そんなことが起こったんだ…
それなら私はどうして覚えてないの…?
わからなかった。私にはわからなかった。
何も覚えていなかったからだ。
「ま、覚えてないのなら空想のこととしておいとけば?」君に提案されて私はそうすることにした。
だが、木になって仕方なかった心はあった。そして、その心は何日も付き添い続けたのだった。
「ねえ」
私達は学校にいた。
私が病院に起き上がってからもう1ヶ月は立っていた。
「あの子はどうなったんだろう」気になって仕方なかった。
あの子というのは病院で横にいた女の子のことだった。
「多分今頃、元気に田舎へと帰ったっと思うよ」私は心の中で思った。
あの子は田舎の子だったんだ、と。
「あの子も記憶をなくしたのかな?」君は頷いた。
だが、君は何も話さなかった。その空間が私にとっては苦手の空間だった。
誰も話さなくてただただ沈黙という空間が。
「な、何か話さない?」私は沈黙を打ち砕こうとした。
君は頷いただけだった。
何か様子がおかしかった。
だが、その理由を訊くことができなかった。
嫌な予感がしたからだ。
どうしてか。
「…」そのままベルが鳴り、学校が始まったのだった。
家に帰るときも話すことができなかった。
君はずっと暗い顔をしながらうなずくだけだった。
私は勇気を振り絞ってついに訊いたのだった。
「どうしたの?」少し強めに行ってしまったが、そのほうがよかったと今は思う。
君は少し黙ったままだったが、口を少し開いた。
「…んでたんだ…」うまく聞き取ることができなかったが、多分わかったと思う。
死んでたんだ。
私は目を丸くした。
「どういうこと?」つい思いっきり聞いてしまった。
「どうしてかはわからない…でも…死んでたんだ…」私が考えるに、あの少女が死んでしまったのだろう。
「さっきは…」私が言おうとすると、君に止められた。
「分かってるよ。さっきは生きてたんだ。昨日までは、生きてたんだ」だから、昨日までは生き生きしていたのに今日になったら暗くなっていたのだろう。
「そうなんだ…彼女は死んだんだ…」私は深くため息をついた。
すると、君は驚いたような顔をして私を見てきた。
「よくメスだってわかったね」私も驚いた。
女の子をメスという言い方は少しひどいと思ったからだ。
「彼女をメスと言ったらいけないでしょ。女の子なんだから」私が注意すると、君はどうしてか笑い出した。
私はどうして笑っているのかと訊いた。「いや、だって死んだの、メス猫だよ。まあ、笑ったらいけないけど…」そういえば時々見るのだった。
君の庭に時々寝転がって気持ちよさそうに日向ぼっこをしている黒猫のことを。私はそこらへんにるただの猫かと思っていたが、彼によると野良猫だったらしい。
「どこにも行くところがなかったみたいだから僕が世話をしていたんだけど…今日の朝、庭を見たらいつものように日向ぼっこをしていたんだ。もう、息をしていなかったけど」
彼は昔を振り返るような目で空を眺めた。
私はもう何も言わなかった。いえばいうほどダメージを食らわせると思ったからだ。
『私は』
とりあえず、この話は忘れて。
『…』