シェアハウス・ロック1119
最大素数の発見
私らの知る最大素数が更新された。この10月12日のことである。分散コンピューティングでずっと最大素数を探していることは聞いていたし、今回の発見は、どこで知ったかはおぼえていないが、私はその2、3日後には既に知っていた。
素数とは、整数であり、自然数であり、約数が1とその数自身のみであるもののことであるという定義がある。だが、この定義では、1も素数になってしまう。
割合最近まで、1を素数とする数学者もいたが、現在では1は素数でないことになっている。よって前述の定義は、現在では約数を2個もつ自然数ということになっているようだ。これなら1は入らない。
0も困った数字であるが、1もまた困った数字なのである。プラトンやアリストテレスなどをはじめ、ほとんどの古代ギリシアの哲学者は1を数と見なしていなかったようだ。
いま、安易に、「0も困った数字」と書いてしまったが、0は数字ではあっても、数ではないのかもしれない。
いま、この文章を、毎日新聞11月13日朝刊「質問なるほドリ」というコーナーを参照しながら書いているが、その表題は「史上最大の素数って?」となっていた。これにちょっと引っかかったので、これを書いているようなものだ。
どこに引っかかったのかというと、「史上最大の素数」にである。素数は無限にある。素数が無数に存在することは、紀元前3世紀ごろのエウクレイデス(ユークリッド)の著書『原論』で既に証明されている。証明自体はややややこしいので省略するが、背理法を使うことだけ言っておく。
だから、無限にあることがわかっているものに対して「史上最大」というのに引っかかったわけである。
今回の発見は、メルセンヌ素数を使ったものだという。(2の素数乗-1)がメルセンヌ素数である。たとえば、素数7は(2の3乗-1)であるし、素数31は(2の5乗-1)である。今回見つかった素数は、(2の136279841乗-1)であり、4102万4320桁であるという。
素数は古来から数学者を惹きつけてやまず、いろいろな検出方法が編み出された。有名どころとしては、エラトステネスの篩、サンダラムの篩、アトキンの篩が知られている。
エラトステネスの篩を説明すると、まず、2(素数)の倍数をはじく。これで、偶数は素数でないことになる。あたりまえだけど。次に3(素数)の倍数をはじく。次に5、7と素数の倍数をはじいていき、新たに見つかった素数の倍数を次々にはじいていく。非常にわかりやすく、シンプルなのだが、有効な検出法である。
素数は、その出現頻度等も含めおもしろいものだが、「それがなんの役に立つのか」というFAQがある。答えは、とりあえず、公開鍵暗号のアルゴリズムに使用できるというものだ。また、ハッシュテーブルや擬似乱数生成にも使える。これらは、工学的に有用性の高いものである。
でも、繰り返しになるが、素数そのものがおもしろい。以前、『素数の音楽』(マーカス・デュ・ソートイ)を紹介したが、この本は素数にまつわる数学史と言ってよい。
今回はもう一冊、『素数ゼミの謎』を紹介する。似たタイトルで何冊か出ているが、私の読んだものは吉村仁さんの著作だと思う。図がとても多く、子ども向けの本のような印象だった。素数的にはあまりおもしろいものではないが、セミ的にはとてもおもしろい。また、ここから素数の性質に思いを馳せることもできる。いい本である。
前述のFAQの答えに、もうひとつ「固定ギア自転車のタイヤの寿命対策」というものがあり、これは『素数ゼミの謎』に書かれていることとちょっと似ている。
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