検証対象
判定
不正確 (判定の基準について)
この資料はイギリスの医薬品・医療製品規制庁が2020年に公開した文書で、「ファイザーが新たに公開」したわけではない。文書は何度か改訂され、妊婦や乳児へのリスクに関する記述も現在では変更されている。
ファクトチェック
引用されている海外ユーザーのツイートでは、新型コロナワクチンについて「妊娠期間中には推奨されない」などとする英語の文書の画像とともに、「ファイザーが放出した5万ページの文書」「50年以上隠そうとしていた」などと述べている。文書の詳しい出所については述べられていない。
2020年公開の文書
しかし、実際にはこの文書は2020年12月にイギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が公開したもの(アーカイブ、PDF版)であり、「ファイザーが新たに公開した」のではない。
これはファイザー社とビオンテック社が共同開発した新型コロナワクチンの承認に関する一連の文書の中の一つで、医療従事者向けの注意事項がまとめられている。
ツイートで引用されていたのは以下の部分の記述だ。
以下に筆者訳を示す。
この時点では、検証対象のツイートで指摘されているような「妊娠中の接種は推奨しない」「授乳期間に接種すべきではない」に相当する記述は確かに存在している。
最新版の記述
しかし、新型コロナワクチンについての最新の研究を反映し、文書はその後も改訂が続けられいる。現在の最新版(2022年5月5日改訂)では、妊婦などのリスクに関する記述は以下のように変更されている。
筆者訳は以下。
つまり、現在の版では妊娠中の接種を一律的に非推奨とした以前の記述は変更され、ベネフィット(恩恵)とリスクを比較したうえで接種すべきか否かを判断するという柔軟な方針に改められている。授乳期間中の接種についても、非推奨とした記述が削除されている。また、動物実験の結果も当初より詳しく示されるようになった。
ロイター通信やAP通信の取材に対し、MHRAの広報担当者は「イングランドとスコットランドで既に10万4000人以上が1回以上の新型コロナワクチン接種を受けているが、ワクチンの安全性に対する懸念は生じていない」と述べている。
なお、日本では現在、妊娠中や授乳中の人を含め新型コロナワクチン接種を推奨している。
上述の海外ユーザーの「ファイザーが放出した5万ページの文書」「50年以上隠そうとしていた」という主張は、ファイザー製ワクチンの承認に関する文書の開示を求められたアメリカ食品医薬品局(FDA)が、その膨大さから毎月500ページ開示しても完了には55年かかると主張したことや、その後裁判所に毎月5万5000ページの開示を命令されたことが元になっている可能性がある。文書の一部は既に公開が始まっている。
結論
検証対象のツイートにある妊婦や乳児へのリスクに関する記述は、過去にイギリス当局が発表した文書として実在したものではある。しかし、「ファイザーが新たに公開」したわけではないし、当該文書は現在では改訂されている。全体として正確性を欠いていることから、「不正確」と判定する。
(大谷友也)
謝辞
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