第28回:ロシア向け航空機リースが一括解除される理由【カントリーリスク】
こんにちは、JOLアドバイザーです。
3/2以降、ロイターや日経新聞にて「複数のリース会社がロシアの航空会社に提供している航空機リース契約を一斉解除する」という報道されています。
契約解除を行うリース会社は欧州系の企業ですが、日系資本のSMBCアビエーションキャピタルやオリックスのものも含まれているとの事です。
解約対象となる航空機リースに購入選択権付き日本型オペレーティングリース(以下「JOLCO」)スキームで提供されているものが含まれているのかは記載されておらず定かではありません。
しかし、仮にJOLCOスキームのリース契約が含まれていた場合はどの様な展開が想定されるのか、そして投資家の出資金は回収可能なのは気になる所だと思います。
そこで今回の記事は契約解除の対象となるロシアの航空会社向けリースがJOLCOスキームで組成されていた場合①今後どの様な展開が想定されるのか、そして②投資家の出資金償還の蓋然性について私なりの考えを記載しました。
この記事を読んでいただくと、以下の点についてご理解いただけますので、将来JOLCOに出資する場合の大きな判断材料となるはずです。
<ご理解いただける事>
・JOLCOスキームの契約構成
・航空機保険制度
・投資家の出資金回収の蓋然性
・追加出資を求められる可能性の有無
・出資時におけるカントリーリスク思慮の重要性
なお、私について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
⑴リース契約はなぜ解除されたのか
ます、今回何故ロシアの航空会社向けに提供されている航空機リース契約が解約される事になったのかを一般的な航空機リースの契約に準じて私の見解をお話いたします。
報道では欧州に拠点を置くリース会社が足並みを揃えてリース契約の解除に踏み切っている事が分かります。
確かにロシアはウクライナ侵略という戦争状態に突入したものの、航空機リース契約自体は各リース会社と航空会社が個別に行う商取引であり、多くのリース会社が足並みを揃えた対応をしている点を疑問を感じられる方も多いかと思いますが、この背景には「航空機保険が適用されなくなった事」が理由だと考えられます。
リース会社が航空会社と締結するリース契約書では「リース対象の航空機に保険を付保する事」が義務付けられております。
理由は、航空機は小型機のナローボディー機においても新造では約50億円以上する高額な物件である事から、事故等で破損した場合は保険により復元させる必要がある為です。
そこで一般的なリース契約書では航空機の再調達価格の110%相当がカバーできる保険を付保する事が定められています。
一方、仮に保険付保が出来ない場合は、リース契約では契約不履行事由(以下「デフォルト事由」)に抵触する事になります。
デフォルト事由に該当すると航空会社はリース契約期間が残っていても残リース料を一括弁済するとともに、航空機をリース会社に返却しリース契約を強制終了させられる事になる厳しい条項です。
この事から航空機への保険付保は航空会社にとって絶対に守らなければならない重要な義務として位置づけられています。
そして、今回欧州に拠点を置く複数のリース会社が足並みを揃えてロシアの航空会社とリース契約の解約した背景は「保険会社がロシアの航空会社が使用する機材への保険付保を拒否し、リース機材が無保険状態になった事」が背景にあると考えられます。
保険会社がロシアの航空会社向け保険付保を拒絶した理由は、保険契約におけるサンクション条項に抵触した事が想定されます。
サンクション条項とは、国際機関などで認められている領空以外を航行する航空機には保険契約ができないという条項です。この条項により、例えばイランや北朝鮮の領空を航行する航空機には保険が付保できません。
そして今回ロシアにがウクライナ侵攻した事でEUは2/27に声明を発表し、ロシアから離発着する航空機の航行を禁止しました。
これによりロシアの領空を航行する航空機は保険契約上のサンクション条項に抵触する事になったのです。
この結果、ロシアの航空会社向けにリースされている航空機は無保険状態となり、リース契約書上のデフォルト事由に該当する事から契約解除をリース会社から申し入れられ、ロシアの航空会社は残リース料を一括弁済するとともにリース機材を返却しなければならなくなった、というストーリーが私の見解です。
⑵投資家の出資金回収の蓋然性
上記のご説明をもとに考えると「リース料は全額支払われ、航空機も回収できるなら、中古市場で適切な価格で売却できれば出資金は全額回収できる」と考えられた方が多いと思います。しかし、残念ながら単純ではありません。
何故なら、ロシア領域のサンクションはあくまでEUが定めたものであり、それによって保険付保を拒否した保険会社がおかしいとロシアの航空会社が主張し契約の解除に応じない可能性があります。
また、リース契約終了を認めた場合においても航空機の回収作業が難航すると想定されます。理由は航空機を引き上げる為、航空機の駐機地にリース会社がパイロットを派遣し、そのパイロットが駐機地からリース会社の指定地に航空機を運びます。しかし、先にも述べた様にEUは既にロシアを離発着する航空機のEU領域航行を規制しています。
その事から、現在ロシア国内で利用されている航空機をロシア国外に運び出せない可能性が高いのです。つまりJOLCCスキームにおける機体を売却して出資金を回収するという大前提の回収シナリオが破綻する可能性があります。
投資家にとってより最悪なケースとしては、出資金が全額回収できないだけではなく追加出資を求められる事です。
理由は航空会社から残リース料の支払いがされない場合、リース料を原資とする金融機関への借入金返済ができない事になります。
匿名組合は借入金の返済義務を負っていますが、組合が持つ資産は航空機のみでありそれ以外の資産を有しません。
その事から金融機関への返済原資である残リース料を回収できない場合は、匿名組合員である投資家が出資割合に応じて金融機関への返済原資を追加出資という形で負担せざるを得ない事態が生じる可能性があるのです。
⑶JOLCO出資時の注意点
ロシアのウクライナ侵略を機にリース契約の解除に直面した事はリース会社においても青天の霹靂だと思います。
一方、投資家においてはリース契約の深い構成まではご存知ないはずですので、この様なケースでは資金回収の蓋然性がどの程度あるのか事前に想像する事もできなかったと思います。
今回の事件は不幸なものである一方、JOLCO出資においては「カントリーリスク」も十分考慮しなければいけない教訓になります。
また、今回の件とは事なるものの、カントリーリスクの考慮という側面で考えると、やはり社会主義国や資本主義でも特定の人物が強い権力を持っている国は法律や制度を自国にとって都合よく書き換える事ができる事から非常にリスクが高いと言わざるを得えません。
ですので、出資時は目先の投資効果に惑わされる事なく慎重に検討する必要があるのです。
⑷今後JOLCOへ出資する方に向けて
JOLCOはスキームが非常に複雑である一方、どの様に商品の良し悪しを判断すれば良いのかが書かれた情報は一切世に出回っていませんでした。
そこで、投資家目線でどの様な条件の商品に出資すれば良いのかがわかる記事を作成しております。
以下はそのラインナップとなっておりますので、気になるものがあればご参照いただければと思います。
なお、有料設定にさせていただいている理由は公にしたくない情報も含んでいる為です。
現在JOLCO出資の提案を受けているものの、本当に出資をして良いのか確信が持てない方はぜひ読んでみてください。
JOLCO出資は高額である事に加え、長期契約である事から万が一危険な案件を掴んでしまうと、元本が棄損したり出資金の償還が予定通りにされないなど、本業に多大なるダメージを与えかねませんが、下記の記事はそれら危険な商品を回避する際の保険となるはずです。
それではまた。