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その夜、僕は夢を見た。
どんなのかは覚えていない。
だが、なぜか知っている人の夢だった気がした。
いったい何なのかはわからない。
だが、起きるともうほとんど忘れていた。
思い出そうとしたが、何一つ思い出せなかった。
誰か知っている人のような気がしたが、もう何一つ思い出すことはできなかった。
とりあえず僕は起き上がり、台所まで歩いていこうとした。
だが、起き上がろうとすると何か重いものが乗っていることに気が付いた。
僕は細い目でそれが何なのかを見てみると、そこには七海が寝転がっていた。
どうやら寝相がとても悪いようだ。寝始めた時はまっすぐだったのに九十度も曲がってしまった。
押しのけるのにはとても手間がかかった。
彼女は寝るのが天才なのか、いくらゆすっても声をかけても起きなかった。
やっとずらすことができて、立ち上がるとそのまま洗面台に向かった。
曲がり角を曲がると、声がかかってきた。「おはよう」そこには七海が立っていた。
僕は驚きすぎて尻もちを搗き、強く気の壁に頭をぶつけてしまった。
「いって~」僕は頭をさすった。「ごめんごめん、瞬間移動でここに来たんだけどね」
僕はじろりと七海をにらんだが、ため息をついた。「とりあえずもう脅かさないでくれ」
だが、その願いはかなうことがないだろうと心の中ではわかっていた。
「あら、二人とも、今日は速いわね」僕は首をかしげた。
いつも通りの時間に起きたはずだ。一応時間を見てみると、まだ五時だった。
外の太陽に騙されてしまったようだ。
僕はまたベッドに戻ろうか考えたが、面倒だったのでそのまま起きておくことにした。
顔と手を洗うと台所に行った。
そこにはもうご飯が置いてあり、湯気がもやもやと出ていた。
僕と七海、お母さんとお父さんが席に着くと手を合わせた。
「いただきます」いつもはすぐに食べていたが、お母さんに止められてやらないといけなくなった。
その幼さと気まずさは七海も同意のようだ。
どうやら昔からずっといたことにしただけで、細かくまでは設定できなかったらしい。
それがあの機械の弱点だ。と、僕は思った。
ただ、よかったのは何もなかった。
学校に行くと知らない友達ばかりで、今まで友達だった人は友達じゃなくなるし、クラスは変わっているし僕の成績は悪くなっているし僕がスキだった先生は去年出て行っているしでいいことなど何一つなかった。
あったとすれば学校一位の天才少年少女が僕の友達になったということだ。
その二人はオール五を毎回とっていて、学校では一番人気といってもいいだろう。
将来はどんな仕事にもつくことができるといわれているほどだ。
宇宙飛行士にだってソウル大臣にだってなれるかもしれない。
どんな期待をしてもおかしくないようの人だった。
僕は僕らと話すのは楽しかった。
初めはついつまを合わせるのが大変だったが、少し経つと普通に話すことができるようになっていた。
七海といえば一日目で学校ではなじんでしまい、いいことといえば違うクラスだったということだ。
もしも彼女が同じクラスだったとすれば問題しか起こらなかっただろう。
だが、彼女は変な道具らしきものをたくさん持っていた。彼女の思うがままだろう。
彼女は軽々と理屈をひっくり返して彼女が僕と同じ教室になるようしてしまった。
僕はめんどくさかったが、他の人たちから怪しまれたくはないので仕方なく受け入れた。というか受け入れざるを得なかった。
それから数日は何事もなく進んだ。彼女はほかの人たちとばかり話し、僕には話してこなかったのはとてもうれしいことだ。
だが、それはある日、変わるのだった。
「ねえ」彼女は僕を見てきた。僕の頭には嫌な予感しかしない。
今、僕らは屋上にいる。僕にとっては久しぶりだ。この数日、忙しくて上がってくる暇がなかった。
そこに、ほとんどの時は誰もいないので静かで落ち着くからそこにいる。
日向ぼっこに使うことだってある。「何?」僕は訊き返した。
とりあえず聞くことだけはしようと思った。
彼女はフェンスの先に振り向いてから聞いてきた。「学校って楽しいの?」
不思議な質問だった。そんなことを訊かれたことは今までの人生で一度もなかったからだ。
僕は少し考えた。別に楽しいというわけでもなかったが、面白いというわけでもなかった。
今まではそこまで友達がいなかったので特に友達関係で学校に来たいとは思わなかったし、勉強が嫌で来たくないとも思わなかった。
勉強なら言われたことをすればいいだけだ。勉強は学校でちゃんとしていれば普通に平均点以上は取れる。
もしも何かわからなければ先生に訊けば何でも教えてくれるし、今の時代では先生がわからなくてもインターネットで調べれば大抵なことはわかる。
だから、この質問は少し悩んだ。だが、考えた答えは意外と簡単だった。「まあ、どちらもないかな」彼女は不思議そうな顔で僕を振り向いてきた。
まあ当然だろう。普通なら勉強が嫌で嫌いというか、友達と一緒にいるから好きという。この答え方は多分聞いたことがないのだろう。
「そういえば七海はどこから来たの?」今度は僕が訊いた。彼女は少し考えたが、答えなかった。なぜか答える気がないかのようだ。
僕は少し気になったが、それ以上訊くことはしなかった。すると、そこへあの天才少年少女二人が現れた。「なんでここにいるんだ?」その一人・僕・斉木さいき弓田ゆみだが言った。
僕がいつも昼休みはどこで何をしているのか訊いたことがなかったが、どうしてここにいるのかわからなかった。前回の世界ではここに毎日来てたが見たことがないからだ。
「そっちこそなんでここにいるんだ?」僕もまた訊き返した。すると、僕らは同じ時に答えた。
「「ここが一番落ち着く」」それを聞いてもう一人・彼女・斉木さいき晴香はるかと七海が笑い出した。「「な、なんだよ」」僕らは彼女たちに向いてつぶやきをぶつけた。
二人の言葉は完全に重なっていた。どうやら晴香と弓田はまだ七海のことを完全に走らないようだ。
「「ここに君が来るのは意外だったよ」」完全に、重なってしまった。
少しの間重なっていたが、仕舞いにはその積み重なりが終わった。
「それで、」弓田は蓮太を真剣な顔で見てきた。僕は額に汗を表し、つばを飲み込んだ。
「な、何だ?」健太も視線を跳ね返した。
すると、弓田は健太から視線を外し、横を見た。「いったいどこからあいつはスライムをとって来たんだ?」
横を見ると、そこには七海がスライムで遊んでいた。あまりにも長引きすぎて暇になったようだ。
だが、問題はそこじゃない。問題というのはさっきまでどこにも見当たらなかったということだ。
彼女の周りには箱もないし、あのスライムを空中から出したのだと思えるだろう。本当にそうだからだ。
僕はため息をついて七海の近くに行った。「その力は隠せといっただろう」どうやら、前に言ったのに聞いていなかったようだ。
はため息をついたが、もうどうにか理由を作っておくしかなかった。うまくそこを通り抜けると、もう七海はスライムを消していた。
そのことは2人とも気づかなかったようだ。
僕はそのままフェンス越しから遠くを眺めた。
ここはやはり涼しく、静かで穏やかだ。だが、それをほかの人たちが少し壊していたが。
うるさいしやかましいしうざいし。ここにいるときはいつも静かだった。今までは、の話だが。
だが、今は他の人たちがいる。だから少し変わってしまったようだ。少しうるさすぎる。
確かに学校で一番の天才と友達になれたのはうれしい。色々訊けるし。
だけど、正確がいいとは限らなかった。「ちょっとうるさいんだけど」僕は皆をにらんだ。
屋上にいるメインの目的が僕らのせいで粉々にされた。
だが、ここよりいいところはほかになかったので仕方なくここに残った。
「おい」僕はそれから数分で限界になった。
彼らは思ったよりうるさく、めちゃくちゃイラついた。
「黙ってくれる?」昼休みだけでも静かな部屋にいたかった。
授業はとても疲れる。これからもめんどくさい。
僕は七海をずるずるとずらして建物の裏に行った。
「静かなところは作ることができるか?」彼女は考えてから答えた。
「充分静かだと思うけど」だが、勿論少しうるさすぎる。
僕が欲しいのは完全な静かさだった。「まあそれならこれがあるけど…」彼女はヘッドホンを取り出した。
見せてもらうと、すぐにどうやって使うかを予想できた。
頭につけると、周りの音が聞こえなくなり、静かになる。そういう使い方だろうと僕は思った。
「違うよ」彼女は首を振った。「これは『音害おんがい』、音を害だとみなし、《・》|に音を聞こえなくする」
僕は首をかしげた。その違いが全く分からない。「ということは精神に問題が現れるんだ」
僕は目を点にした。「人間の耳は常に音を聞こうとする。だから何も聞こえないところではキンキンと音が鳴るでしょ?しかも自分の声が聞こえないからそれも問題」
少し考えることになった。確かに音が聞こえないと不便だ。だが、それでも音が聞こえないようにしたい。
「他に何か方法はないの?」彼女は少し頭を回した。「あれならあるかも」彼女は何かを思い出したかのように、指を鳴らし始めた。
ぽんぽんと何か道具が出てきたかと思うと、すぐに消えた。「これだ!」彼女はノリらしきものを取り出した。「これは『防音エリア』。角につければその中では音が聞こえなくなる。まあその改善方法といえばその四角から出るだけだね」だが、ふとまた何かを思い出したかのようにそのノリを消した。
「でもこれもダメ。これは高さを調整できないから屋上でやればその下でも音が聞こえなくなる。」
考えてみればそれは問題だった。もしも緊急ベルが鳴っても誰一人気付かないだろう。
彼女はジーッと考えてから手をポンと、あわせた。「あれならどうだろうか」彼女は指を鳴らすと、目の前に小さな箱が現れた。
それを開けてみると、その中には小さな薬が何個か入っていた。「これは『なりきり薬』、これを使えばどんなことでもできるかのように思える」
彼女は今回こそ満足していた。「まあもしも間違ったように使えば死ぬからそれは用心しておいて。空を飛べるとか願えばビルから飛び降りるからね。昔にそんなことあったから」
僕はつばを飲み込みながら受け取った。「それを飲み込んで何かを考えればそれになり切れる。例えば天才になり切り、運動抜群になり切り、世界でめちゃくちゃ有名になり切りとか。まあ、本当には何一つ変わってないけど。効果が現れるのはそれを使った人だけだよ」
僕はこれを飲んで、何も聞こえなくなったら、と願った。
すると、静かになった。何一つ聞こえなくて、とてもよかった。
「いいね」そういったつもりだが、自分の声も聞こえなかった。
彼女は手を鳴らすと、ペンと紙を取り出してきた。「それはなりきりだから何をしても本当に起きないと害はないよ」
だから何一つ聞こえなくてもいいのか、と僕は思った。
「それと、言い忘れてたけどそれの効果は1時間だから」
「え?」

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