私+君‐私は不安になって来た
「どこにいるんですか?」私はその人に訊いた。
その人は少し黙ってから答えた。
「彼は、消えた」
私は目を見開いた。
「どういうこと?」私の目がこわばっているのは感覚的にわかる。
その人の表情は全く分からなかった。だが、無表情の可能性はある。
「彼はついさっきいた馬鹿に消された。焼きもちを焼いていたみたいだからね」その人は淡々と話した。
だが、嬉しそうにも悲しそうにも、怒っているようにも感じ取れなかった。ただ、話すだけの人に聞こえた。
「でもさっきは…」その人は頷いた。「ああ、彼は消えたさ。この世界ではね。現実では一切消えていない。ここも現実ではあるが、半分違う」
意味がさっぱり分からなかった。だが、君を取り戻す方法は、たった一つしかないことが分かった。起きる、ということだ。どこまで大変かはさっぱりわからない。
「ということは起きればいいの?」だが、その人は首を振った。「いいや、多分起きるのは難しいだろう。運任せなら試せるけど」ますます意味が分からなくなってき始めた。
「それなら…」その人は私の心を読んだかのように答えた。「ああ、帰る方法は数少ない。その一つは、彼を見つけることだ」“彼”というのが誰なのかはすぐにわかった。
私はそのまま店を飛び出していった。
「あらら、助けようとは思ったけど、まあ、あれを渡しておけばいいだろう」その人は部屋の真ん中にあった箱に向かって歩き始めた。
「飛び出したのはいいけど…どこに行ったらいいの?」私はきょろきょろとあたりを見渡した。
全く分からない。
と、そこへ、空から紙が舞い降りてきた。
その紙は魅力的に感じて、拾い上げた。
それは真っ白だった。何も書かれていない。
だが、舞い降りてきたということは何かのヒントになるのかもしれないと思い、そのまま持っておいた。
足を止めていては何にもならないと思ったので、私は歩き始めた。
すると、どうしてだろうか。さっきまで真っ白だった紙に、赤い線が現れ始めたのだ。
その赤い線はどうやら私の動きについて行っているようだった。
しかも、私を中心にしているようで、いくら遠くに言っても使えるようになっていた。結構便利だ。
「これを使えば迷わないということか…」それはポケットに入れて歩き始めた。
周りには誰もいない。空っぽの町、廃墟となった都市のようだ。
「何かバッグがいりそうだな…」私は近くの店に入ると、棚からちょうどいいバッグを手に取った。
お金を払おうかと思ったが、店員が誰もいないので払うも何も、することができなかった。
心細かったが、探すためだ。
「こっちはもう行った…こっちに行くか」私は地図を見ながら回っていた。
たったの数分歩いただけで、少し疲れてきた。
幼いころは運動を全くしなかったから、体力が全くなかったのだろう。
今でもそうだが、体が成長したおかげでもっと歩けるようになっていた。
「ちょっと休むか…」私が腰を下ろそうとしたとき、私が持っていたマップが勝手に飛び、私がすら割るところまで飛んでいった。
ちょうどいい椅子になってくれた。
横幅は小さかったが、十分だった。
『私は』
数分経つと、また歩き始めた。
『不安になって来た』