無名小説スライム編(44)
あの日から、ずっと真ん丸のまま転がっていた。
少し動くことはできたが、少しでも坂があれば転げ落ちてしまう。
頑張っても少し転げることができるだけだ。
今100メートル走をすれば、多分余裕で5分以上かかるだろう。
100メートルでも疲れるのだから。
坂があれば、結構速い速度で動くことができる。
だが、その問題は、操れないということだ。
一度動き始めればそのまま動き続ける。
痛覚がないのはいいものの、目が回る。
気が付けば海底で転がっていることだってあった。
そういう時は、闇狼が駆けつけてくれる。
どういうわけか、俺のいるところがわかっているようだった。
今回も少し動く方向を間違えてしまい、坂を転げ落ちていった。
これは今までで何十回もあった。
無理もない。この状態は今まででもう1か月以上たっているのだから。
カレンダーなどがないので、実際に何日たったかは覚えていない。
時には動くので疲れ果てて、丸一日寝てしまったことだってあった。
少し転がっていると、何かぶつかった。
それと同じ時に奇妙な悲鳴が聞こえてきた。
俺はその方向を見ると、驚いた。
顔は回すことができるのでそれは便利だ。
多分体の中に顔があるんだと思う。
「竜だ!」俺は声を張り上げた。
「龍だ!」龍は声を張り上げた。
龍はため息をつくと、俺を持ち上げた。
「一体何をしたらこうなるんだ」どうやら龍にも理解ができないようだ。
俺も首をかしげた。「俺にもわからない。ただ、分かることといえばこんな状態がこれから何ヶ月も続くかもしれないということだ」
龍は俺の言葉に首を傾げた。相変わらず小さな体で小さな翼では、強そうには見えないが、多分強いのだろう。俺は見上げて初めに思いついたことを訊いた。
「それで、龍はどうしてここにいるんだ?こんなところにいちゃ、やばい奴らに狙われないか?」龍は少し考えてから答えた。
「まあ、狙われることがあればの話だけど」龍の視線をたどってみると、そこには闇狼がいた。
だが、いつものように近寄っては来なかった。「どうしたんだ?」俺は闇だを呼んだ。
だが、近づいてこようとはしなかった。警戒しているようにも見えたし、おびえているようにも見えた。
「なんで来ないんだ?」いつもだったらこっちに駆け込んでくる。
今回変わっていることとすれば、森のど真ん中にいることと、もう一つは…
「まさか、お前に怖がっているのか?」俺は龍を見て訊いた。すると、彼は頷いた。どうやらその通りのようだ。
俺はため息をついた。どうやら襲われる心配などないようだ。
「それならどうして俺には普通に感じ取れるんだ?」気になりすぎたので俺は龍に訊いた。
龍はもう考える仕草もしていなかった。龍は即座に答えたのだった。
「お前がただの馬鹿だからだ」俺はそう聞こえ、いらいらとした。
「い誰が馬鹿だ!」だが、多分本当のことなのだろう。
その後にマップを見てみると、ど真ん中にめちゃくちゃでかい青い丸ができていた。
これではマップの意味がなくなってしまう。
「まあ、そういうことだ」龍に言われ、俺はまた転がり始めた。
ほんのちょっとしたはずみで。「なんでまた―!」
龍と闇狼に追われたが、転がる速度のほうが速かったのだった。