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優しさで満たされる一冊

先日、こちらの本を読了しました。

吸い寄せられる表紙です…。

阿部暁子さん。初読み作家さんなのですが…どうしたらこんな綺麗な言葉を紡げるのだろうと美しい表現が散りばめられています。

例えば。

今日は薄曇りだ。やさしい水色の空に粉砂糖を振りまいて、そっと刷毛で広げたような雲がかかっている。

カフネ 阿部暁子

西に沈んでいく太陽がまばゆい光を放ち、夕暮れの大気が金色に染まっていた。微細な金粉が舞っているような光の洪水の中を歩いていると、髪も皮膚も、空気を吸い込んだ肺までも、同じ色に染まっていくように思えた。

カフネ 阿部暁子

すごい表現力…いや、言葉の選択…。風景の描きかたひとつでこんなにも引き込まれるって…。

それは感情の表しかたにも…すごく好きな表現がありまして…

後ろ姿が水に沈むようににじみ、薫子はそれがあふれ出さないようにこらえながら…

カフネ 阿部暁子

「涙があふれでる一歩手前」ですよね。でも直接的な言葉を使わず、でもしっかりその映像が浮かぶんです。

本当にですね、書ききれないですがハッとさせられる細やかな表現たちにまず驚きます。

ここで簡単にどんなお話か紹介させて頂きますね。

ー法務局に勤める野宮薫子。ある日、弟の春彦が突然亡くなってしまう…。遺言書を残して。

その遺言書には元恋人の小野寺せつなに自分の財産を相続してほしいという内容が記されていた。

しかし、当の小野寺せつなはその権利を破棄することを伝える。弟の春彦の遺志を尊重したい薫子はどうにか気持ちを変えようとせつなと接していくなかで、せつなの仕事を手伝うことになる。

その仕事とは家事代行。薫子はせつなと共に過ごしていくなかで様々なことを知っていくようになり…。

と、いうようか流れなのですが…タイトルのカフネ。

ポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」。

家事代行の現場で、薫子は色々なお客様と出会います。

そのなかで薫子たちが…そのお客様に向き合う姿や、話しかける言葉が…タイトルのようにそっと、置くような優しさがあって、それがすごく心に沁みます。

生きていれば、楽しいことばかりじゃない、人生を投げ出したくなるくらいに辛いことも起こりますよね…。

だからこそ、一人の言葉が響いて明日も生きようと思える瞬間があるよね…と改めていま、自分と繋がってくれるひと…声をかけてくれることの温かさに気付かせてくれました。

わりと嫌いじゃないというぶっきらぼうなひと言で、今、命をつないだ。その言葉だけで、この先一ヶ月くらいは、きっと何が起きても生き延びられる。

カフネ 阿部暁子

大げなことじゃなくて…例えば温かい部屋で、温かいごはんを「美味しいね」と感じられることだったり…それを言える誰かがいること。それって何気ないことのようだけど、そのひとつひとつが活力に繋がっているんですよね…。

温かい優しさに触れられるお話です。

最後、春彦について衝撃的な展開もありますが…よりそこでラスト、タイトルのカフネが響きます…。

優しさってなんだろう…?と考えたとき…優しさに触れたいときにぜひ…。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

真夜中のカフェでした。



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