シェアハウス・ロック(or日録)0203

『老後の真実』2

 老人は、タイムスケールが長くなっている。これに関して、以前私は、体内の代謝速度がコンピュータの「クロック周波数」のように働いていて、その波が長くなっている(つまり、ゆっくりになっている)ので、歳をとると時の経つのが早く感じるようになるのではないかと申しあげたことがある。
 つまり、この仮説では、検索速度そのものが遅くなることになる。
 これに加え、『老後の真実』(文藝春秋編)の巻頭インタビューで池谷祐二さんは、大人は子どもに比べ、頭のなかにたくさんのものを詰め込んでいるから、検索に時間がかかるのではないかと言っている。こっちは、検索範囲の問題である。
 たとえば、子どもの「つい最近」は、せいぜい3日前とか、長くて一週間前なのに対して、大人の「つい最近」は半年くらいのことすらあり、その間にいろいろなものを頭に入れているので、検索に時間がかかるのだと池谷さんは言っている。
 このタイムスケールはいろいろなところで効いていて、ど忘れに関しても、池谷さんはタイムスケールの問題だと言っている。
 たとえば「最近のど忘れの回数はどの程度ですか」といった設問では、前述のように子どもの最近が3日間に対し、老人の最近は半年なので、単純にカウントしても、60倍老人がど忘れしていてもあたりまえだと池谷さんは言う。
 これも、老人としては心強い。
 ただ、生後半年のウサギと、生後2~3年のウサギで実験(ブザー音を聞かせ、そのすぐ後に目に空気を吹きかける。おぼえると、ブザー音がすると目を閉じるようになる)したところ、若いウサギは200回でおぼえたが、老ウサギがおぼえるには800回かかったという。たしかに、この実験の結果は、海馬の性能が年齢とともに衰えたことを示している。これは、老人としては残念なところだ。
 だが、全国の老人の皆さん、決して落胆することはありません。
 彼らの脳波を測り、θ波が出ているときに同じ実験をしたところ、その結果にはほとんど差が見られなかったという。
 θ波が出るのは、次はなにが起こるのかとか期待するとき、つまり好奇心が喚起されていたり、わくわくしたりしている状態である。
 だから、いままでやったことがなかった分野に挑戦したり、新しいことにチャレンジしたりすれば、それほど衰えないで済むという結論になるだろう。
 私、たぶん大丈夫だな。
 おそらく、私は、老人になって記憶力が衰えたのではなく、子どものころから記憶力に問題があったんだな。歳のせいにしてはいけない。

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