私+君‐私は震えていた
私はその夜、夢を見た。
とても不思議な夢だった。
別に現実と見分けがつかないわけではなかった。
どう考えてもこれは夢だ。
生き物が空を飛んでいたり、物が踊りまわっていたりしていた。
まるでワンダーランドだ。
ちょうど私の目の前を1匹の兎が通りかかった。
何かをぶつぶつつぶやきながら通り過ぎていったが、あまりにも凍えすぎて聞こえなかった。
実際の世界でもウサギは話さないから当たり前か、と思い、私は道路のど真ん中を歩き始めた。
そこには人間という存在がなく、他の動物しかなかった。
まるで人間以外の生き物が人間になったかのようだ。
そこには様々な生き物が歩き回っていた。
私は道のど真ん中を歩いていると鰐が運転しているトラックにひかれた。
だが、トラックは普通に私を通り過ぎていき、それは誰も気付かなかった。
どうやら誰も私のことが見えないようだ。
私は道を歩いていると、分かったことは数個ある。
この街は完全に私が住んでいた町だ。
だが、人間は存在しなかった。
その代わりにほかの動物たちが歩き回り、日本語を話していた。
私は試しに話しかけてみたが、向こうは私のことを見向きもしなかった。見えていないのだ。
ため息をつく以外何もできなかった。私は自分の声が聞こえる。
だが、他の生き物たちは私の声が聞こえないし、私のことが見えない。
しかも私は物に触ることができない。なぜか動くことはできるが、壁を触ろうとすると手がすり抜ける。
顔を壁に突っ込んでみると、目の前が真っ暗になった。
壁の中に頭を突っ込めばもちろん光が届かないから見えるはずがない。
その時思った。私は周りが見える。ということは光を取り込んでいるということだ。
まさかと思い、地面を見てみた。
足を上げてみると、そこには私の影があった。
もしも私が完全に透明なら影も何も見えるはずがない。
だが、私の足元には影が存在した。
壁に触れてみると手と壁の間には黒い手形が現れた。
どうやら私は完全にこの世界から切り離されたわけではないらしい。
だが、つい毎回誰かが現れると壁の中に隠れてしまう。
見つかったらどうなってしまうのか想像すると怖いのだ。
私はそのまま壁を伝って町から逃げ出して、山の上まで登った。
ここなら暗いし私の影も見つからないだろうと思ったからだ。
すると、横に一人の男性が座り込んだ。私に気づいている様子はない。
服装からして、山の上にいるホームレスだ。
その時気付いた。なぜこの世界に人間がいるのかと。
彼は空を眺めながらつぶやいた。「この世界は終わった」
私はつい声を出してしまった。「え?」ホームレスは私に答えた。
「この世界からは人間が取り消された。残ったのは数人だけ、だが彼らも長くは生きることができないだろう。僕もそうだ。」
私はあっけに取られて何も言わなかった。「なんで人間は消えたのですか?」私は無意識に訊いていた。だが、なぜか聞こえているようだ。
「自然が勝った。僕たちはかき消された。君もあと数日で消えるだろう」私は目を丸くした。
手を見てい見ると、まだ大丈夫のように見えた。だが、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ、薄くなっていた気がした。
『私は』
私は消えていた。
『震えていた』