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『閉ざされし水底』セルフライナーノーツ

 2023年10月29日、強欲で謙虚なイベント14で頒布したアルバム『閉ざされし水底』。イベントでの頒布と通販でCDの在庫が捌けたので、そのおまけとして無償配布したセルフライナーノーツをここに公開する。


1. 氷精の導き

モチーフは《氷水のアクティ》。
中華風の壮大なメロディは《大霊峰相剣門》のイメージ。
承影の許しを得た(《瑞相剣究》)アルバスたちは、アクティに導かれ氷水底を目指す。
3拍子の明るいメロディは、気まぐれな妖精のイメージと珍しい外の人間に浮かれているアクティのイメージ。中盤静かになるところからは、氷水底に近づいて空気が段々と冷たく、相剣門とはまた違う神秘的な雰囲気になっていく様をイメージしている。

2. 光射す水底

モチーフは《氷水底イニオン・クレイドル》。
前曲の静かなところの雰囲気を引き継ぎながら、可愛さを排除してより神秘的に、シリアスに。
グロッケンとチェレスタの8分音符のメロディで氷の冷たさを、ヴィブラフォンの8分音符と低音ストリングスの白玉で水の透明感を表現している。
後半のストリングスがメロディとして本格的に入ってくるところは、映画やゲームだったとしたらイニオンクレイドルにどんなBGMを付けるか? を想像しながら書いた。壮大さと息を呑む美しさを上手く表現できているだろうか。

3. あたたかな翠のゆりかご

モチーフは《氷水揺籃》。
イラストに写っているのはフルルドリスだが、エクレシアも同様の処置を受けたはず。次曲と順番を迷ったが、聖痕への処置を急いだものと考えてこちらを先にした。
Korg M1という、昔流行ったシンセサイザーがある。ピアノの音などは誰でも聞き覚えがあるような有名なシンセなのだが、その中でもこの曲に使われているようなカラカラと動きがあるパッドが個人的に好きで、母親の胎内のような浮遊感と癒やしの力があると思う。
この曲は、後半に入ってくるサイン波のメロディ以外は全てM1で作られている。冷たいはずの水に包まれているのにどこかあたたかい気持ちになれる、氷水揺籃を表現するのにピッタリのサウンドだと思う。

4. ユウレアヰト

モチーフは《氷水帝コスモクロア》。
Ureyiteはコスモクロア輝石の別名。コスモクロアのイラストのポーズがハープを弾いているように見えるという安直な理由からハープソロ曲になった。
「氷水にしてはよく笑う」コスモクロアを表現するため、穏やかで優しい長調の曲。途中で曲調が変化してシリアスになるのは、寿命が近いことなどの暗い要素を反映したもの。……なのだが、個人的な解釈として、コスモクロアは身体を思うように動かせないことや次代を幼いエジルに託すことに申し訳無さを感じることはあっても、自分の死についてはあまり悲観していないと思っている。とはいえ、頼れるリーダーであり母であるコスモクロアを喪う氷水たちの悲しみは計り知れない。先に逝く者と置いていかれる者、それぞれの心情を表現した。

5. 仁義なきGenocide

モチーフは《氷水浸蝕》。
この曲に関しては、noteで既に紹介記事を書いているのでそちらを読んでもらいたい。CD収録に合わせてマスタリングはやり直しているが、この曲について語りたいことは全て書いてある。

6. 劍在其背

モチーフは《氷水挺エーギロカシス》。
其ノ背ニ劍在リ、と読む。捜神記において、莫邪の夫・干将を殺した王に復讐するための剣の隠し場所を示した言葉。莫邪の息子は言葉を頼りに剣を見つけ、最終的には自分の命と引き換えに復讐を遂げることになる。
ここまでは元ネタの話、ここからがこの曲と遊戯王の話。悲しく烈しいピアノソロ×ブレイクコアで、莫邪が復讐心に染められ、氷水挺に変わっていく様を表現している。
少し専門的な話になるが、後半では属七同士の反復進行によって身体が否応無く氷水に変化していく異常を表現している。単に属七で繋ごうとするとメジャーの雰囲気になってしまいかねないので、小節の前半2拍は短七、後半2拍は属七とすることで曲調の絶望感を保ちながら反復進行の墜落感を出すことができた(属七とは、ここでは次のコードに進んで落ち着きたいという欲求が強いコードのこと。短七とはいわゆるマイナーコードのこと。予想に反して短七に着地したと思ったらまたすぐに属七になり、色々な調に飛ばされてどこに行っても落ち着けない状態になっている。最終的には元の調に帰ってきて解決し、莫邪は完全に氷水挺に変貌する)。

7. 貪食蛇龍Fáfnir

モチーフは《深淵の相剣龍》。
ニュースタイルガバだったTr.5からもう一歩野蛮なハードスタイルに。ハードスタイルは音作りが本当に難しく、過去の作品も悔いが残る仕上がりで苦手意識があったのだが、この曲はかなり満足できる仕上がりになったと自負している。Tr.5のチェロの主題を発展させて1つの曲に仕上げた。ゴルゴンダと融合して、かつてない力の漲りに調子に乗り倒した龍淵を表現している。

8. 氷剣纏いし復讐姫

モチーフは《氷水啼エジル・ギュミル》。
こちらもnoteの方で紹介記事を書いている。この曲に限らず、メロディがライトモチーフとして他の曲に現れるものもあるので、公開済みの曲も是非飛ばさずに通しで聴いてもらいたい。
あちらでしていないカードとしてのギュミルの話を少しすると、エジルの②効果とギュミルの①効果の対比が非常に良くできていると感じた。エジルの②は守ってもらうための能力(特殊召喚したモンスターの後ろに隠れているようなイメージ)、ギュミルの①効果は言わずもがな守るための力。もう何も奪わせないという決意を感じさせる、良いテキストだと思う。

9. さよなら

モチーフは《氷水大剣現》。
結末を哀しくも美しく彩るアートコア。エジル・エーギロカシス・龍淵それぞれを象徴する旋律が次々と現れ、混ざり合い、一つの音楽を形作る。
強大な力を持つ龍淵に押されるエジルたち。諦めかけたその時、亡き母コスモクロアの声が聞こえてくる……。我欲のままに暴れ続けた龍淵と、家族の遺志を背負うエジル・エーギロカシス。復讐者に堕ちて尚、絆の力で挑む彼女たちが、身勝手な暴力に負ける道理は無かった。

10. 閉ざされし水底

モチーフは《氷水帝エジル・ラーン》。
復讐を遂げ、破壊されたイニオンクレイドルにひとり佇むエジル。全てを失った虚しさ、寂しさ、氷に閉ざされていくエジルの心をピアノソロで表現した。
Tr.2,8のライトモチーフでエジルが新たな氷水帝になったことを表現している。「自身のカード名をイニオンクレイドルとして扱う」効果も意識している。

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