漫画家コトヤマ先生の作品は何故か心に刺さる
『だがしかし』、『よふかしのうた』のコトヤマ先生の描く女の子はずるい。
艶っぽいような絵ではないが、そのどろっとした瞳がどうにもこうにもたまらない。
そして女の子だけでなく漫画全体を包む空気感も極上のものがある。
だがしかしについて
実家が駄菓子屋さんの主人公の話。
駄菓子が好きなお嬢様とか、主人公のことを好きな女の子とか色々ダメな女の子とか男の子とかが出てきて駄菓子を解説するスローライフ漫画。
なんと言っても登場人物が楽しそうなのがいい。駄菓子について語っている姿も、遊んでいる姿も何もかもが楽しそうで読んでいて気持ちがいい。
露骨なお色気シーンではないがシャツのボタンの隙間から見える下着や汗や水での濡れ透け描写など男がちらりと見てしまう日常に潜むエロの描写が非常に上手い。さらに主人公のムッツリ少年もその視線誘導にしっかり引っかかっているため、シンクロしている気持ちになれる。
主人公の故意ではないスケベイベントに少し罰が悪そうな、しかし嬉しげな表情がとても共感を誘う。欲にある程度忠実なのも好感度が高い。
ここまで書いたところで、この漫画は共感の演出と表情が上手いのだと気がつく。(もちろんそれだけではないが)。
これは以下で記述するよふかしのうたに通ずるものがある。
よふかしのうたについて
吸血鬼と吸血鬼になりたい少年の話。
第1話の、
「初めて夜に誰にも言わず外に出た」というセリフ。そしてそれに続く深呼吸で完全に心を奪われた。
壮大なことは何もなく、本当にただ自分の住むアパートから出ただけ。
ただそれだけのことが、小中学生の自分にとってどれだけ特別なことだったのか。
昼に普段歩いている道が違うものに見える。夜に家族で歩いていた時とも違う。
とにかく静かで、吸う空気そのものが別の世界に感じるような、そんな感覚だったことを僕自身覚えている。
雪が積もった夜には特別に澄んでハリがある空気を感じるが、それに近い感覚だったかもしれない
静かな分いつもは気にならない鍵の音や車の音、一つ一つの音が響く。
普段見ない人たちや、一人仕事の帰路につくスーツの大人。
自分の知っている大人たちは、自分が知らない時間にはこんなふうに道を歩き生活しているのかと、世界の秘密を知ったような気持ちになった。
そんな夜更かしの興奮を思い出させてくれる作品だ。
恋がテーマになっていることもあり、だがしかしに比べ血を吸ったり添い寝したりと直接的な異性関係をほのめかす描写が多い。
吸血鬼✖️思春期のため若干のオネショタ味もある。男が手を出さないラインを理解しておちょくってくる、こんな年上のお姉さんといじったりいじられたりしながら夜遊びをしたかったなと切に思う。
今やどちらかと言えば夜の住人になり、一人歩きをしても特別なものは何も感じなくなってしまった。
今日も0時近くまで仕事をし、スマホを見ながら周囲もろくに見ずに帰路につく。
1人歩く僕を見て、夜の世界へ踏み込んだ実感を得る少年がどこかにいるかもしれない。
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