年次有給休暇取得時季の変更について

年次有給休暇(年休)は,労働基準法39条1項の要件を満たすと,法律上当然に発生する権利であり,請求して初めて生じるものではありません。

労働基準法39条1条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

なお,毎週1回だけ出勤するパートタイム労働者(アルバイトを含む)についても,年休の権利は発生し得ます(労基法39条3項)。

この既に発生している年休の権利に対して,労働者は,いつ年休を取得するかを請求します(いわゆる有給申請)。この年休の具体的な時期を指定する権利を「時季指定権」(同条5項)といいます。

労働基準法39条5条

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

※なお,年間5日の年休については,労働者が時季指定をしない場合には,使用者が時季指定をして当該年度内に年休を取得させるべきこととされています(労基法39条7項)。

労働者の時季指定権の行使に対して,使用者が,年休の具体的な時期を変更するためにあるのが「時季指定権」(同条5項)です。


年休の時季変更権

「事業の正常な運営を妨げる場合」の具体的な判断

使用者は,どのような場合に時季指定をできるのでしょうか。

電電公社此花電報電話局事件(最一小昭和57年3月18日)
電報取り扱いの各業務について欠員の場合は代行者を配置しなければ正常な業務運営が妨げられるような業務定員が定められている場合には,この定員を欠き,かつ年休請求時期の遅れで代行者配置が困難であれば,「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたる,とした2審の判断を支持しました。

なお,1審では,管理者や他の業務従事者が必要に応じ欠員者の業務を代行し結果的には正常な業務運営を確保したという事情を考慮していましたが,2審(及び最高裁)は,その様な応援により業務運営が確保されたという事情も上記結論を覆すものではないとしています。

代替勤務者確保義務

使用者が代替勤務者を確保しなければならない程度については,

・勤務割変更の方法や実情
・年休請求に対する使用者の従前の対応の仕方
・当該労働者の作業の内容や性質(代替の難易さ)
・欠務補充人員の作業の繁閑(それら人員による代替の可能性)
・年休請求の時期(代替者確保の時間的余裕の程度)
・週休性の運用の仕方(週休日の者を代替者にする可能性)

などの諸点を考慮して判断されます。
(電電公社関東電気通信局事件:最三小判平成元年7月4日)

なお,代替勤務者に対する交替要請の仕方は,現実の運用に即した個別的判断ではありますが,通常は同意の打診で足りるものであると考えられます。
(JR東日本事件:東京高判平成12年8月31日)。

しかし,恒常的に人員不足の状況であるからといって,代替勤務者の確保ができないことは問題です。恒常的人員不足の場合に,代替勤務者確保の配慮を尽くさないまま多数回に亘って行われた時季変更は違法とされています。
(西日本ジェイアールバス事件:名古屋高金沢支判平成10年3月16日)

長期休暇の請求の場合

長期休暇の場合には,それ相応の調整の難しさもありますので,使用者にある程度の裁量的判断の余地が認められ,時季変更権の行使が認められやすい可能性があります。

時事通信社事件:最三小判平成4年6月23日
報道記者が一か月にわたる24日間の連続的年休を請求したのに対し,会社が後半12日間につき時季変更権を行使した事例。

研修期間中の場合

この場合も,時季変更権の行使が認められやすいです。

日本電信電話事件:最二小判平成12年3月31日
当該研修等の内容,必要性,参加の非代替性,研修期間等を考慮して判断すべきであるが,研修自体に高度の必要性があり,参加が非代替的な場合は,労働者が研修を欠席しても予定された知識,技能の習得に不足を生じさせないと認められないかぎり,使用者は時季変更権を行使することできる。

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