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第24回:商品毎に損金計上額が異なる理由(新造航空機or船舶の場合)【日本型オペレーティングリース】

こんにちは、JOLアドバイザーです。

日本型オペレーティングリース(以下:リース事業)は、商品ごとに初年度損金計上率(以下:初年度効果)が異なります。

昨今の平均的な初年度効果は、出資金に対して70-80%相当だと思いますが、中には初年度効果が100%のもあれば、逆に50%台のものあります。

この初年度効果の差は、どの様な理由で生じるのでしょうか。

リース事業には投資家や賃借人(航空会社や海運会社)のみならず、リース会社や銀行等。様々なプレイヤーが関わり利害を共有しています。

この様な中、投資家の初年度効果が多く計上できる商品は、投資家目線で考えると利益の繰り延べ効果が大きくなるというメリットがありますが、裏を返すとその大きな初年度効果を取る為に、投資家は他のプレイヤーからリスクも引き受けているとも言い換えられます。

そこで今回の記事は、①初年度効果の構成要素、そして②初年度効果を多く計上できる事で投資家はどの様なリスクを取る事になるのか、という2点についてお話します。

多くのリース会社は投資家への商品提案時にこの点について触れていないはずです。

ですのでこの記事を読んでいただく事で、初年度効果が高い商品の提案を受けた際に、リスク判断を正しくできる様になるはずです。

※なお、今回の記事は新造物件における初年度効果の構成理由を説明した物です。中古物件の場合は若干ロジックが異なりますので、中古物件については別の記事でご説明します。

※私について知りたい方は、下記の自己紹介をご覧ください。


1.初年度効果を構成する3要素

結論からお話すると、初年度効果を構成する要素は以下の3つです。

・Debt/Equity比率
・期中に回収するリース料収入の割合
・減価償却期間

以下で、その理由についてお話します。

2.Debt/Equity比率

初年度効果を構成する要素の1点目は、匿名組合がリース物件である航空機や船舶(以下:リース物件)を購入する為に必要な資金調達時の借入金(以下:Debt)と、投資家からの出資金(以下:Equity)の比率です。

 (1)Debt/Equity比率が初年度効果に影響する理由

リース事業の賃借人である匿名組合は、(a)金融機関からの借入金であるDebtと、(b)投資家からの出資金であるEquityを原資としてリース物件を購入し、航空会社や海運会社(以下:賃借人)にリースをします。

この資金調達時にEquityによる調達額を減らせば減らすほど、レバレッジ効果が大きくなり、投資家へ配分される初年度効果が大きくなります。

下記、図1をご覧ください。航空機の取得代金を100と仮置きし、その取得代金の原資はDebt50、Equity50で調達したとします。

<図1>

この場合のレバレッジ効果は、2倍となります。その理由は、匿名組合契約により出資している事で、出資金(投資家持分)は50にもかかわらず、資産(100)が生み出す全損益が投資家に分配される為です。

※計算式:レバレッジ2倍=100/50

そして、仮にリース事業全体で、40の損失が発生したとします。
この場合、投資家にその40の損失が全額配分される為、初年度効果は80%(計算式は、40(事業損失)/50(出資金))となります(図2ご参照)。

<図2>


次に、下記図3をご覧ください。

航空機の取得代金を上記<図1、2>と同様100とし、その取得代金の原資はDebt90、Equity10で調達したとします。

<図3>

この場合のレバレッジ効果は、10倍となります。その理由は、匿名組合契約により出資している事で、出資金(投資家持分)は10にもかかわらず、資産(100)が生み出す全損益が投資家に分配される為です。

※計算式:レバレッジ10倍=100/10

そして、<図1、2>と同様にリース事業全体で、40の損失が発生したとします。この場合、投資家にその40の損失が全額配分される為、初年度効果は400%(計算式は40(事業損失)/10(出資金))となります(図4ご参照)。

※損金計上の上限は出資金までとなる為、税務上の損金計上額は40の100%となる。

<図4>

この様に、リース事業で発生する損益は匿名組合契約に基づき全て出資者である投資家に配分される事から、その出資金が少なければ少ないほど、レバレッジが生じ初年度効果が大きくなるのです。


 (2)Debt/Equity比率による初年度効果から推測できるリスク(賃借人の信用力)

Debt/Equity比率による初年度効果に注目する事で、賃借人の信用力を推測できます。

前述の通り、投資家はEquityの割合を減らす事で初年度効果を高められるメリットが生じる反面、賃借人はDebtの比率を減らし、可能な限りEquityでの資金調達をしたいと考えています(端的に言うと、資金調達時のEquityの割合を増やしたいのです)。

なぜなら、Debtを利用した資金調達は借入金利息が発生しますが(ざっくりとした目安ですが、市場金利+2-5%相当)、Equityでの調達部分に支払利息は事実上発生しない為です。

その理由は、投資家にとって一番の関心事は、どれだけ確実に税務メリットを享受できるかであり、出資する事による利息は求めていない事から、雀の涙ほどの低利息でも許容される為です。

つまり、賃借人の目線で考えると、Equityでの資金調達は、ほぼ無利息での調達ができる事と同意であり、Debtでの調達と比較して圧倒的に調達コストを削減できるのです。

一方、いくら賃借人がEquityの割合を増やしたいと望んでも、信用力のある賃借人でなければEquityの比率を高める事はできません。

なぜなら、信用力がある賃借人の場合は、競合他社である銀行や、他のリース会社から魅力的なファイナンス条件が提示されている為、Equity比率を高め、無利息での資金調達枠を拡大しなくては、競合他社との金利競争に勝ち抜いて賃借人とのリース契約を獲得する事ができません。

しかし、信用力の低い賃借人はそもそもファイナンスがつきにくい為、Equityを使わず、Debtでの資金調達割合を高めたとしてもリース契約を簡単に獲得できます。

この事から、 資金調達におけるEquity割合が高くレバレッジが効いていないリース事業の賃借人は信用力があり財務内容の優れた企業であり、反対にEquity割合が低くレバレッジが効いているリース事業の賃借人は財務内容に不安がある可能性が高いと言える事から、リース事業はDebt/Equityの比率を測る事が、賃借人の信用力を測るパロメータとなるのです。


3.リース料収入

初年度効果を構成する2つめの要素は、賃借人である匿名組合がリース期間中に回収するリース料の多寡です。

 (1)リース料収入が初年度効果に影響する理由

匿名組合出資をした場合、投資家にはリース事業から生じた収入と費用の差額を投資損益として配分します。

リース事業における収入は①リース料と②リース満了時の物件売却代金です。この事から、期中に回収するリース料を小さくする事で、収入−費用の差額である損失が肥大化し、初年度効果が大きくなるのです。

下記の、例1と例2をご覧ください。

<例1>
収入:40(リース料)
費用:100(減価償却費80+支払利息20)

この場合、投資家に配分される損金は60(=収入40-費用100)です。
そして、費用は100で変えず、収入を10と小さくしたものが<例2>です。

<例2>
収入:10(リース料)
費用:100(減価償却費80+支払利息20)

この場合、投資家に配分される損金は90(=収入10-費用100)です。

この様に、リース料収入を少額にする事で、投資家に配分される初年度効果を高める事が出来るのです。

 (2)リース料収入を少額にして初年度効果を高める事で生じるリスク(物件売却リスク)

リース料収入を少額にして初年度効果を高める事で、投資家は多額の損金計上が可能になるメリットが生まれます。

また、賃借人にとっても期中のリース料負担が低減できる為、投資家と賃借人の双方にとって魅力的な条件です。

しかし、注意が必要なのは、リース料収入が少額になるという事は、それだけリース期間中の資金回収額が減り、リース物件を売却する際に回収しなくてはならない金額が増えるという事です。

賃借人がしっかりとリース料を支払、さらにリース満了時に購入選択権を行使してリース物件を買い取れば何の問題もないのですが、期中のリース料支払額が少ないという事は、その分購入選択権の行使価格が高額に設定されている事を意味します。

この事から言えるのは、賃借人はその行使価格が割高と判断し、購入選択権を放棄する可能性が高まるのです。

さらに、購入選択権が行使されない場合は、リース物件を中古市場で売却し、必要な資金(借入金の返済原資+投資家出資金の償還原資)の回収を測りますが、その為に必要な売却価格が、中古市場での同型物件と比較して割高になっている可能性があるのです。

その場合、必要な資金を回収できず、結果として投資家出資金が全額回収できず、元本が毀損してしまうリスクが高まるのです。

つまり、リース料収入を少額にする事は、初年度効果が高いので、出資時は良いけれど、リース終了時に苦戦するリスクがあるのです。

この事から、リース料収入が少なすぎる案件は、初年度効果が高いといいうメリットがある反面、本来の目的である利益の繰り延べが確実にできないリスクもある事から、その出資は慎重に判断すべきなのです。


4.減価償却期間

初年度効果を構成する3つめの要素は、リース物件の減価償却期間の長さです。リース事業における初年度効果の主な要因は、リース物件から定率法で計算される減価償却費です。

つまり、この減価償却費をどれだけ取り込めるかが、初年度効果の決め手になります。

減価償却費の計算はリース物件の保有者である匿名組合の決算日から、遡って1年の期間で、どれだけの期間稼働していたのかを月割りで計算されます。

例えば、リース事業開始初年度に計上できる減価償却費の上限が12の物件が有ったとします。

この場合、12ヶ月リース物件を稼働させる事で、12の減価償却費を計上できます。

しかし、1ヶ月しかリース物件が稼働できない場合、本来計上できる減価償却費の1/12となる1しか費用計上できません。

この様に、匿名組合の初回決算日から起算して、12ヶ月間しっかりとリース物件を稼働させる事が、大きな初年度効果を得る為に必要なのです。

なお、減価償却期間の長短により発生するリスクはありません。

5.まとめ

初年度効果の構成要素は以下3点。

⑴Debt/Equity比率
⑵期中に回収するリース料収入の割合
⑶減価償却期間

この内、⑴と⑵に注目する事で、賃借人の信用リスクの高さと、物件の再販リスクの高さを推測する事ができます。

初年度効果を得る事が目的ではなく、あくまで手段です。

つまり、信用のできる賃借人のリース事業に出資し、確実に購入選択権を行使される事が初年度効果を得る事以上に重要なのです。

その為、初年度効果の高い商品でも飛びつくのではなく、その裏にはどの様な理由が存在するのか、慎重に出資案件を吟味する必要があるのです。

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