シェアハウス・ロック0924

この長谷川眞理子さんは、あの長谷川眞理子さんか

「【Live】第五六回文楽鑑賞教室0916」の回で言い忘れたことがある。「鑑賞教室」だから、「教科書」(パンフレットね)が配布されるのだが、巻頭に長谷川眞理子さんの挨拶があった。肩書は、「独立行政法人日本芸術文化振興会・理事長」というものである。
 私が知っている長谷川眞理子さんは、生物学者の長谷川眞理子さんである。何冊か著書を読んでいるが、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』はとてもいい本なので処分できず、いまでも書庫にある。それによれば、ご専門は動物行動学、行動生態学とある。
 巻頭挨拶には、肩書をはみ出した言葉は皆無で、それを読んだ段階では、この長谷川眞理子さんがあの長谷川眞理子さんかをまったく同定も否定もできなかった。しかも、専門がまったく違う。これも、同定も否定もできなかった一因であった。
 結論を言うと、同一人物であった。毎日新聞に「時代の風」というコラムがあり、「あの」長谷川眞理子さんは常連執筆者なのだが、9月22日の同欄のお名前にその肩書があったのである。これは毎回読んでいるのだが、肩書を見逃していたものか。
 上記4つのなぜは、①至近要因 ②究極要因 ③発達要因 ④系統進化要因である。これじゃなんだかわからないので、平明に言えば、①その行動が引き起こされている直接の要因はなんだろうか ②その行動は、どんな機能があるから発現したのだろうか ③その行動は、動物の個体の一生のあいだに、どのような発達によって完成されるのだろうか ④その行動は、その動物の進化の過程で、その祖先型からどのような道筋をたどった出現してきたのだろうか ということである。私の好きな言葉で言い直せば、③は個体発生であり、④は系統発生だ。
 私は、科学者の書く文章が好きである。専門の学問で培った素養というか、そういったものがスッと一本通っている気がするからである。人文系の人は当たり外れがあるが、理系の人は当たり外れが少ない。前に、柳澤桂子さんを例に出して、庭の話をするにも、一本、科学という背骨が通っていると書いたことがあるが、これは長谷川眞理子さんにも通じることである。
 独立行政法人日本芸術文化振興会理事長(長いね)のお仕事のほうも、スッと一本背骨を通して、がんばっていただきたいところである。
 毎日新聞9月22日の「時代の風」の最後のパラグラフを紹介する。

 昨今、インバウンド対応など日本文化を「売り」にしようとする動きが多い。しかし、文化とは、ある集団が独特の環境の中で長い歴史を経て育んできたものだ。普遍的に良いものなどない。単なるエキゾチシズムではなく、何がどう貴重なのか、売るためには考えねばと思う次第である。

 この最後のパラグラフを、ただただ日本礼賛の、低劣なテレビ番組をつくっている制作者に是非聴かせたい。ここでは、生物多様性を重視するという生物学者としての背骨が、無理なく文化の多様性というところに接続しており、しかもご自分の職掌をきれいに踏まえている。こういう明晰な文章が、私は好きである。

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