片手に高枝切り鋏、心に王子

2021年12月7日

10月に父が脳梗塞で倒れた
搬送された時の医師の診断では
助かってもリハビリもできない
いわゆる寝たきりになるだろうという事だった
しかし奇跡が起きた
死の淵から舞い戻った父は
意識もはっきりしていて
麻痺していない方の半身は自由に自分の意志で動かすことができた
これならリハビリも可能で
自走で車椅子にも乗れるだろうということだった
そこで急いでリハビリ病院への転院の準備が進められた

リハビリ病院へ転院する日の2日前に
父の容態が急変

脳梗塞を起こした側の脳の血管が脆くなっていて
そこから脳出血を起こした
ということだった
いわゆる意識不明の重体というやつだ
そこで延命のための緊急手術が行われた

出血を止めるためと
出血により腫れた脳で脳幹が圧迫されて呼吸が止まらないように頭蓋骨を一部切り取り
腫れた脳を頭蓋骨が圧迫しないようにするためだ

脳の腫れが引いた後に
冷凍保存しておいた頭蓋骨を戻す整形手術が
12月6日に行われた
手術が無事に終わった翌日

少し古びた高枝切り鋏を手にした私は
まるで茨に閉ざされた城に眠るお姫様を救出するために茨と闘う王子の気分だった

私たちの住む街から父の家まで
片道1時間半はかかるので
そんなに頻繁に訪れることはできないことに加えて

世間はコロナが蔓延しており
特に病院、高齢者施設は
イバラに閉ざされた城のように
外部からの人間は完全にシャットアウトせざる得ない状況だった

父に会うことも
状況も聞くこともままならない状況の中
時々郵便物などを回収するために実家に帰り
そのタイミングで庭の落ち葉などを集めたりしていた

そんなことをしていると
庭の手入れなどは全くわからないなりに
気になるところが出てくる

その気になるものの一つが
家の西側の片隅に生えているモッコウバラだった

モッコウバラは好き放題に伸び伸びと枝を伸ばし
隣に生えている木や生垣のマサキも飲み込む勢いになっていた

そしてモッコウバラ自身も枝たちが絡み合い
窮屈そうだった

それを見上げていたら

まるで父の脳のようだと思った
いろんなものが絡み合って
うまく動かない
そんな感じがしたのだ

風水なんかの世界では
世帯主の状況と家の状態がリンクするともいう

これは
どげんかせんといかん!
と思ったのだ

しかし季節は12月
転勤族集合住宅育ちの
庭仕事初心者でも
季節的に剪定などをすることはあまり適していない季節であることはわかる

暖かくなるまで待つのか?
剪定の仕方を学んでからの方がいいのではないのか?

という葛藤もあったが

そこまで待っている猶予はない

と思った

もし剪定して枯れてしまったのなら
それはそれで構わない

という投げやりなんだか勇敢なんだかわからない謎の使命感に駆られて

昼間のテレビショッピングで
一本買ったら
もう一本おつけします!
という謎のツッコミどころ満載のフレーズしか印象のない
テレビの画面でしか見たことのない
高枝切り鋏を持ち出してきて
モッコウバラの枝を切り始めた

しかし

モッコウバラの枝は絡みに絡み合い
伸びに伸びていて
どれを切れば解れていくのかわからない

切るには切っても
他の枝に絡んで切った枝が途中で引っかかり
宙ぶらりんで地面に落ちてくることもない

そしてモッコウバラはバラである
そうトゲがある
宙ぶらりんの枝を引き摺り出そうと引っ張ると
気を抜くと
トゲが容赦なく襲ってくる
服や手袋を通してもささると痛い

眠り姫を救出するためにイバラを切り開いた王子様の気持ちが少しだけわかった気がした

しかし
王子様が切り開いた先には美しいお姫様が待っているが
私の場合はそんなご褒美はない
その違いは大きい

そんなことを考えながら
必死で1時間格闘したのち

諦めた

イバラの切り開くのをではない

剪定を諦めた

私はモッコウバラを丸坊主にすることにしたのだ

太い幹部分だけ残して
後は全て切り捨てる!

ことにしたのだ

そうなれば話は早い

何も考えず
目に入る枝をガンガン切っていく

そして
モッコウバラは無惨にも丸坊主になった

これから本格的な冬に向かうのに
こんな姿では枯れてしまう可能性は高いな
と少し心は痛んだが

隣人の木も飲み込んで一体化するほどのモッコウバラがなくなったことで
庭全体は風通しがよくなった気がした

先に
眠り姫の王子様はイバラを切り開くことで
眠り姫というご褒美が待っていたが
私たちにはない
と言ったが

実はそうではなかったということを私たちは
3ヶ月後に知ることになる

のだが

それはまた別の話



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