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弁護士が気ままに「半沢直樹2」を語る(第2話−後編−) 〜金融グループ内の利益相反管理体制その他〜

電脳雑伎集団とSpiralを当事者とする東京中央銀行と東京セントラル証券との代理戦争という構図が固まった第2話。感想があまりに長くなりすぎて前編と後編とで分けさせて頂きました。前編では伊佐山陣営に焦点を当てましたが、後編ではチーム半沢の動きについてコメントしていきたいです(投稿が第3話放送直前になってしまいました。。)。

第1 東京中央銀行、電脳、フォックス、大洋証券による陰謀について

詳しくは、前編(一つ前の記事)をご参照ください。

前編では、Spiralからフォックスへの新株発行について当初半沢が気にしていた法的な問題点についての考察(不公正発行の問題)、及び半沢が広重に言った「あんたがやったことは犯罪だ!」についての解説(具体的な罪名についての問題)を行いました。

第2 東京セントラル証券のSpiralへの助言及び最終的な代理戦争の構図について

まさに犯罪的な計画を練ってきた伊佐山陣営ですが、アウトローさではチーム半沢も負けてはいません(笑)。そんな半沢ら東京セントラル証券側の動きで私が特に法的な観点から気になった部分を三点コメントしていきたいと思います。

(1)「電脳との間に取引がない状態」ならSpiralに助言できる?(利益相反の問題)

まず、Spiralに助言したそうにしていた森山に対して、半沢が「電脳とうち(東京セントラル証券)との間には取引がない状態だ。遠慮なくやれ。」と言っていましたが、果たしてそうでしょうか?

結論としては、東京セントラル証券が電脳に対して負っているであろう私法上の秘密保持義務の関係から、並びに金融商品取引法上の顧客に対する誠実義務及び利益相反管理体制の関係から、問題があると言わざるを得ません。

 (ア)私法上の秘密保持義務との関係

まず、秘密保持義務との関係では、解除されたとはいえ電脳と東京セントラル証券とはSpiral買収の件でアドバイザリー契約を締結していたのであり、解除前に電脳側から東京セントラル証券に開示された情報は同契約上の秘密保持義務の対象になっています。そして、通常、同契約上の秘密保持義務については、契約自体が解除された場合でも一定期間は効力が続くよう規定されています。東京セントラル証券がSpiralに助言を行う際、この情報を用いることは不可避と思われますので、電脳に断りもなくSpiralへの助言を行ってしまうと、契約違反になってしまいます。

もっとも、弁護士の立場から最大限半沢らの行為を正当化するとすれば、そもそも本件で電脳から開示された情報は、劇中に描写された通り、Spiralを買収したいという意向のみで、それが公開買付の開始によって公知のものとなった現在、東京セントラル証券が電脳に対して秘密保持義務を負っている情報など存在しないという反論は可能かもしれません。

 (イ)金商法上の誠実義務及び利益相反管理体制との関係

そうだとしても、次に、金融商品取引法上の顧客に対する誠実義務(金商法36条1項)及び利益相反管理体制(金商法36条2項、金融商品取引業等に関する内閣府令(業府令)70条の4)の問題があります。

金商法は、「金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。」と規定しています(金商法36条1項)。ここでいう「顧客」に今回のような現在取引関係のない元顧客が含まれるかは法文上明らかではありませんが、少なくともM&Aアドバイザリー業務のように買収者・被買収者で利益が対立する当事者が存在する場合、過去に当該業務を遂行した件と同一の件との関係では、引き続き「顧客」として扱うべきでしょう。顧客からすると、仮に契約が途中で解除されたとしても、その後に証券会社が対立当事者の利益になるようなことはしないだろうという信頼があるはずで、証券会社としてはその信頼を裏切ってはならないと考えられるためです。そうでないと顧客は安心して証券会社を頼ることができなくなってしまいます。そうすると、東京セントラル証券がSpiralに助言を行うためには、あらかじめ電脳の同意が必要だったことになります。

また、金商法は、証券会社(東京セントラル証券)に対して、自身又はグループ内の他の金融機関等(東京中央銀行)が行う取引に伴い、証券会社が行う金融商品関連業務(なお、M&Aアドバイザリー業務は、金商法36条2項、業府令70条の3、及び金商法35条1項11号により、この金融商品関連業務に含まれます。)に係る顧客の利益が不当に害されることのないよう当該金融商品関連業務に関する情報を適正に管理し、かつ、当該金融商品関連業務の実施状況を適切に監視するための体制の整備その他必要な措置を講じなければならないとの義務を課しています(金商法36条2項)。この体制を利益相反管理体制といいます。なお、銀行(東京中央銀行)に対しても、自身又はグループ内の他の金融機関等(東京セントラル証券)が行う取引に関して、同様に、利益相反管理体制を構築する義務が銀行法によって課されています(銀行法13条の3の2第1項)。

これを踏まえると、東京セントラル証券は、同社の中だけで見ても、(元)顧客である電脳と現顧客であるSpiralとの間で買収者・被買収者という利益相反が生じているため、利益相反管理体制に基づき、それぞれの利益が不当に害されることのないよう必要な措置を講じる必要があります。更に、グループ全体で見れば買収者・被買収者という利益相反関係にある電脳とSpiralのためにグループ内の銀行と証券会社がそれぞれ取引を行っていることになりますので、東京セントラル証券からすれば、東京中央銀行が電脳のために行う取引に関して、自らの顧客であるSpiralの利益が不当に害されることのないよう「必要な措置」を講じる必要があり、東京中央銀行からすれば、東京セントラル証券がSpiralのために行う取引に関して、自らの顧客である電脳の利益が不当に害されることのないよう「必要な措置」を講じる必要があります。

これら「必要な措置」の具体的な中身ですが、利益相反管理体制は、各金融機関がそれぞれの内部規程によって独自に策定しているので、厳密には不明です。しかし、今回のように買収者・被買収者という対立する両当事者のために業務を行う双方代理型の利益相反については、仮に案件を進めるとすれば、それぞれの顧客のために業務を行う各チーム間で人員及び情報の交流を遮断するのは当然のこと、それに加えて、利益相反状況を開示した上で双方の顧客から同意を得る必要があるという規定になっているものと思われます。かかる観点からも、東京セントラル証券がSpiralに助言を行うためには、あらかじめ電脳の同意が必要だったことになります。

このように、「電脳との間に取引がない状態」なら遠慮なくSpiralに助言できるかと言えばそんなことはなく、双方の顧客からあらかじめ同意をとっておく必要があったといえます。Spiralは既に事情を知っていたので問題ないですが、電脳に断りがなかったのは問題でしょう。

(2)「それは流石にまずい」三木の行為(利益相反管理体制違反、不正競争防止法違反)

このような利益相反状況が生じている中、第2話では、同意の有無ではすまないような大問題まで生じてしまっています。半沢からも「それは流石にまずいんじゃないか?」と言われた、三木による買収計画の無断撮影と半沢らへの送付です。

第1話の感想で、銀行と証券との間のファイアーウォール規制との関係では、証券から銀行に対して情報共有を行い、銀行から電脳に対して案件提案を行うこと自体は、所定の手続きを踏めば可能ということをお話ししました。これは、当該情報共有を行っても、利益相反の問題が生じない状況(電脳としては、証券からも銀行からも自らの利益になる提案をしてもらえるというだけ)だったからです。

他方で、今回(第2話)のように、電脳に銀行、Spiralに証券がそれぞれついて代理戦争になっている場合、上記(1)で見た通り、利益相反状況が生じていますので、双方の顧客が同意をしていてこの構図自体が許されると仮定したとしても、銀行と証券それぞれが業務を遂行する中で、相手陣営(銀行にとって証券、証券にとって銀行)の行為によって自らの顧客を害することがないよう各チーム間で人員及び情報の交流を遮断する必要があります。これは所謂ファイアーウォール規制の問題ではなく、利益相反管理体制の問題です。三木は、東京中央銀行の買収計画を撮影し、半沢ら東京セントラル証券のチームに漏洩していますが、上記の利益相反管理体制に基づく遮断措置はまさにこうした行為を防ぐために必要とされているものですので、三木の行為は明確にこれに違反していることになります。

のみならず、施錠されている伊佐山のデスクを無断で開錠(=「管理侵害行為」)して買収計画(=「営業秘密」)を撮影(=「取得」)している点、しかもその目的には伊佐山の信用を失墜させること(=「営業秘密保有者に損害を与える目的」)が含まれていたことからすると、三木の行為は、不正競争防止法21条1項1号違反の犯罪行為(十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金、又はその両方)に当たることになってしまいます。

個人的には、東京03好きなこともあって(笑)、角田さん演じる三木のキャラはすごい気に入っていますが、やっていることはかなりやばめです。

(3)「双方の顧客が納得したらそれで良い」?(レピュテーショナル・リスク管理)

最後に、ドラマでは「それぞれの顧客がベストと信じる相手にアドバイザーになってほしいと依頼してきた場合、それに応えるのが使命です。」という半沢のセリフで、頭取や副頭取も承認のもとで代理戦争の構図が肯定されました。

これまでコメントしてきた通り、仮に東京セントラル証券がSpiralのアドバイザーになることについて電脳があらかじめ同意しており、銀行と証券それぞれの利益相反管理体制もしっかりしている前提であれば、そうしたことも可能になるかもしれません(実際は、どちらもできていなかったわけですが(笑))。

しかし、果たしてそれで良いのかというと、現実にはレピュテーショナル・リスク管理の観点からは、厳しいのでしょうね。金融庁の監督指針(法律のように違反して直ちに違法になるものではないものの、金融庁が処分・監督を行う際の基準が書いてあるものなので、銀行や証券会社も常にチェックしているガイドラインです。)においても、利益相反管理態勢を整備するにあたっては、同一金融グループにおけるレピュテーショナル・リスクについても配慮する必要があると明記されています。

つまり、仮に各顧客が納得していて利益相反管理体制も万全だったとしても、会社に対する評判(レピュテーション)という観点からは、「この証券会社は元顧客を裏切るのか」、「このグループはグループ内での連携すらとれないのか」といった悪評が立つ恐れがあり、当該リスクに配慮する必要があるのです。そうした悪評に対して正当な反論ができるのか、又は悪評を受け入れてまで案件を進めることを正当化できる理由があるのか、判断が求められるわけですが、現実的にはGOが出るとは思えません。


さて、今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。ところで、頭取の強力な後ろ盾のもと、途中で大和田に潰されさえしなければ未来があるだろうという希望を持って見れた前作とは打って変わって、今作の半沢は焦土作戦かと思うほど狂気じみてきましたね。銀行に勝っても未来はあるのか?第3話以降もますます目が離せません。

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