インドネシア語 人称代名詞(単数)
人称代名詞とは
まず、日本語の人称代名詞について説明をします。
人称代名詞とは、人間を指し示す代名詞のことです。
今、話し手自身を、会話の中の1人目の登場人物、聞き手を2人目の登場人物とします。それ以外の会話中に出てくる人は(たとえ何人いても)3人目の登場人物とします。
つまり、話し手自身を表わす代名詞「わたし」を1人称。
聞き手を表わす代名詞「あなた」を2人称。
そして、「わたし」と「あなた」以外の人物を表わす代名詞「彼」または「彼女」を3人称とします。
実際には1人称の人称代名詞には「わたし」以外に「ぼく」「おれ」「わし」などがあり、2人称も「あなた」以外に「きみ」「お前」などがあります。更には「てめえ」などというのも2人称です。
3人称も「彼」「彼女」以外に「あの人」などというのもそうです。
上記の人称代名詞はどれも単数(1人しか想定していない)ですが、実際には1人称、2人称、3人称のいずれも複数があります。
1人称の複数は「私たち」「おれたち」など。
2人称の複数は「あなたたち」「おまえたち」など。
3人称の複数は「彼ら」「彼女ら」「あの人たち」などです。
インドネシア語の人称代名詞
なお、前もって書いておきますが、インドネシア語の人称代名詞は格変化をしません。
英語で人称代名詞を勉強したときにI my me mine you your you、、、と呪文のように唱えて覚えた方も多いと思います。これは英語の人称代名詞は格(文章の中でのその人称代名詞の役割)によって形を変えるために覚える必要があるものでした。
いま、I (わたし)についてだけ書きますと、
主格(主語になる) I
所有格(事物を所有していることをあらわす) my
目的格(主語以外の目的語になる) me
所有代名詞(所有している事物を省略して「◯◯のもの」という) mine
です。
長々と英語の例をあげましたが、インドネシア語ではI に相当するsaya (説明は下の1人称単数の項目にあります)は、主格として使う場合でも、所有格、目的格、所有代名詞いずれの場合でもsaya のままで形が変わることはありません。これは他の人称代名詞でも同様です。
1人称単数
インドネシア語の1人称単数はsaya を使います。
saya は性別や相手との関係(上下関係や距離の親疎)に関係なく使うことができる表現です。日本語では「わたし、わたくし」に相当する単語です。
親しい間柄にある関係や、学生など若い人たちが使う1人称単数にaku があります。日本語でいえば「ぼく、あたし」に相当する単語です。
ジャカルタでは、年配の人を中心に、教育をあまり受けてこなかった人(婉曲表現)やとても親近感を持っている間柄で使われる1人称があります。それはgua 又はgue です。日本語では「おれ」「わし」あたりの意味になります。
インドネシアにおいて外国人である私たちが「おれ」のような1人称を使うことはないとは思いますが、話し相手が使った時に分からないと困ると思いますので、一応書きました。
これは元々、中国の福建語の1人称「我」(発音はグア、日本での音読みのガの元になった単語)が中国系の人々を中心に、ジャカルタで定着したものと言われています。
他にも地域的なもの(いわゆる方言)や、若者のはやり言葉でできたものなどいくつも1人称はありますが、ここではこれ以上説明しません。
2人称単数
インドネシア語の2人称単数はAnda とkamu を代表例としておきます。
Anda は相手の性別や関係性を問わず用いることができる2人称です。日本語では「あなた」に相当します。
文章で書くときには、たとえ文の途中にあっても必ず最初のAは大文字で書くことになっています。
Saya mau membantu Anda. 私はあなたを手伝いたい
mau 「~したい」 membantu 「手伝う」
Anda はもっとも丁寧で相手を問わずに使えますが、言い方を変えると堅苦しい印象を与えたり、距離を感じさせる単語でもあります。
そこで少し親しい間柄や、公的な場ではないときはkamu を用いることがあります。これは日本語の「きみ」や友達同士の「おまえ」などにあたる単語です。
ただし、これは1人称のaku に対応するような単語なので目上の人(年齢や立場・社会的地位が上の人)には使えません。
他には1人称で触れたgua (gue)に対応する2人称でlu またはlo というのがあります。これもgua とおなじく、ジャカルタを中心に使われていますが、日本語の「お前」「てめえ」などに相当しますので、自分から使うことは控えた方がいいかと思います。
さて、2人称は聞き手のことですから、「あなた」や「きみ」以外に聞き手に対して、あなたのことなんだよと分かるような呼びかけならば2人称になるわけです。
その意味では、たとえば、お店で店員さんがお客さんに話しかけるときの「お客さま」も、病院で患者さんが医者に話しかける時の「先生」も2人称と言えます。
このような場合、インドネシア語ではbapak (省略してpak)やibu (省略してbu)などが使われます。これらは目上の人やお客さんなどに対する丁寧な2人称です。
日本語ではあてはまるものが浮かびませんが、英語におけるMr. やMiss. Mrs. が近いかもしれません。
相手が男性であればbapak またはpak を使い、相手が女性の場合はibu またはbu を使います。
また、相手の名前や職業などの前に付けて丁寧な2人称にすることもあります。
bapak (男性に対して)お客さんやお父さん、おじさん(という呼びかけ)
ibu (女性に対して)お客さんやお母さん、おばさん(という呼びかけ)
bapak Akiyama (男性に対して)秋山さん Ibu Sagawa (女性に対して)佐川さん
pak guru (男性教師に対して)先生 bu Haji (女性のメッカ巡礼をした人への敬称、haji はメッカ巡礼を成し遂げた人)
他にも様々な2人称がありますが、ここではこれ以上紹介しません。
実は上に書いた説明とは矛盾するようですが、インドネシア語では2人称の人称代名詞はたとえAnda であっても、相手に失礼な印象を与える可能性があります。そのため、文章ではともかく、実際の会話では2人称の人称代名詞を避けて使わないことも少なくありません。
特に目上の人(年齢や立場・社会的地位が上の人)相手にはAnda も使われることは多くありません。
では、どう呼ぶのかというと、もっともよく使われるのが、
1)相手が目上の人である場合や、同じ会社や学校に所属する身内ではない場合
相手の職業や役職、場合によっては相手の名前で呼びます。その際は相手の職業や役職、名前などの前に上述のbapak (pak)やibu (bu)をつけます。
これは日本語でも、目上の人に2人称の人称代名詞(あなた)を使うと、むしろ失礼に感じられるため、「あなた」のかわりに◯◯課長とか、◯◯先生、看護師さん、司書さん、おまわりさん、店員さんなどと呼んだり、あるいは、さんづけで名前を呼ぶことと同様です。
2)相手が目上ではなく、話し手と同等または目下の人間であったり、身内であったりと親密な間柄である場合
このときは相手の名前を呼びます。
3人称単数
インドネシア語の3人称単数はdia またはia です。
どちらも話題となっている人の性別や立場身分に関係なく使えます。日本語の「彼」「彼女」「あの人」くらいの意味から話題によっては「あいつ」くらいの意味にもなります。
特に目上の人に対して、敬意を示して「あの方」などという場合はbeliau という3人称を使うことがあります。
また、ほかにはorang itu などを使うこともあります。
orang itu は「あの人」「その人」という意味です。
orang は「人」、itu は「あれ」や「それ」です。