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予測不能にもほどがある 38 イタリア編 (15 昭和的実録 海外ひとり旅日記

      



日記_040 見つけにくいモノ

 



 コラム_87 丘の上の街 Bomarzo


Assisiに限らず、イタリアの小さな街は、大抵が丘の頂上から中腹あたりまでナメクジが這うように街が形成されている。

列車の車窓からは、丘々が重なる天辺にまるで帽子コレクションを競うような街々が連綿と出現し、飽きさせない。

それらの丘から見下ろせる平地に幹線道路や鉄道が(歴史上行軍や略奪が繰り返された道)走っていることになる。

だからそれらの丘の最上部に城や教会らしきが在り、そこがこの街・村の自治を守る権力者の存在を示すが故に、街全体ぐるりに城壁を構築し、市民に対し自治と安全を約束していたのだろうか。

Bomarzoもまた、そんな小さな山頂やまいただきの街であった。

降りた駅名はAttigliano Bomarzo、恐らく平地にある駅Attiglianoは近年の新しく作られた街(故に駅周辺に目星いモノは見当たらない) であり、目指す ” Parco de Bomarzo ”のある旧市街 Bomarzo は、車で20分程の山あいを行かなければならない。



   12 / Aug  1978 森に入ってはならぬ

晴れ
Assisi〜(Orte)〜Attiliano Bomarzo
train 2h 2300L
Stazione 〜 Parco de Bomarzo (Sacre Bosco)
hitch 15min.

Hotel 3000L
 


そんなことより、遂に”Parco de Bomarzo”(これも澁澤龍彦紹介の場所)の在りかを駅員から聞き付けることができた。

多少道は逸れるが、ここからRome方向ではある、勇んで寄り道しよう

言われた通りOrteで乗り換えAttigliano Bomarzoで下車、駅周辺に駅以外のモノは見当たらない、再び駅員に聞けば”Parco de Bomarzo”は確かに此処だと判明はしても、そこまでのバスは無いと言う。

やむなく7kmの道を歩き出す。

きっと、こんな山道をトボトボと歩く姿を見兼ねたのか、すぐに車が止まってくれた。

しばらく車は山中から尾根伝いと走り、そして二股の道で停まった。

左手がBomarzoの街で、やや右側の狭くなった道が”Parco”への道だと教えてくれた。

(即ち”降りろ”と言うことだ)

ひょっとしたら(入り口まで?)という甘い期待を見透かされたかのようで、打ち消すようにちょっとドギマギしながら思わず溢れた「街にホテルはある?」の問いに、肩をすくめ 首を振られた

礼を言って歩き始めると道はどんどん狭くなり、確かに山道で既に車は通れそうに無い。

(大丈夫かなぁ?)

しかし自然な山道に僅かながらでもヒトの作為の気配(道筋は
築いている)が感じ取れさえすれば、目的地は近いはずだ。



少し視界が開けてきた、その正面の繁みに隠れるようではあるが、
石像の愛くるしいSphinxが現れた。

(作為の気配も徐々に、小出しに現われれば、それで良い)

(イイぞっ!Nice Tasteッ ! Mystery Tourの始まりか ! )



一気に光溢れる広場に解き放たれたようだ、

(しかしそんなモノを待ち望んでいたのでは無い)

広場をpannedして見渡せば、周辺の木立や岩陰が、
やけに深く 妖しげな陰影に感じられるのは、俺の欲目か。

そしてワクワクは小走りに気を急かせるが、

(だが広場を突っ切ってはいけない!)
”探し求めるモノは直ぐには手に入らないモノ”、

だから、先ずは開発者が意図したかのような
脇階段を降り、木洩れ陽の深い道を進むのが、筋というモノ。


樹々に隠れるような階段をくぐれば、思ったより濃い木洩れ陽は今日の炎天下の日差しを遮ってくれてはいるが、案の定というべきか、恐らく放置され続けたのだろう、長年 樹々に閉じ込められた空気はネットリと湿り、道はジメジメと、至る所 苔 生している。 


(”来ッターッ!”)


”Parco de Bomarzo”   Image Collage


足元に気を取られ視線を戻した瞬間、巨人(5・6mはあろうか)に逆さ吊りで大股開きされている裸体(女性に見えたのだ)に思わず息を詰め、後退りさせられたのだ。

(載っけから、これかぁ! 刺激強すぎ!

ここ期待通りにヤバイ処? 大丈夫っ?)


打って変わって(イメージの落差)、箱型の二階建の家が崖から突き出ているだけなのだが、何故か 相当 傾いている

( ほらほら、お出でなすった! )

中に入れば、勿論床も傾いているから何の不思議も無いのだが、その理由となる種明かしとなるモノなど(?)一向に見当たらず、俺の無知さを嘲笑われているようで、カチンとくる。



 コラム_88 聖なる森Sacre Bosco - 1


今はSacre Bosco「聖なる森」あるいはBosco dei Mostri「怪物の森」の名で公開されているようである。


訪れた当時は、整備などされた気配は無く、荒れ果て 放置され放題の、 唯 ” 薄気味悪く ”、人っ子ひとり居ない感じとはこのことか、を自でいっているような空気が漂っていた。

しかも何を具現化したものかも皆目判らないスケールアウトした巨大な彫像群は、どれもこれも俺を挑発・威嚇するばかりで、だからこそ何か、人を寄せつけない強烈なメッセージを孕んでいるのではないか、 と思わずにはいられなかったのだ。


ヒッチのオヤジとしか面対していないが、些細なことを積み上げてみると、此処は 地元の人々にも歓迎されない、否 、忌み嫌われた所だったのかも知れない。

日本でも各地に逸話のように残っている話をしばしば耳にすることはあるが、まさか Italia に来てまで・・・




恐らく出処は、ギリシャ|ローマ神話やら、伝説・言い伝えやらによるものだろうが、只では済まない(「段々良くなる・・」)法華の太鼓(勝手な造語でした)
とにかく全ての彫像スケールアウトしていて、デカイだけではなく、大口開けた、醜悪な、エロチックな、残虐な、大股開きの、咆哮する ・・・口にするのも憚れるような形容しか思い浮かばない神々やMonsterたちのオンパレードが、
この静謐で、湿った空気(全く Italia らしく無い)の廃墟の中で、何を伝えるために生きてきたのか、全くもって見当もつかない謎だらけなのである。



順路があるわけでは無い森の中を、出逢い残しのMonsterの無いようにと探し歩き廻れば、
やがて彷徨い疲れ、(薄気味悪い)女神の腿にへたり込み・・・

忍び寄る夕闇を 押しとどめる力は、 既に使い果たしていた



確か森の木々の合間からBomarzoの街らしきの建物群も見えていたようにも思えたが、
乗せてくれた車のオヤジの ” 宿は無い ” の仕草に、
後ろ髪引かれはするが 術も無く、
車を降ろしてくれた分かれ道まで来ると、
街とは反対方向のAttilianoへのヒッチを止むなく、したのだ。


(あのオヤジ、何か俺に対してもおぞましいモノをみるような、怯えているようにも見えなかったか?

そう云えば車内、殆んど会話無かったような・・・)


駅で購入した”間抜け”なカルタ型カタログ



翌日駅を立とうとしたら、券売口脇に大口開けたOgre(オーガ)の写真のみやげ物らしきを見つけた。

( ” 誰が何の意味でこのparcoを創ったのか ” ずっと気にはなっても、謎の手がかりのいとぐちになるようなモノは見当たらなかった



タイトルに”Park of Monsters in Bomarzo”とあり、開けると切り取り線の入ったカルタ様の、印刷も稚拙ではあるが、英語で解説も書かれているようだし、第一、みやげを駅員対応で売っているという 妙に ” 間抜けな感じ ”が、気に入って、買うことにした

(修学旅行の必須みやげには、アリバイ証明のための"三角ペナント"の如し)



 コラム_89 聖なる森Sacre Bosco - 2



駅で購入したカルタは ” 間抜け ” ではなかった。

かなり手掛かりになるものがあり、明らかになってきた。
わかる範囲で Monster たちを分類してみれば、

ポセイドンとメデューサとの怪物子孫系譜から
・寛ぐポセイドン
・ペガサス
・エキドナ(上半身は美女下半身は蛇、背中に翼)
・ケルベロス(三頭を持つ冥界の番犬)

ギリシャ神話から
・セレスCeres(大地|冥界の神・豊穣神)
・ペルセポネ(冥界の春の女王)のベンチ
・怪魚(Glaukosグラウコスと云うらしい 海神)

ローマ神話|逸話から
・ヘラクレスとカークス(三頭・炎を吐く巨人)
・兵を鼻に掛ける象(象の背にローマの天敵ハンニバル?)

そして北欧の伝承から
・オーガ(人喰い怪物)

強靭な動物(?)から
・亀
しゃち
海豚いるか
・獅子
・熊

建造物から
・オベリスク
・傾いた家
・神殿
・ロトンダ
・花瓶鉢
・滝

などなど。

ははぁ〜ん、遊園地 創りたかったのかぁ

Tokyo Dysney Land1983年開園のため、”テーマパーク”という明確な概念は、日記当時、存在してはいなかった)



 コラム_90 聖なる森Sacre Bosco - 3


”間抜け”なカルタ型カタログを和訳して、語ってくれたこと。

『Parco de Bomarzo』は、16世紀 Vicinoとも呼ばれた
Pier Francesco Orsini Bomarzo公、condottiero(傭兵隊長)
芸術の後援者、によって企画・造園された。

Vicinoは教皇の家柄のGiulia Farneseと結婚することで、教皇軍のcondottieroとして神聖ローマ軍と戦い、捕虜の身となり、翌年釈放されるも、次の宗教戦争で再び、数年の捕虜生活を強いられることとなった。

一度目の釈放から既にこの庭園造成に着手し始めており、二度目に釈放されBomarzoに隠棲すると、同時に神秘主義も深まっていったようだ。

そしてまもなく最愛の妻Giuliaに先立たれると、寺院とロトンダを新造し、この公園を妻への追悼に捧げている。

当時このカルタを訳した時、初めて腑に落ちた やっぱり ” 愛の讃歌 ” の結果であったのだと。



 コラム_91 聖なる森Sacre Bosco - 4


この庭園の石像の各所に多くの碑文(多分ラテン語)が残されている。


< ただ自分の心を吐き出すためだけに >

この碑文が妻を偲んでのことを顕わしているといえば、確かに頷けはするが”愛の讃歌”の遺産にしては、何か壮絶で 凄惨な香りがし過ぎやしないか。

(余計な詮索は不躾で、無粋なモノ)



< 眉をしかめ、高慢をもって人はここに来なければ、有名な7つの記念碑(何を指すのか?世界の七大不思議のこと?)を賞賛することはできない >

この庭園は狂っている、興味も、苦痛も、恐怖すらも、無い者には訪れる理由もないだろう。

< 世界をさまよい、驚異的な異形を賞賛したいと願うあなたは、恐ろしい顔、象、ライオン、クマ、鬼、ドラゴンがいる、ここに来てください >

例えば平衡感覚を失わせる「傾いた家」から、お互いに引き裂き合う巨人や兵士を締め付ける象を見た時、どこにどんな合理性を見出そうと云うのか。

※シュールレアリスト Salvador Dalí も1938年此処を訪れ、「聖アントワーヌの誘惑」(1946)制作に ” 多大なインスピレーションを得た ” と述懐している。

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 コラム_92 聖なる森Sacre Bosco - 5



< 庭園に入るとき、このような異形が天才の結果なのか、それとも欺瞞の結果なのかを考えてください >

ギリシャ思想を受け継いで以降、(人間が創作してしまった)神々への寓意を正当化するあまり、教皇の絶大な権力を許す、それに加担してしまったルネッサンス社会に、(人間は死ぬこと、宇宙は偶然の結果であること、摂理的な神は存在しないこと、( 唯物論的思考 )よって ) 迷信と神の介入がもたらす苦痛や恐怖を排除した生活こそ、最大の快楽を生むと唱える快楽主義も、現れ始めている。


Vicinoは名門Orsini家の名声によるとは云え、パトロネージの立場を借りて、文学・詩・哲学・芸術に造詣が深かったと云う。

そういう生い立ちの彼にとって、家族と離れ、二度に渡る戦さ、その都度の捕虜生活という遍歴が、 ” 欺瞞の結果 ” を原因として生んだ、と思考し始めても不思議はなかったのではないか。

確かにこの庭園に出現する主人公たちは、神とは云いながら、寓意によって仕立て上げられた神々ではなく、冥界の神|海神であったり、Glaukosのようにヒトが換えられてしまった神であるような亜流の系譜に属するモノたちであり、同様に陰日向に置き去りにされたMonsterたちなのである。

Ogreの口にはこう書かれている。

< あらゆる思考は飛んでいく>

人は生きている限り、様々な思いにとらわれ、悩まされる。

しかし思考や思いと云うものは、どこにでも飛翔し、住み着き、自由がある

Ogreの口の中に入り、思考し、叫べば、外に大きく反響する。
(実際そう云う仕掛けになっている 痛快なアイディア!)

しかし心せよ、もしかしたら現世に戻る保証はない


俺が初めに広場を突っ切って、小さな神殿とロトンダ( これらだけが(追悼に相応しい)普通の建造物 )に向かわなかったのは、偶然だったのか、試されていたのか。

Vicinoの苦痛と恐怖の心” ただ自分の心を吐き出す ” 神殿の造成で、平穏に戻ることができたのだろうか。


そしてBomarzoの街こそが、Vicinoの創り上げた ” Sacre Boscoの寓意|迷信 ” に捉えられた形跡(「森に入ってはならない」など)があったとしても、しっかり掬い直して、新たなる ” 聖なる森 Sacre Bosco ”のある崇高なる街 Bomarzo であらんことを・・・。



( このコラムは私的評論であり、一般認知された事実に裏付けられたものではありません )


 コラム_93    Bomarzo | Itary Map_15


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