人面機関車を見に行った話
鉄道旅の目的は、非日常感を味わうことだと思う。
いつも通勤や通学で使っている路線とは別の列車に乗って、いつもと違った車両で、いつもと違った景色を眺めるだけでも鉄分がみるみると補給されていく。
(さよならムーンライトながら)
……と言ってしまうと同業者の方々にしか賛同されない気がするが、非日常な鉄道の代表格、蒸気機関車なら非鉄オタ民でもロマンを感じる方は多いのではないか。
というか、鉄オタよりもむしろ一般人の方が「SLに乗りに行こう」と旅を計画することが多い気がする。特に子供のSL人気は凄まじく、行楽シーズンの車内は鉄オタの方が場違いになるレベルだ。
そんなSLが毎日運行しているのが大井川鉄道(大鉄)だ。
大鉄はSLのみならず普通列車も昭和レトロな車両が充実しており、乗れる博物館と化している。今回はそんな大鉄に遊びに行ったお話。
始発列車で都心へ向かう
全体の旅程は比較的ゆったりしているのだが、少ない列車の本数に合わせて行動するため局所的にかなりタイトな部分が存在する。特に出発時刻はEL急行に乗るため始発のこだまで出ないと間に合わない。そんなわけで朝の4時半頃に家を出る。
以前の記事でも述べたが、私の最寄り駅からは新幹線のぞみの始発には大手町から7分の全力ダッシュを成功させないと間に合わない。(机上の空論)
その一方でこだまの場合は30分ほど余裕があるため、駅構内で駅弁を買うこともできる。ただ、いずれにしろ最寄り駅を始発で出ることに変わりはない。
ちなみに今回は一人旅ではなく、サークルのメンバーとOBOGの方々がわちゃわちゃ参加する大所帯となっている。OBの内の1人が大鉄に就職してしまうほどの大鉄ファンということで、今回の旅程は「モデルコースとして広めても良いのでは?」というほどのレベル。
大鉄に乗車
車で大鉄にアクセスする場合は新金谷がターミナルとなるが、鉄道の場合は東海道線と接続する金谷駅から乗ることになる。
新幹線からは静岡の次の掛川駅で在来線に乗り換えるが、ここの乗り換え時間は2分というなかなかのタイトさだった。
そんなこんなで金谷駅に到着。すでにEL急行がホームで待っていた。SLは転車台の関係で新金谷始発だが、ELは金谷まで来てくれる。
客車は2両だが、朝イチということもありガラガラ。しかも1両は電気系統の不具合で照明も扇風機も稼働しないというトラブルに。なんか東南アジア感あるな。
普通列車も魅力に溢れている。近鉄の特急列車や……
南海電鉄のズームカーなど。
大鉄はその名の通り大井川に沿って走っていくため、車窓は変化に富んでおりなかなか楽しめる。
川根温泉笹間渡駅で下車。なんと牽引していたのは元西武の機関車だった。
ちなみにSLや他のEL急行の補助機関車としても運用されており、前も後ろも元西武車という運用も見かけることができる。
撮り鉄
さっそく川根温泉へ行く……はずもなく、近くの橋で撮り鉄開始。
河川の柱が片側だけにあるから、かなり良い感じの写真が撮れる。
そしてしばらく待機していると遠くから汽笛の音が!やってきたのは……
なんと人面機関車。
わりと長編成にも関わらず、かなりの乗車率だった。子供人気、恐るべし。
SLが走る路線は少ないながらも全国に存在するが、人の面がついているのはここだけである。
その後は普通列車で塩郷駅へ。
近くにある塩郷の吊橋へ。
これはけっこうスリルある。
しばらくすると今度はリアルのSLが。(人面機関車がニセモノというわけではない)
う~む……ちょっと架線が邪魔だったかな。
ちなみに線路は吊橋の真下を通るため、SL通過時には自ら燻製にされる新感覚アトラクションを楽しむことができる。
さらに奥地へ
大井川本線は千頭駅で終点となるが、ここからは井川線というトロッコ列車が奥へ伸びている。
トロッコ列車ゆえにかなり小柄だが、実は線路幅は普通列車と変わらなかったりする。
初日は時間の余裕がなかったため、途中の奥泉駅からバスで寸又峡温泉の宿に向かった。
寸又峡への道はかなり狭い上にグネグネ、おまけに崖から転落すると即死というなかなかの恐怖アトラクションである。バスを巧みに操る運転手さんの運転技術には脱帽。……が、一度だけガードレールにガッツリ車体をぶつけていたのを目撃してしまった。
翌日
この日は井川線めぐり。
堂本駅から大井川に無理やり降り、寸又川が合流するところで撮影。
このあたりまで上流に来ると川の色は完全にエメラルドグリーンになる。
この色になるのはチンダル現象によるものらしい。
チンダル現象と言えば雲や木々の切れ間から光が差す薄明光線を連想する人が多いかもしれないが、大きめの粒子を含む水中においても起こる現象だ。
というか、そもそも大学受験の知識ではチンダル現象は石鹸水などのコロイド溶液とセットで出題されることが多いため、逆に薄明光線がチンダル現象であることを知らない理系の方もいるかもしれない。
井川線の名物の一つが、アプトいちしろ~長島ダム間のアプト式区間だろう。この区間は90パーミルという急勾配を登るためにアプト式と呼ばれる方式が採用されており、2本の線路の間に歯型のレールが敷かれ、歯車を付けた専用の機関車で牽引する。
写真の左側の部分が90パーミルの坂道で、トンネルを挟んだ右側は勾配なしだ。
登りきるとこんな感じ。上の写真と比較するとわかりやすいと思う。
車内からはこんな感じ。窓枠とダムの景色を見ると明らかに傾いているのが実感できる。
ダムも迫力があって良い感じ。ダム好きの方々にもおすすめだ。
接岨峡温泉駅で下車。温泉駅と言いつつ、大きな温泉施設があるわけではない。
2kmほど歩いて関の沢展望台へ。
ここから対岸の山中を走る井川線を撮影。かなり望遠なのに動画にしていたため、画質は残念なことになった。
井川線乗りつぶし
その後は乗り鉄に移行。終点の閑蔵まで乗り通す。
井川線本来の終点は1駅先の井川だが、当時は土砂崩れか何かで閑蔵が終点となっていた。
本来の終点ではないものの、終着駅感がすごい。
とても良い雰囲気。
しばらく楽しんだ後に折り返しの列車に乗車。
有名撮影地である奥大井湖上駅で下車。雑誌などでもよく取り上げられる景色だが、とても日本とは思えない異国感が放たれている。
ちなみに今回は駅から頑張って歩いたが、バスを利用したほうがアクセスは良い。というか、井川線全線にわたって並走するバスのほうが所要時間的に有利だ。
その後は宿へ行って2日目は終了。前日に泊まった宿とは別の所へ行った。星がかなり綺麗だ。
少し余談になるが、大鉄ファンのOBに対して都庁に勤めているエリートの方が「延々と窓の数を数える仕事をしていて辛い……大好きな鉄道に関わる仕事を選ぶべきだった」と嘆いていたのが印象に残った。
最終日
そんなわけで最終日。この日は軽く井川線を散策した後に千頭に戻り、SLに乗車。
ちなみに乗車したC56形44号機というのは、大戦中をタイで過ごし、戦後に一度廃車となるものの奇跡的に日本への帰還を果たすという面白い経歴の持ち主だ。興味があったらぜひ調べてみてほしい。
帰りは在来線で静岡へ。
静岡からは高速バスで新宿へ向かう。
疲れが溜まっていたこともあり、静岡出発後すぐに爆睡。起こされて目を覚まし「サービスエリアかな?」と思ったら新宿だった。体感時間としては新幹線よりも速い。
家に帰る頃には日付が変わっていたものの、無事に帰宅して終了。
おわりに
そんなこんなで、大鉄を楽しみ尽くした3日間となった。
ちなみに大鉄とは例のOBの関係もあってこの後もいろいろとご縁があり、半年ちょい後、閑蔵~井川間が復活した際にもう一度訪れていたりする。
記事の中でも二度目に訪れた際の写真がいくつかあるものの、動画をずっと回していたらバッテリー切れ&予備バッテリーが放電しきっていたというコンボを喰らったため、あまり写真は残っていない。
景色はやはり夏のほうが良いが、人が少ないという点では寒い時期に行くのも快適かもしれない。
……といったところで今回はここまで。
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