アイルランドの好きな伝統曲: Paddy Fahy's(Jig)、須貝知世
この連載は日本のアイリッシュミュージシャンにアイルランドの伝統曲への愛を語ってもらう連載です。
第1回目はアイリッシュフルート・ティンホイッスル奏者の須貝知世さん。「Paddy Fahy's(パディー・ファーヒー)」というJigについて、曲との出会いや演奏するときに意識していること、大切にしていることなどを語っていただきました。
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須貝知世
語学留学でアイルランドを訪れた際その国と音楽に魅了され、2011年より日本にてアイリッシュフルートを学ぶ。翌年にはアイルランド国立リムリック大学大学院に入学し、伝統音楽シーンを代表する様々な奏者から直接指導を受け、日本人として3人目となる修士課程伝統音楽演奏科を修了する。
帰国後は ” na ba na ” をはじめ複数のユニットでライブを行うほか、小中学校への演奏を行うなど多方面で活躍中。
ソロの演奏では伝統的なスタイルを大切にしながら、歌い心のある音色づくりを心がけている。
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*以下がインタビューです。
質問者:城、回答者:須貝
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ーPaddy Fahy'sという曲はどこで知ったのしょう?
曲のことは以前から知っていたのですが、好きになったのは去年です。
Draíocht(ドゥリオクト)というMichael RooneyとJune McCormackのデュオの2ndアルバム「Land’s End」をずっと愛聴していて。Rooneyのソロで収録されています。
私は奏者の演奏スタイルが好きでその方が演奏する曲を覚えることが多いのですが、この曲もマイケルルーニーが好きだから動画を見ていたんですけれど、曲を聴いて、この曲そのものがいいなと思って練習しました。
ー曲名が「Paddy Fahy's」とありますが、パディー・ファーヒーズさんが作曲された曲でしょうか?
はい。パディー・ファーヒーさんは昨年亡くなられたフィドラーで、近代の作曲家の中で最も活躍された方の一人です。自分で作曲した曲に名前を付けられない方でした。Wikipediaに「"Draíocht" とよく表現される、独特の慕情や魔法のような質感を持っている」とありますがDraíochtというのはアイルランド語で「魔法にかけられた」という意味で、Michael RooneyとJune McCormackのユニット名にも使われています。
ーこの曲に持っているイメージはありますか?
Aパートでは低音をしっかり地に足を付けるように、Bパートでは高音で舞うように演奏しています。
ー舞うように?
舞っているイメージなんです、私の中で、花びらが。
曲を演奏する時に色や風景、花を思い浮かべることが多いのですが、この曲で言うと色のイメージは薄紫とピンクが混じったような。花は存在感のある花より、下の写真のような小花で。
なので演奏も、Bパートの高音部分は軽やかにふわっと演奏するようにしています。
ーこの曲のどんなところが好きですか?
まず私はG majorスケールの曲が好きな傾向があるんです。フルーターはそういう方が多いかもしれません。
Jigも好きで、Reelよりも音数が少ないのと、ゆったり演奏されることもあるので、メロディーを歌い甲斐があります。
ー歌い甲斐がある?
アイルランド伝統音楽の何が優れているかというと、リズムと、そしてメロディーが素晴らしいところ。だから、私はなるべく、メロディーを生かして、メロディーが浮き立つようにリズムも作りたいし、装飾も入れたい。Jigはそれがやりやすいんです。
ーメロディーで好きなところはありますか?
Aパートがレの音から始まっているんです。レソラシーソ、ドシソラシド、って、そこが好きです。低音を鳴らして這うようなところ。イーリアンパイプスの演奏からも影響を受けているのですが、「低いレ」をしっかり鳴らして演奏することがフルート演奏においても、この曲においても、演奏の核になるんです。
ー他には?
Aパートの前半、「レシレ・ドラド・シソシ・ラファレ」と、同じ音形で下がっていくところも好きです。
ーマニアック!笑 もう少しわかりやすいところだと?
Aパートの中で同じフレーズが出てくるのですが、単純で可愛らしいというか…笑
そういうところも好きです。同じパートの中でフレーズを繰り返す曲が好きなんです。
ー他には?
AパートからBパートへの変わり目で、メロディーが低い「ソ」の音から高い「ソ」の音へかけ上がるのですが、ここがキュンポイント。
ーキュンポイント笑
高音域が好きなのですがその中でも特にG(ソ)の音が好きで、キュンキュンする音なんです笑。私の中で。どの曲を演奏するときもすごく大切にしている音です。
この曲は駆け上がったBパートの頭の音「ソの音」が伸びてるんですね。ソの音が1拍の中に3つ入ってるんですよ。3つ同じ音が続いていると、ロールという装飾を入れたり、ソ〜と伸ばしたり、ソーソとカットしたりなど小さな変化を色々つけることができて。自分の好きな高音のソの音に加えて、いろいろなアレンジができるのがこの曲のポイント。
ーその他にキュンポイントはありますか?
Bパートの最初、先ほどふれた「ソーソ」の次の音、高音のシから下がっていく「シラソ」の部分。
Steph Geremiaさんにレッスンを受けたことがあるのですが、当時は高音を恐る恐る鳴らしていた私に「高音のシはsuch a beatiful momentなんだからもっと鳴らしていいんだよ!!」と言ってくださって。ステフさんが演奏する音を実際に聴いた時にその響きの美しさに感激して「もっと鳴らしていいんだ!」って思って、高音がすごく好きになりました。
ー高音の”好き”を伝えるために工夫されていることはありますか?
特に「シ」の音で強調するためにカットを入れます。でも、美しく響かせたいからカットをしているのであって、鋭さを強調したいわけではない。カットをして音を強調する代わりに音色は柔らかく太くしておかなきゃいけないと思っています。高音もふくよかに演奏して音を鳴らしつつ、カットも入れます。
カットは音がきつくなることもあり、その代わりにスライドを入れて抑揚をつける奏法もあって、私もバリエーションで入れることもあるのですがカットもたくさん入れてしまうタイプです。
ー大胆ですね!
University of Limerickでマスタークラスを受けた時にConal Ó Grádaさんに「highlightすべきところはどこか、その曲のどこが好きで演奏するかをちゃんと意識してその曲を吹くんだ」と教わってから曲へのアプローチの意識が変わりました。
アイルランドの奏者は祖父母や両親から教わっていたり、この地方の曲だからなどと曲に思い入れを持って演奏していたり、演奏スタイルもその人の生まれ育った場所から影響を受けています。でも私にはそういった背景がないので、違うバックグラウンドの私はどういうスタイルで演奏していけばいいか迷っていた時にこの言葉をいただいて。「メロディーを大切にして、いかに美しくチューンを吹けるか」を考えながら演奏しようかなと思い始めました。だから、一つ一つの曲に自分なりのキュンポイントがあって、アルバムの収録曲もメロディー的にグッと来るものを選んで演奏しています。
first solo album, Thousands of Flowers
ーとっても面白いお話でした。どうもありがとうございます!
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この他にもUniversity of Limerickのことや「自分の持っている花園」など、たくさん面白いお話を伺ったのですが、そちらは別の記事で公開予定です。楽しみにしててね!
*楽譜はThe Sessionsより
須貝知世
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SoundCloud https://soundcloud.com/tomoyo-sugai
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