メンソレータムはヨクキク
2022 11/29(火)
「はい、メンソレ」
子供の頃から、塗り薬といえばメンソレータムだった。
実家の鏡台の前にはメンソレータムが置いてあり、俺のおばあちゃんは、メンソレータムさえ塗れば何でも治ると信じていた。
「虫に刺された~」
「はい、メンソレ!」
「膝すりむいた~」
「はい、メンソレ!」
「鼻血が出た~」
「はい、メンソレ!」
「眠い~」
「はい、メンソレ!」
眠い時は、瞼にたっぷりと塗れば、アラ不思議、目に染みて寝てなんかいられない。実にヨクキク万能薬。
おばあちゃんが、何故、これほどまでメンソレータムに信頼を寄せるのか?それには理由があった。
昔、足の親指からバイ菌が入った時のこと、病院嫌いのおばあちゃんは、日に日に悪くなっていく自分の足の親指を見て思ったそうだ。
「このままでは、病院に行かなあかん、行ったら、指を切断されてしまう、それは嫌や、なんとか自力で治したい」
その時、ふと鏡台に置いてあるメンソレータムが目に入った。
それまでは、擦り傷などでしか使ったことがなかったが、どういう訳だかおばあちゃんは、メンソレータムの蓋を開け、足の親指を突っ込んだ。
「これで一晩寝てる間に、瓶の中のメンソレが全部、足の親指に染み込んで朝になったら治っているはずだ」
突飛な治療法を思いついたおばあちゃんは、そのまま布団へ入ったそうだ。
翌朝、目覚めると布団の中にはメンソレータムの瓶が転がり、メンソレまみれの足の親指がむき出しになって、布団はベタベタしていた。
慌てて起き上がると、気分がとてもよい。なんだか、ス~っとしている。
立ち上がって歩いてみると、痛みがなくなっている。
しかも、瓶の中のメンソレは殆ど減ってない。
「やったー!病院行かんでも治った、メンソレのおかげや!ワハハハハ」
それ以来、万能薬になったそうだ。
そんな何にでも効くメンソレータムだが、俺はもう、これだけはやめておこうということがあった。
「髭を剃って、ヒリヒリして痛いねん」
「はい、メンソレ」
いつものように、おばあちゃんに渡されたメンソレータムを髭剃りあとに塗ったら、ス~っとしたのも一瞬で、ヒリヒリは何倍にもなって、のたうち回るほど痛かった。
急いで水で洗い流した俺は、メンソレに初めて裏切られたのだった。
今でも、実家に帰省すると、鏡台の前にメンソレータムが置いてある。
しかも、ある時期から、特大サイズになっている
「デカい方が、足の指を突っ込みやすい」
と、本気なのか冗談なのか分からないが、令和四年の現在でもメンソレータムは実家の万能薬として重宝されている。
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