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昭和的実録 海外ひとり旅日記        予測不能にも程がある トルコ編 04



日記_006-2  トルコをちょっと覗き見

 28~30/mar 1978  ホテルの住人


28 晴れ      29 曇り      29 曇り
28 エユップEYÜP (連絡船4.5TL) |タラビアTarabya (連絡船5TL
29 タクシムTaxim (otobüs 6TL)|ボスタンジュBostanci (otobüs 3TL)
| カドゥキョイKadıköy (連絡船  5TL)

30 エミルギャンEmirgan |オルタキョイOrtaköy |ベシクタシュBesiktas
   

ここチャラヤンホテルには何人かの長期滞在者がいる。

Kudret Okay爺さんもその一人だ。
「クデュレットオカイ」と発音していた。意味は”大丈夫かもしれません”?(何?Kudretはトルコ語で「・・かもしれない」OkayはO.Kの意味、芸名?)トルコの人名は意味があるのだと言う。
日本人名も漢字などに意味を込めることがあるが、そのまんますぎない? 

英語はお互い全く通じないのでオレの理解がトンチンカンなのか、こんな怪奇な話ある?どうもあるらしい(?)

そのオカイ爺さん、数学の教師だったらしく色々トルコ語の数字から始まって幾何学ゲームやらを手真似で教えてくれる。(確かにイスラム圏は紀元前より数学の発達した所だからなあ、などと感心)

明日からはオカイ爺さんから仕入れた場所をトロールすることにした。

金角湾及びボスボラスを行き来する連絡船は頻繁で、本当に安くてお得。
金角湾は先細りになって川となっているから連絡船で遡れば、カグラヤンホテルのあるエミニョニュ周辺は下町、上流は山の手風情とイスタンブールの概観が手に取るように分かる。

そしてボスボラスの方はというとジグザグに2時間程北上すれば、もう黒海の入り口は目前であった。(黒海の響きも何か秘めたものを感じる)

オカイ爺さんの教えてくれた街にも降り立ってみたが、概ね観光地・高級海水浴場のようで期待はずれ。(確かに自分が外国人に聞かれても、似たり寄ったりの地しか教えられないよなあ。)

過去にJALの仕事で、世界各地の店頭向けのウィンドーキットのデザインを頼まれたことがあったが、中でアジア向けのキットには何度提案してもO.Kが出ないことがあった。当時日本は既にエコロジーな世界が新しいということで「やさしさ」をテーマにしたものをぶつけて試たものだが、JAL側は剣もほろろ「ベタでいいんだよ!新幹線の方が未来的で新しいんだよ!」

「思い込み」は時として大きくハメを外す。


 コラム_07   ガラタ橋は浮き橋


4代目ガラタ橋  1978年当時

エーエッ、今(2023年)初めて知ったョ!

現在の橋は既に5代目、自分が体験したのは4代目
ガラタ橋で、1992年火災で役目を終えてしまった
ようである。(哀しい!)

当時も橋は2段構造で、上段は車も通る普通の橋梁
道路だが、下段は浮き橋状態で歩くだけでもブニョ
ブニョと揺れていた。

下段の浮き橋の方が4・5M程横幅が広いため、天井
(上部道路)が無いオープンエア状態で、そこが歩道
部分
となっていた。道路下部は薄暗いが、レストラン
やカフェが張り付いていた。

歩道部分は絶えず人の往来もあり、欄干からは釣り糸
を垂らす人々で溢れていた
漁船やら物売りの舟なの
か欄干越しに交渉ごとでもしているのか、そんな風景
を日長カフェから眺めているのは楽しいものであった。

近くの岸壁越しの、丁度日本のデコトラックのキンキ
ラ装飾風
に化粧した大型舟に設えられた黒光りした鉄
板の上では、フランスパンに似たエクメック(トルコ
のパン類はとにかく旨い) にオリーブオイルでスカッ
と揚げたサバサンド
が提供されている。

勿論これも絶品だが、この浮き橋のレストランの魚料
理もまた嬉しい産物
なのだ。
特別高いわけでも無い料理に十分舌鼓を打っている間
には、自分が正に”地についていない”ことなど当然忘
れてしまう。

一方この浮き橋は頻繁に発着する連絡船の大きなうね
りにはとても敏感だから、ガラタ橋を降り(?)シル
ケジの街に足を戻した瞬間、地面がゆらゆらっと揺れ、
フラフラっと海に転げ落ちそうになる
のが常で、こう
やって現実世界に改めて目覚め、戻って行く場所こそ
が、ガラタ橋なのである


 31/mar  よっ お見事

ブユックアダ
Yenikapı〜Büyükada 高速フェリー往復30TL

しかしブユック アダ(Big island)はアタリだった。

車は1台も無い、馬車とロバと羊の島なのだ。
試しに馬車にも乗ってみた。200TL/hと高かったが、乗り心地は丁度ヨットが波を切る時の高揚感に似て爽快であった。
馬が鼻を鳴らしながら走るのには腰が引けてしまうのだが。(高級避暑地だろうけれど、このユル感の演出は日本より数段進んでいるじゃん)

ホテルに戻ってオカイ爺さんに感謝を伝えようとしたら、ロビーのTVから「樫の木モック モク モック♫」が聞こえてきた。

(昨日今日は日本を離れて以来、故国に思いを馳せる日となった?・・

グランドバザール

「もしもし・・」日本語らしき気配がする。振り向くと華奢な体だが明らかにトルコ人様
こちらの意向には全くお構いなく傍にへばり付き、かなり流暢な日本語で勝手に自己紹介し始めた。

そして、恐らく見も知らぬ傍の少年に目配せするや数十秒も経たぬうちに、通りのど真ん中でその少年にぐいっとトレイを差し出されていた。

琥珀色のキュートにくびれたかわいい飲み物çay(チャイ)であった。

ハイスクールの学生と言っていたが、トルコの人はこんなにも鮮やかな人扱いをするものか? その鮮烈な振る舞い・展開に何故か(これぞ千夜一夜?)と心の中で感動する間も無く、別のçay屋のテーブルである商談が成立しようとしていた。

俺の着ていたブルーデニムのヨットパーカーが気に入ったから売ってくれ
とその学生からせがまれていたのだ。

デニムで仕上げたパーカーなんて結構珍しく、日本にいた時から自分でも気に入っていたパーカーで、まだ着古した感じでもなかったので逡巡していたのだが、何度とない「Last price」に根負けし俺の手に360TL也を残し、あの学生は風の様に人混みに消えていった。


翌日グランバザールを通りかかる折、広場脇正面入り口の外壁高く風に誇らしげに靡いていたのは、まさしくあのブルーデニムのヨットパーカー

露天商がディスプレイしているその外壁は、どんよりとした曇り空にも関わらず、明らかに遠目からでも光り輝いて見えていた。
トルコでは外国のジーンズはかなり高価のようで辺りでは1000TL以上で売られている。

因みにデニムパーカーを指差してみると、この露天商、誇らしげに(この商品は滅多に手に入いらないぞ)「1200TL!」

お見事!学生さん!
 
(日本では中古で買ったので¥2500だった。まあお相子かっ。)

 


 コラム_08   千年の闇を生きる
       囚われのメデューサ


終点はどこまで行くのか知らないが、ホテル前〜グランド
バザールを通るバスが自分のいつからかのお決まりルート

となった。
この沿線には概ねの名所(思い込み?)があるのだ。

その途中バスが曲がり道のため大きく揺れる地点があり、
妙に気になっていたものだ。

理由のある訳ではなかったが、その停留所で降りてみると
道端がこんもりと土盛りした所があった。
遊ぶようにその土盛りに上ってみたら、その裏側に暗い口
をあんぐりと開けた小さな洞穴に出くわした。誰が気にす
るでもなさそうな単なる洞窟。
怖る怖る覗き込んでみると薄暗がりの中の階段が、待って
いたかのように俺を誘ってきた


足元の悪い岩の階段に足を踏み入れると、すぐさま闇が訪
そして戸惑う間も無く、グヮチャッンという音とともに
眩い光の中に見たこともない光景を眼にしたように感じた
のだ。
湿った空気の中に水面の拡がる揺らぎのようなものも感じ
たような気がした・・・。

再び闇が訪れ、停止した思考の向こうからグヮチャッンと
いう音が遠く聞こえて光となる・・・


背筋が凍りついた、正しく地下宮殿と言うべき光景が光と
ともに眼前に現れたのだ。
夥しく整然と並んだ様式の違ったエンタシスが確かに水藻
に揺れていた
のである。

(後で知ることになるが、ここはローマ時代の地下貯水場
だという。既存のエンタシスを寄せ集め再利用したための
不揃い様式になったという)

何度となく光と音の消灯が繰り返されるその正体は、実は
コイン投入で電源の入る仕掛けで、その音がグヮチャッン
とこの地下宮殿に響いていたのである


そう言えば自分の闇の1m程先にもそのコイン投入器らし
きものがあることを発見し、手持ちの1TLコインを投入し
てみる・・・・・。

Woaw ! 幻か現か!
闇の中に映し出される万華鏡の歴史舞台か・・・・・。

(俺のコイン投入で一千数百年前の世界を覚醒させている
のだ!)

Eeee !  があるぞ! 確かに闇に帰る瞬時に見えた、しか
でんぐり返った・・・

あのカールした髪は蛇をかたどったものではないか、そう
あの像は絶対メデューサっ!)

(80cm立方の巨大でそして端正な顔立ちのメデューサなん
ておそらくここにしかない
だろう)

(みた者を蛇に変えると言うが・・・

Medusa|Yerebatan sarayi

・・・否見るのだ・・・見たい・・・)

財布を弄ってもコインは既に無くなっていた・・・
もう闇は何も語らない・・・。

そう、待つのだ・・・。

この地下の底冷えにも、覚束なく滑る足下にも怯むことなく、
永劫となろうとも・・ただ待つのだ・・嗚呼光あれ・・。

一千数百年もの間、闇に囚われの身となり幽閉されたままの
メデューサは、この訪問者たちの捧げる無限の3分間コイン
の光に
何を思うのか・・・

グヮチャッン・・・グヮチャ・・・ッン・・・


 

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