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ダイソー大騒動
練馬駅に百均の『ダイソー』が出来た。しかも、迷うほど広い。
オープンしたのは2月8日だったが、俺の家とは反対方向にある為、その情報をすっかり忘れており、本日、銭湯に行こうと駅を通りすぎた時に思い出した。俺は、急にテンションがあがってきた。既に熱い湯に浸かった位、体温もあがってきている気がした。
というのも、以前は千川通りに小さなダイソーがあったが、コロナの時に閉店し、以後、百均へ行くには隣駅の桜台まで行かなくてはならなかったからである。
そんな、百均難民だった俺。いや、俺だけでなく練馬駅周辺の人々にとっては、今年がまだ始まったばかりなのに、今年一番のニュースではないだろうか。おそらく、これを越えられる出来事は、練馬駅周辺では、この先、数年は起こらないと俺は勝手に思っている。
このダイソーは、もともと、『SEIYUパート2』があった建物に出来た。
自動ドア付近には、これから入って行く人々が数組、出て行く人々が数組見えた。この時点で、以前の光景では見たことがない賑わいである。まるで全盛期の池袋東急ハンズのようだ。
俺は練馬にいながらにして、繁華街を体験している贅沢感に罪悪感まで覚えながら、夢の百円ランドに吸込まれるように入って行った。
だが、入った瞬間、めまいがした。
広すぎるのだ。もちろん、このフロアは去年まではSEIYUパート2があった場所だから空間は把握していたのだが、目の前が隙間なく商品で埋め尽くされた棚で埋まっていた。
よく見ると、フロアの左側は『THREEPPY』『StandrdProducts』という店舗が入っている。俺は今まで知らなかったが、どうやらここもダイソー系列らしく、300円以上からの少し高級感のある商品が陳列されている。
違う店といえども同じ場所にあるゆえ、結局、ここもダイソーであるといってもいい。
「池袋に来たみたいだね!」
「そうだね!もう池袋に行かなくてもいいねぇ~」
どこからか、そんな声が聞こえて来た。
確かにその通りだ。
俺も入店して、まだ3分と経ってないのに、すっかり練馬の記憶がなくなってきている。
そういえば、豊島園駅にある『メイキング・オブ・ハリーポッター』も、行った知人によれば、入場してすぐに練馬を忘れるらしい。
このダイソーはハリーポッターに続く魔法の国なのではないだろうか。
凄い人の多さだ。
ここを出た時の落差が怖い。いや、そんなことを考えてはいけない。
この非日常に没入しよう。おいおい、百均のどこが非日常なんだ、バリバリの日常じゃないか!と冷静になっている人は、俺の見る限り今のところいないように見える。
これだけ商品があると、逆に欲しい物がなくなってしまうのではないか?
そう思ったが、心配無用の練馬人たちは、百円の嬉しさで、さほど欲しくないものまで買い物カゴに詰め込んでいるようにも見える。
今までの練馬百均ロスを取り戻そうとしているのだろうか。
俺はこのよく分からない闘争心に火がついた練馬人を見て、まずは何でもいいからカゴに入れようと、目についた割り箸を手に取った。そのうち使うだろうから、家にあってもよいだろう。
続いて、今度は、サランラップ。これも、そのうち使う。取り出し口が分からなくなって、爪でガリガリと剥いて、不快になって、まだだいぶ残っているサランラップを捨てたことは限りなくあったので、これは数本ストックしておいたほうが安心する。
衣類コーナーもいい。百円ではなく、二百円の帽子がある。これはカゴに入れる前に被ってみよう。工場の作業員のような形のキャップだが、なかなかオシャレだ。とても二百円には見えない。かといって、二千円にも見えないが、千円位には見え、立派である。だが、これはやめておこう。俺が被ると、つげ義春の漫画に出てくる陰気な作業員のような風貌になってしまう。
下着コーナーもある。暖かそうな靴下。デザインは無地。
これが本当の無印良品と呼べるのかもしれない。などと付加価値をつけ加え、二足、カゴへ。せっかくだから、二足は買っておこう。
おっ、パソコン&スマホ関連のコーナーだ。このフカフカしたのはなんだろう。ノートパソコン入れだ。持ち運びに必須だが、そういえば俺はこれを所持してない。今月は地方に仕事で行くから必要なアイテムだ。えっ、四百円?百均なのに。たまにある百均の罠だ。いや、これを罠と言ってはいけない。百均は昔と違って商品クォリティがあがり、百円オーバーは当然なのだ。俺のパソコンが四百円で守られると考えたら破格だ。カゴに入れよう。
おや、若い女の子がワイワイガヤガヤ。あれは、お菓子コーナーか。百均でお菓子を見ると、駄菓子屋の感覚を思い出して、俺もワイワイガヤガヤしたくなる。クッピーラムネが俺を出迎えている。ウサチャンが呼んでいる。
リスチャンも呼んでいる。俺は少年に戻ってカゴに入れる。えっ、チキンラーメン、マルちゃん製麺、サッポロ一番、ラ王、などの袋麺が二個で百円・・・どんな特売よりも特売。大特売ではないか。大コーフンだ。よ~し、カゴの中に、ヒヨコチャンとマルチャンも追加だ。
うわあ、一時はあれほど品薄だった不織布マスクが大量にある。最近、インフルエンザも怖いから、これも入れておこう。
よし、これで一周したかな?
あっ、『THREEPPY』と『StandrdProducts』に、まだ行ってなかった。
とりあえず館内マップを見みよう。現在地はどこだ。
待て、二階もあるぞ。二階もダイソーなのか?
エスカレーターをあがってみよう。
なんだここは!これは、家電量販店の『ノジマ』ではないか!
このフロア全部がそうなのか。最新型のパソコン。冷蔵庫。洗濯機。掃除機。テレビ。こんな大きなテレビを置ける家の人は、一階のダイソーに用はないのではないか。
見るものが多くて、もう体力がなくなってきた。
俺は今日一日では周れないことをこと確信し、とりあえず一階にあるレジへ向かうことにした。
エスカレーターをおりる時、ノジマのフロアから、
「いやぁ~池袋行かなくていいじゃん!」
と、また誰かの声が聞こえて来た。
一体、今、この建物の中で何人が同じセリフを言っているのだろう。
レジは長く、池袋まで続いているようであった。