油紙やコルクで、軽く蓋をして。粉ものには、薬味用の小さな木の匙も添えて。
中身が分かるように、器にひらがなのラベルを貼っておく。文字を理解しているかどうかは分からないが、なにかと要領のよい彼らのことだから、いずれ勝手に覚えてくれるだろう。
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小さな器なら、たくさんある。
気まぐれに、ちょっと遠出した先で、小鉢やお猪口、豆皿など、手のひらサイズの器が並んでいるのを見かけると、つい足を止めてしまう。
ひとくち、ひとつまみを、じっくり味わうために、わざわざ本皿とは別にあしらわれた、それらの佇まいは、作り手それぞれの趣向が凝らされており、なんとも愛おしい。
「一期一会 」なんて言葉に、日頃からキュンとやられてしまいがちな性分のため、新鮮な土地での出会いともなれば、射落とされない訳がないのだ。
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